邪神討伐後、異世界から追放された勇者は地球でスローライフを謳歌する ~邪神が復活したから戻って来いと言われても、今さらもう遅い~

八又ナガト

文字の大きさ
7 / 32

第7話 菓子

しおりを挟む
 千代から差し出された袋を受け取った俺は、中身が気になったため訊いてみることにした。

「これは何だ?」
「わたくしたちが住む地域で有名な和菓子とお茶になります。ぜひ、お召し上がりください」

 返事をしたのは千代ではなく紫音だった。
 ――っていうか待て、菓子だと?

 勇者として旅をする中、一時的に滞在した貴族の館で食べたことがある。
 この世のものとは思えない甘さに、多大な衝撃を受けたものだ。


 それに菓子といえば、思い出せることがもう一つある。
 貴族の館にて、俺が菓子を気に入ったことに気付いたのか、その侯爵家の子女であるレリアナからよくお茶に誘われた。
 国一番の美少女と名高い奴だったんだけど……向こうからお茶に誘ってくる割には、いつもつまらなさそうにツンツンとしていた。
 恐らくは当主から指示を受け、勇者である俺を嫌々ながら侯爵家に囲い込もうとしていたんだろう。
 彼女には申し訳ないことをしてしまった。


 閑話休題。


 何にせよ、菓子がつまらない物だなんてとんでもない。
 この上ないお礼だ!

 俺がちらちらと袋に視線を向けているのに気づかれたのだろう。
 紫音は小さく笑った後、言った。

「アルス様さえよろしければ、そちらを食べながら、お話しいたしませんか」
「……そうするか」
「それでは、私がお茶をお入れいたしますね。紫音お嬢様とアルス様はそのままでお待ちください」

 立ち上がり、準備をする千代。
 しかしすぐに彼女は動きを止めた。

「どうかしたのか?」
「ここには水道がないので、どうしようかなと思いまして。お茶を淹れるにはお湯が必要なんです。近くに井戸や川はあったでしょうか……」
「湯が欲しいのか? なら――ウォーター、ファイア」

 魔法によって、瞬時に大量のお湯を作る。
 すると二人は目を見開いた。

 紫音が尋ねる。


「ア、アルス様、今何を? 術式が展開されたようには見えなかったのですが」
「術式? 魔法を使うのに、そんなものは必要ないだろう?」
「魔法? 一部の選ばれた人間にしか扱えない魔法を、アルス様はお使いになられるのですか?」
「ああ」
「すごいです……」


 紫音はキラキラとした目で俺を見つめてくる。
 向こうの世界では、誰もが魔法を当たり前のように使うため、ここまで驚かれるとは思っていなかった。
 まあ、俺が扱える魔法の種類が多いのは確かなんだけど。

 と、そんなことより、重要なことがある。

「それより、早く菓子を食べよう」
「は、はい。今お茶を淹れますね。……念のため、急須は持ってきておいて正解でしたね」

 千代は独り言を呟きながら、茶を入れてくる。
 向こうではあまり見ない、緑色をしていた。

 そしてお茶の横に置かれるのは、丸々とした小さな茶色い何か。
 これが菓子なのだろうか?

「これは何だ?」
「お饅頭です。そのまま素手で頂いても大丈夫ですよ」
「わかった」

 紫音から許可をもらったところで、ぱくり。

「――――!」

 その瞬間、俺の体に衝撃が走った。


 ほんの少し弾力がありつつも、スッと歯が通る柔らかさな食感。この生地だけでも格別の美味だが、中にあるざらざらとした舌触りのそれを噛むと、想像を絶する甘さが口いっぱいに広がり、圧倒的な満足感を得ることができた。
 続けて千代が淹れてくれた茶を飲むと、こちらは想像と違い苦みを感じたが、むしろその苦みが口の中をすっきりさせ、さらに饅頭が欲しくなるという幸福の永久機関を生み出していた。


「――美味い」

 感慨深くそう言うと、紫音はくすくすと笑って言った。

「お気に入りいただけたようで何よりです。たくさんございますから、好きなだけお食べください」
「じゃあ、ありがたく」

 その後も、饅頭という名の菓子を幾つか食した。
 それを食べ終えた後、紫音は何かを思い出したかのように口を開いた。

「そうです、アルス様に一つお聞きしたいことがあったのです」
「ん、なんだ?」
「一級災害指定妖魔を一瞬で討伐する圧倒的な腕前の魔術師など、これまで聞いたことがなかったのですが……アルス様はどちらの国の魔術師協会に所属されていらっしゃるのでしょうか?」

 一級災害指定妖魔、魔術師協会と、聞きなれない単語が幾つも出てきた。
 だが話の流れから、紫音が俺を、こことは違う国からやってきたと思っていることは理解した。
 正確には、別世界からなんだけど……。

 さて、問題はここでどう答えるかだ。
 本当はこちらの世界の住民には関わらず生きていくつもりだったのだが、こうなった以上、その考えを貫く必要はないのかもしれない。
 それよりも彼女たちからこの世界についての情報を集め、今後について相談に乗ってもらった方がよさそうだ。

 そう考えたのち、俺は言った。

「その魔術師協会とやらには所属していない」
「えっと、なら、どこでその力を得たのでしょう」
「こことは違う、別の世界でだ」
「――へ?」

 間抜けな声を漏らす紫音。
 隣に座る千代も、何を言っているんだコイツ、と言った目で俺を見てくる。

 そんな二人に対し、俺は元の世界であった出来事については隠しつつ、とある事情でこの世界にやってきたことを説明するのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

処理中です...