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第22話 血で血を洗う

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 十分な休憩を取った後、さっそく魔法の特訓に入ることにした。

「次はとうとう魔法についてだな。今ので紫音は自分の魔力をこれまで以上に深く理解した。本質を知ったと言い換えてもいい」
「そうですね。なんだか不思議な気分です」
「なんにせよ、これで魔法を使うための条件は揃った」

 本来ならば、ここから年月をかけて魔力の扱いを学ぶのだが、紫音の場合、魔力の扱いに関しては現時点で優秀だ。
 なのでいきなり魔法の特訓に入ることができる。

「イメージしやすい炎からいくか。紫音。目を閉じて、頭の中でしっかりと炎をイメージするんだ」
「はい」

 俺の言う通りに目を閉じる紫音。
 そんな彼女に対して、語り掛けるように言う。

「燃え盛る炎。パチパチと火花が散る音。ゆらゆらと揺れる塊。肌を焦がすような熱さ。暗闇を照らす明るさ」
「…………」
「ゆっくりでいい。だけどしっかりとイメージするんだ」

 イメージだけで、じっくりと10分以上の時間をかける。
 そして、

「次は新たに知覚した、自分の魔力を取り出そう。本質を理解した今ならば、術式を経ずともそれを炎に変換することが可能なはずだ」
「燃え盛る炎……熱く、明るく、全てを照らす光――!」

 次の瞬間。
 紫音の両手の上に、赤色の炎が灯った。

 紫音はそれを見た後、驚愕に目を丸くする。
 集中力が途切れたからか、一瞬で炎は消えてしまう。 
 しかし、

「ア、アルスくん、今のって……」
「成功だな。よくやった、紫音」
「――アルスくん!」
「おっと」

 紫音は感極まったように、俺に向かって飛び込んでくる。
 少しだけ驚きつつも、彼女を受け止める。
 ふわりと舞う彼女の黒髪からは、なんだかあまい香りがした。

「やりました! まさか、本当に魔法を使えるようになるだなんて……アルスくんのおかげです!」
「……紫音のためになれたのなら、俺も嬉しいよ」

 この時、俺の胸の中には、これまでに抱いたことのない感情が沸き上がっていた。
 一言で言ってしまうなら、愛しさというものだろうか。
 自分を心から頼ってくれる紫音の姿を見て、心が満たされるような気分だった。

 だから思ったんだ。
 以前に紫音や千代から聞いたように、彼女を害する目的を持つ輩が本当に存在するのなら。
 なんとしてでも、そんな奴らからこの女の子を守り抜きたいって。


 そんな風に思ってしまったからだろうか。
 直後、その叫び声が響いた。

「お嬢様、アルス様、いらっしゃいますか!?」

 買い物に出かけていたはずの千代が、焦燥の表情でやってくる。
 俺と紫音は反射的に、バッと体を離した。
 ギリギリセーフ。抱きしめ合っていたのは千代にバレていないみたいだ。

 しかし、どうしたのか。
 これまで見たことのない千代の様子に、俺は不安を抱いていた。

「千代、どうしたのですか?」
「そ、それが、先ほど本家から連絡がありまして。以前、お嬢様に嘘の情報を教え、命を奪おうとした者たちについてですが――」

 ドクン、と。心臓が跳ねた。
 とうとうそいつらが動き出そうとしているのか。

 だけど俺は誓った。
 なんとしても、紫音を守り抜いてみせると。
 勇者として戦ってきた全ての経験を使ってでも!

 そしてここからは、血で血を洗う戦いが――


「――既に特定を終え、全員に処罰が下されたようです! ですから安心して本家に戻ってくるよう、旦那様がおっしゃっていました!」


 ――特に始まらなかった。
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