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第一部 最弱魔術師から最強剣士への成り上がり
15 私のお兄様 1
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「そろそろですね、お兄様」
「そうだな」
私(わたくし)――ティナ・アートアルドとお兄様は、王都の北門でお父様の到着を待っていた。
私たちとお父様の関係は、正直なところ良好とはいえない。
お父様は魔術師としての才能に欠けているという理由でお兄様を認めていないからだ。
それ故か、お兄様とお父様の関係は険悪と言ってもいい。
家にいたころは、同じ食卓を囲んでいる時でさえ一言も会話しないことがほとんどだった。
常にお兄様の味方である私もまたお父様と気さくに話したりはしないものの、それでもいくらかはマシと言えるだろう。
次期領主として必要な振る舞いや知識については、お父様から教わらなければならないからだ。
お兄様とは違い、毎年この時期には帰郷している。
無論、私は今でも次期領主にふさわしいのはお兄様であると考えているし、お兄様がそう望むのであれば喜んで今の立場を譲るつもりだ。
ふと、疑問に思う。
私はいつからお兄様にここまで心を奪われたのだろうか?
確か記憶によるとその頃が、お兄様とお父様の関係が険悪になった時期とも被っている気がする。
お父様の到着を待つ僅かな時間、私は昔のことを思い出すことにした。
それは今から三年前。
学園入学を間近に控えた、私とお兄様が10歳だった時のことだった。
◇◆◇
私はティナ・アートアルド。
アートアルド子爵家の長女であり、歴代当主と比べても最高クラスに魔術の才能があると言われて育ってきた。
使用人や教師達からは、次期当主間違いなしと太鼓判を押されている。
そんな私には双子の兄がいる。
幼い頃は常に二人で仲良く過ごしていた。
けれど本格的に魔術の特訓が始まった時期を境に、少しずつ疎遠になっていくことになる。
お兄様には魔術の才能がなかった。
魔力の質が通常の人とは違い、体の外に放出することができないらしい。
それはつまり一切の魔術を扱えないということだ。
その事実が判明すると同時に、アートアルド家に関わりのある者たちの期待が全て私に向けられるようになった。
お兄様がそれにどのような感情を抱いたのか分からないが、私から距離を取るようになった。
私もまた、声をかけにくくなっていった。
「お兄様と、また昔みたいにお話ししたいです……」
自室で一人、内に秘められた願望を口にする。
本当は他の誰よりも、お兄様からすごいよって褒めてほしかった。
何でもない話をしたかった。
けれどもう、そのやり方も分からなくなってしまった。
「特訓、しなくちゃ……」
貴族として魔術の実力を高めることは必須だ。
今日は一人で特訓したい気分だった。
使用人などにも告げることなく館を出て、近くにある森にやってくる。
すると、ブンッ! という聞きなれない音がした。
音を立てずにそちらに近づくと、なんとそこにはお兄様がいた。
木の棒か何かを、一心不乱に振るっている。
その表情には鬼気迫る何かがあった。
「――――」
何故だろう。胸がきゅっと締め付けられるような感覚がした。
魔術が使えないお兄様は、必死にその代わりになるものを探しているんだろう。
魔術師相手にあんな武器を持ったところで何の役にもたたないことくらい、お兄様が一番よく分かっているはずなのに。
これ以上、私にはこの光景を見る資格がない気がした。
少し場所を変えて、改めて特訓を開始する。
今、私が練習しているのは詠唱破棄だ。
詠唱を短縮させても魔術を発動することはできるのだが、肝心の威力がすごく下がってしまう。
この振れ幅をできる限りなくさなくてはならない。
――決して注意を怠っていたわけではない。
しかし特訓に集中しすぎるあまり、私はそれの接近に気が付くのに遅れた。
「グルゥウウウウウウ!」
「えっ――ッ」
振り向くと、30メートル程先にいたのは赤黒い毛並みを携えた巨大な狼型の魔物――キングブラッドウルフだった。
Aランクに限りなく近い、Bランクの魔物!
普通だったらこの辺りにはCランクまでの魔物しか出現しないはずなのにどうして!?
