邪神討伐後、異世界から追放された勇者は地球でスローライフを謳歌する ~邪神が復活したから戻って来いと言われても、今さらもう遅い~

八又ナガト

文字の大きさ
22 / 32

第22話 血で血を洗う

しおりを挟む
 十分な休憩を取った後、さっそく魔法の特訓に入ることにした。

「次はとうとう魔法についてだな。今ので紫音は自分の魔力をこれまで以上に深く理解した。本質を知ったと言い換えてもいい」
「そうですね。なんだか不思議な気分です」
「なんにせよ、これで魔法を使うための条件は揃った」

 本来ならば、ここから年月をかけて魔力の扱いを学ぶのだが、紫音の場合、魔力の扱いに関しては現時点で優秀だ。
 なのでいきなり魔法の特訓に入ることができる。

「イメージしやすい炎からいくか。紫音。目を閉じて、頭の中でしっかりと炎をイメージするんだ」
「はい」

 俺の言う通りに目を閉じる紫音。
 そんな彼女に対して、語り掛けるように言う。

「燃え盛る炎。パチパチと火花が散る音。ゆらゆらと揺れる塊。肌を焦がすような熱さ。暗闇を照らす明るさ」
「…………」
「ゆっくりでいい。だけどしっかりとイメージするんだ」

 イメージだけで、じっくりと10分以上の時間をかける。
 そして、

「次は新たに知覚した、自分の魔力を取り出そう。本質を理解した今ならば、術式を経ずともそれを炎に変換することが可能なはずだ」
「燃え盛る炎……熱く、明るく、全てを照らす光――!」

 次の瞬間。
 紫音の両手の上に、赤色の炎が灯った。

 紫音はそれを見た後、驚愕に目を丸くする。
 集中力が途切れたからか、一瞬で炎は消えてしまう。 
 しかし、

「ア、アルスくん、今のって……」
「成功だな。よくやった、紫音」
「――アルスくん!」
「おっと」

 紫音は感極まったように、俺に向かって飛び込んでくる。
 少しだけ驚きつつも、彼女を受け止める。
 ふわりと舞う彼女の黒髪からは、なんだかあまい香りがした。

「やりました! まさか、本当に魔法を使えるようになるだなんて……アルスくんのおかげです!」
「……紫音のためになれたのなら、俺も嬉しいよ」

 この時、俺の胸の中には、これまでに抱いたことのない感情が沸き上がっていた。
 一言で言ってしまうなら、愛しさというものだろうか。
 自分を心から頼ってくれる紫音の姿を見て、心が満たされるような気分だった。

 だから思ったんだ。
 以前に紫音や千代から聞いたように、彼女を害する目的を持つ輩が本当に存在するのなら。
 なんとしてでも、そんな奴らからこの女の子を守り抜きたいって。


 そんな風に思ってしまったからだろうか。
 直後、その叫び声が響いた。

「お嬢様、アルス様、いらっしゃいますか!?」

 買い物に出かけていたはずの千代が、焦燥の表情でやってくる。
 俺と紫音は反射的に、バッと体を離した。
 ギリギリセーフ。抱きしめ合っていたのは千代にバレていないみたいだ。

 しかし、どうしたのか。
 これまで見たことのない千代の様子に、俺は不安を抱いていた。

「千代、どうしたのですか?」
「そ、それが、先ほど本家から連絡がありまして。以前、お嬢様に嘘の情報を教え、命を奪おうとした者たちについてですが――」

 ドクン、と。心臓が跳ねた。
 とうとうそいつらが動き出そうとしているのか。

 だけど俺は誓った。
 なんとしても、紫音を守り抜いてみせると。
 勇者として戦ってきた全ての経験を使ってでも!

 そしてここからは、血で血を洗う戦いが――


「――既に特定を終え、全員に処罰が下されたようです! ですから安心して本家に戻ってくるよう、旦那様がおっしゃっていました!」


 ――特に始まらなかった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

処理中です...