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第一章 始まりの村
第五話 チートの前触れ
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村の外れの奥まった場所。
陽の光も差し込まない緑が生い茂った森の中。
俺は仕事が終わったアリスに錬金術の教えを請うていた。
「そこの線が重なってるとこ、少しだけズレてるからちゃんと書き直して」
キツめに指示を出して、アリスは切り株の上で踏ん反り返る。
その態度に少々イラっとしつつも、一言返事を返した後に言われた通り書き直した。
憎まれ口を叩きたいところだが、どうしてもと頼み込んだのだから何も言えない。
やっぱりこういう時は下手なプライドは捨てる。
「これでいいのか?」
足元の錬成陣を指差す。
アリスは一度じっくりとそれを見てから、もう一度切り株の上へと戻った。
「ちょっとだけズレてるとこもあるけど、まあ初めてにしては上出来ね」
そう言うと、小さなカバンの中から何の変哲もない小さな角材取り出し、こちらへと投げてきた。
「その角材を錬成陣の上に置いて、体内の力をバーっ! て錬成陣に注ぎ込むの。そのあとにブワーッ! てやって形を形成させてなんか適当に作ってみなさい」
「そんなんでわかるわけないだろ?!」
ルミカさんは今までにないくらいクスクスと笑っていた。
説明が抽象的すぎて分からない……
アリスは本当にめんどくさいという風にため息をついた。
「一回適当にやってみてダメだったら諦めなさい。素質が無いってことだから何回やっても無駄よ」
そこまで言われると、なにがなんでも成功させたくなる。
俺はとりあえず錬成陣の上に手のひらを置いた。
「体内の力をバーって錬成陣に注ぎ込むんだよな……」
「あまり無理はしないでくださいね」
ルミカさんが心配の声を入れてくれる。
身体の内側に意識を向けた。
熱い何かが体内を駆け回っているのを感じた。
それが血液なのか別の何かなのかは分からない。
だけど、その正体不明の力に意識を向けて、一気に外へと吐き出すイメージをした。
錬成陣に赤色の稲妻がほとばしる。
アリスの錬成の時は青色の光だった気がするけど、なぜ赤色の光なのだろう?
そんなことを考えていたら、アリスが切り株から立ち上がる音が聞こえた。
「ヤバい! 今すぐ逃げて!!」
「へ?」
叫び声が聞こえたからアリスの方を見やると、切り株の上にはもう誰もいなかった。
アリスは全速力で向こうへと逃げていき、ルミカさんは俺の腕を掴んだ。
「爆発します! とりあえず離れましょう!!」
「は、はい!!」
わけがわからず立ち上がり、錬成陣をほっぽり出してルミカさんと走った。
しかしルミカさんの方が走るのが早い。
掴んでいた腕はいつの間にか手のひらに移動していて、俺は引っ張られていた。
ドキドキする。
ルミカさんの温かい手のひらを直に感じつつ、ひたすら逃げた。
瞬間、すぐ背後から爆発音。
それが聞こえたと思ったら、次は突風が襲ってきて俺とルミカさんを飲み込んだ。
おそらく、逃げるのが一足遅かったんだろう。
「キャーーーー!!!」
気が付いたら、俺はルミカさんを抱きしめていた。
それは自分の生存本能なんかじゃなくて、ただ純粋に守ろうと思ったから。
ルミカさんを抱きしめたまま、爆風の中を転がり続ける。
木の幹に頭をしたたかと打ち付けたかと思えば、俺の意識は霞んでいく。
薄れ行く意識の中で、女の子を抱きしめながら死ぬのも悪くないと、そう思った――――
陽の光も差し込まない緑が生い茂った森の中。
俺は仕事が終わったアリスに錬金術の教えを請うていた。
「そこの線が重なってるとこ、少しだけズレてるからちゃんと書き直して」
キツめに指示を出して、アリスは切り株の上で踏ん反り返る。
その態度に少々イラっとしつつも、一言返事を返した後に言われた通り書き直した。
憎まれ口を叩きたいところだが、どうしてもと頼み込んだのだから何も言えない。
やっぱりこういう時は下手なプライドは捨てる。
「これでいいのか?」
足元の錬成陣を指差す。
アリスは一度じっくりとそれを見てから、もう一度切り株の上へと戻った。
「ちょっとだけズレてるとこもあるけど、まあ初めてにしては上出来ね」
そう言うと、小さなカバンの中から何の変哲もない小さな角材取り出し、こちらへと投げてきた。
「その角材を錬成陣の上に置いて、体内の力をバーっ! て錬成陣に注ぎ込むの。そのあとにブワーッ! てやって形を形成させてなんか適当に作ってみなさい」
「そんなんでわかるわけないだろ?!」
ルミカさんは今までにないくらいクスクスと笑っていた。
説明が抽象的すぎて分からない……
アリスは本当にめんどくさいという風にため息をついた。
「一回適当にやってみてダメだったら諦めなさい。素質が無いってことだから何回やっても無駄よ」
そこまで言われると、なにがなんでも成功させたくなる。
俺はとりあえず錬成陣の上に手のひらを置いた。
「体内の力をバーって錬成陣に注ぎ込むんだよな……」
「あまり無理はしないでくださいね」
ルミカさんが心配の声を入れてくれる。
身体の内側に意識を向けた。
熱い何かが体内を駆け回っているのを感じた。
それが血液なのか別の何かなのかは分からない。
だけど、その正体不明の力に意識を向けて、一気に外へと吐き出すイメージをした。
錬成陣に赤色の稲妻がほとばしる。
アリスの錬成の時は青色の光だった気がするけど、なぜ赤色の光なのだろう?
そんなことを考えていたら、アリスが切り株から立ち上がる音が聞こえた。
「ヤバい! 今すぐ逃げて!!」
「へ?」
叫び声が聞こえたからアリスの方を見やると、切り株の上にはもう誰もいなかった。
アリスは全速力で向こうへと逃げていき、ルミカさんは俺の腕を掴んだ。
「爆発します! とりあえず離れましょう!!」
「は、はい!!」
わけがわからず立ち上がり、錬成陣をほっぽり出してルミカさんと走った。
しかしルミカさんの方が走るのが早い。
掴んでいた腕はいつの間にか手のひらに移動していて、俺は引っ張られていた。
ドキドキする。
ルミカさんの温かい手のひらを直に感じつつ、ひたすら逃げた。
瞬間、すぐ背後から爆発音。
それが聞こえたと思ったら、次は突風が襲ってきて俺とルミカさんを飲み込んだ。
おそらく、逃げるのが一足遅かったんだろう。
「キャーーーー!!!」
気が付いたら、俺はルミカさんを抱きしめていた。
それは自分の生存本能なんかじゃなくて、ただ純粋に守ろうと思ったから。
ルミカさんを抱きしめたまま、爆風の中を転がり続ける。
木の幹に頭をしたたかと打ち付けたかと思えば、俺の意識は霞んでいく。
薄れ行く意識の中で、女の子を抱きしめながら死ぬのも悪くないと、そう思った――――
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