戸惑っている暇はない。
早く対応しなければならない。
けれど魔物を相手する際に、30メートルという距離はあまりにも近く――
「其は日輪の下、天地凍えるは我が調べ――アイシクル!」
咄嗟に練習中の詠唱破棄で魔術を発動する。
私の足元から大地が高速で凍り付いていく。
そして氷の大地からは、幾つかの氷柱が生えキングブラッドウルフを襲う。
が――
「っ! きいてない!?」
威力が全く足りていなかったようで、僅かに皮膚を貫くにとどまる。
キングブラッドウルフは痛みすら感じていないのか、勢いそのままに襲い掛かってくる。
ああ、私は、ここで死――
「ティナ!」
――私の名を呼ぶ声がした。
直後、誰かに体を抱えられる感触と浮遊感がした。
私を抱えているのかが誰かはすぐに分かった。
「……お兄様」
私を絶望的な危機から救ってくれたのは、ずっと話したくて仕方がなかったお兄様だった。
「そうだな」
私(わたくし)――ティナ・アートアルドとお兄様は、王都の北門でお父様の到着を待っていた。
私たちとお父様の関係は、正直なところ良好とはいえない。
お父様は魔術師としての才能に欠けているという理由でお兄様を認めていないからだ。
それ故か、お兄様とお父様の関係は険悪と言ってもいい。
家にいたころは、同じ食卓を囲んでいる時でさえ一言も会話しないことがほとんどだった。
常にお兄様の味方である私もまたお父様と気さくに話したりはしないものの、それでもいくらかはマシと言えるだろう。
次期領主として必要な振る舞いや知識については、お父様から教わらなければならないからだ。
お兄様とは違い、毎年この時期には帰郷している。
無論、私は今でも次期領主にふさわしいのはお兄様であると考えているし、お兄様がそう望むのであれば喜んで今の立場を譲るつもりだ。
ふと、疑問に思う。
私はいつからお兄様にここまで心を奪われたのだろうか?
確か記憶によるとその頃が、お兄様とお父様の関係が険悪になった時期とも被っている気がする。
お父様の到着を待つ僅かな時間、私は昔のことを思い出すことにした。
それは今から三年前。
学園入学を間近に控えた、私とお兄様が10歳だった時のことだった。
◇◆◇
私はティナ・アートアルド。
アートアルド子爵家の長女であり、歴代当主と比べても最高クラスに魔術の才能があると言われて育ってきた。
使用人や教師達からは、次期当主間違いなしと太鼓判を押されている。
そんな私には双子の兄がいる。
幼い頃は常に二人で仲良く過ごしていた。
けれど本格的に魔術の特訓が始まった時期を境に、少しずつ疎遠になっていくことになる。
お兄様には魔術の才能がなかった。
魔力の質が通常の人とは違い、体の外に放出することができないらしい。
それはつまり一切の魔術を扱えないということだ。
その事実が判明すると同時に、アートアルド家に関わりのある者たちの期待が全て私に向けられるようになった。
お兄様がそれにどのような感情を抱いたのか分からないが、私から距離を取るようになった。
私もまた、声をかけにくくなっていった。
「お兄様と、また昔みたいにお話ししたいです……」
自室で一人、内に秘められた願望を口にする。
本当は他の誰よりも、お兄様からすごいよって褒めてほしかった。
何でもない話をしたかった。
けれどもう、そのやり方も分からなくなってしまった。
「特訓、しなくちゃ……」
貴族として魔術の実力を高めることは必須だ。
今日は一人で特訓したい気分だった。
使用人などにも告げることなく館を出て、近くにある森にやってくる。
すると、ブンッ! という聞きなれない音がした。
音を立てずにそちらに近づくと、なんとそこにはお兄様がいた。
木の棒か何かを、一心不乱に振るっている。
その表情には鬼気迫る何かがあった。
「――――」
何故だろう。胸がきゅっと締め付けられるような感覚がした。
魔術が使えないお兄様は、必死にその代わりになるものを探しているんだろう。
魔術師相手にあんな武器を持ったところで何の役にもたたないことくらい、お兄様が一番よく分かっているはずなのに。
これ以上、私にはこの光景を見る資格がない気がした。
少し場所を変えて、改めて特訓を開始する。
今、私が練習しているのは詠唱破棄だ。
詠唱を短縮させても魔術を発動することはできるのだが、肝心の威力がすごく下がってしまう。
この振れ幅をできる限りなくさなくてはならない。
――決して注意を怠っていたわけではない。
しかし特訓に集中しすぎるあまり、私はそれの接近に気が付くのに遅れた。
「グルゥウウウウウウ!」
「えっ――ッ」
振り向くと、30メートル程先にいたのは赤黒い毛並みを携えた巨大な狼型の魔物――キングブラッドウルフだった。
Aランクに限りなく近い、Bランクの魔物!
普通だったらこの辺りにはCランクまでの魔物しか出現しないはずなのにどうして!?
戸惑っている暇はない。
早く対応しなければならない。
けれど魔物を相手する際に、30メートルという距離はあまりにも近く――
「其は日輪の下、天地凍えるは我が調べ――アイシクル!」
咄嗟に練習中の詠唱破棄で魔術を発動する。
私の足元から大地が高速で凍り付いていく。
そして氷の大地からは、幾つかの氷柱が生えキングブラッドウルフを襲う。
が――
「っ! きいてない!?」
威力が全く足りていなかったようで、僅かに皮膚を貫くにとどまる。
キングブラッドウルフは痛みすら感じていないのか、勢いそのままに襲い掛かってくる。
ああ、私は、ここで死――
「ティナ!」
――私の名を呼ぶ声がした。
直後、誰かに体を抱えられる感触と浮遊感がした。
私を抱えているのかが誰かはすぐに分かった。
「……お兄様」
私を絶望的な危機から救ってくれたのは、ずっと話したくて仕方がなかったお兄様だった。
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