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第一部 最弱魔術師から最強剣士への成り上がり
14 試験の後で
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「結果は出たようね」
俺たちの勝利がアナウンスされた直後、観客席からアリアが飛び降りてくる。
誰もが憧れている学園長の登場に、一気に場が賑わい始める。
「ルークくん、ユナさん、おめでとう。これで貴方たちの実力は明らかとなりました。もう文句をつけてくる者もいないでしょう」
「そうでしょうか?」
剣技を見せた際の静寂を思い出す。
快く受け入れられたようには思えなかった。
そんな考えが読み取られたかのように、アリアはくすりと笑う。
「それは彼らがまだ貴方たちのような戦い方に馴染んでいないからでしょう。魔術師としては異端と言うほかないもの」
「なるほど」
「うんうん。その戦い方をした本人である私でもそう思うもん。皆はもっと思うはずだよ」
ユナがそう言うのであれば、それは本当なのだろう。
「何はともあれ、これで貴方たちは来期から第一学園の学生です」
言いながらアリアが手渡してきたのは、第一学園の制服だった。
そこでようやく、会場からまばらに拍手の音が聞こえてくる。
徐々に大きくなっていく喝采の中、俺とユナは丁寧に制服を受け取った。
アリアはその様子を見てこくりと頷く。
「貴方たちのこれからの活躍を期待しています――特に」
アリアの翡翠の瞳が、俺を射抜く。
その視線からは何かを訴えかけられているような気がした。
それが何か尋ねるよりも早く、アリアは踵を返し去っていく。
「……まあ、いいか」
何はともあれ、俺とユナの転入試験は無事に合格という結果で幕を閉じた。
「やっぱりお兄様は最強です!」
転入試験後、約束していた合流地点に辿り着くと、真っ先にティナが飛び込んできた。
「っと」
怪我をさせないように、その体を受け止める。
ティナはそのまま、口早に今日の試験について語りだす。
「お兄様の活躍、この目でしかと見届けました! 周りの愚かな者たちは何をしたか分からないなどとのたまっていましたが、私には一挙手一投足まで見えていましたよ!」
途中、かなりの速さで動いていたはずだが、それが本当ならティナにも相当な身体強化の才能があるかもしれない。
ユナに続いて、肉体言語で語る仲間を増やしておくべきだろうか?
「ね、ねえ、ルーク、ティナ。一応周りに人もいるんだから、落ち着こ?」
「む、そうですわね。お兄様にご迷惑をおかけするわけにはいきませんから」
先ほどまでの態度は何だったのか。
殊勝な物言いですっと姿勢を正すティナを見て、思わず苦笑してしまう。
「まあいい、とりあえず席につこう」
「はい、お兄様!」
「うん、ルーク」
王都にある中でも比較的、富豪向けの飲食店だ、
あまり騒ぎすぎるのはよくない。
現に今、すごく注目を浴びている。
まあ、どちらかと言うとティナやユナのような美少女に見とれている者たちの方が多い気はするが。
乾杯を終えると、さっそく今回の転入試験が話題になる。
「ユナが問題なく戦えたみたいで、ほっとしたよ」
「そうですね。特訓と本番は違いますから。慣れない力を自在に扱う様はとても素晴らしかったです」
「ありがとう、二人とも。でもあれだけ頑張って特訓したんだもん。むしろ本番の方が楽だったくらいだよ」
ユナの言葉を聞き、特訓時のことを思い出す。
魔心を体に纏うところまではすんなりとうまくいったが、問題はその後だった。
魔術師は通常、長距離から攻撃を仕掛けてくる。
だが、俺やユナのようなタイプは敵に接近しなければ攻撃することができない。
身のこなしを覚える必要があった。
そこで俺は魔力を循環させ、強力な身体強化を行うコツをユナに教えた。
これには才能も大きく関わるが、圧縮と固定の性質を持つユナの魔力にとってすれば非常に相性が良かった。
構え、踏み込み方、拳の振るい方。
格闘家として必要な技術を三日間のうちに叩きこんだため、本人としては非常に辛い日々となっていたみたいだ。
それでも特訓に耐え抜き成果を残すことができたのは、ひとえにユナの努力によるものだろう。
「私なんかより、ルークの方が凄かったよ。相手の八人のうち、七人も一人で倒しちゃうんだから」
「そうです、お兄様は素晴らしいのです!」
「なぜティナが誇らしげなんだ……」
ユナとティナはそう誉めてくれる。
だが実際のところ、向こうの世界で潜り抜けてきた修羅場に比べればぬるま湯も同然だった。
あの程度の実力者なら、千人束になってかかってこようと一蹴できるだろう。
そういう意味では、俺にとって一番の収穫は試験の結果ではなかった。
「ユナ、改めて礼を言わせてほしい。俺がこうして強力な剣を手に入れることができたのはユナのおかげだ。本当にありがとう」
「そ、そんな! 私なんて、ルークの言う通りに魔力を注いだだけだよ?」
「その魔力に価値があったんだよ」
そう、俺が試験で使用した剣。
その素材はロックドラゴンの鱗とユナの魔力だった。
ただロックドラゴンの鱗を削り作っただけでは、俺の戦闘スタイルに耐えきれずすぐに折れてしまうだろうと懸念していた。
だがユナの魔力は錬成に向いていた。
ユナに協力してもらうことで、通常の何倍もの強度を誇る剣を作ることができたのだ。
聖剣には遠く及ばないが、通常使用するものとしては問題ないだろう。
これで俺は自分の実力を発揮することができる。
改めて、ユナという少女に出会えたこと。
その幸運に感謝した。
「ところでユナはこれからの休暇どうするんだ? 皆みたいに家に戻るのか?」
「うん、そのつもりだよ。せっかく第一学園に入れたんだもん。お父様たちに報告しなくちゃ!」
嬉しそうに告げるユナの姿から、両親と良好な関係を築けていることが窺えた。
アートアルド家とは異なるみたいだ。
第二学園に入学して以降、もう何年も父と顔を合わせていない。
「ルークは? 報告しに戻ったりしないの?」
「……ああ、俺は――」
その言葉が最後まで紡がれることはなかった。
どこからともなく透明な鳥が現れたからだ。
その透明な鳥はティナの手に止まった後、一枚の手紙に姿を変える。
伝達魔術だ。
「ティナ、誰からだ?」
「お父様からのようです。お兄様が第一学園に入ることになったと報告したので、それの返事だと思います」
「ん? いや待て、伝達魔術ではアートアルド領に伝わるまで半日以上かかるだろう。試験が終わったのはついさっきだぞ」
「はい。ですので私はお兄様が転入試験を受けられると聞いた時に、知らせておいたんですわ」
「行動が早すぎる……」
ということは、三日前には既に父は俺が第一学園に入ることになったと思っているのか。
だからといって彼が何かを思ったり、特別な行動をしたりするとは思えないが。
そんな俺の予想とは裏腹に、ティナは告げる。
「ふむふむ、なるほど。お兄様、どうやらお父様はただいまこちらに向かっているらしいです」
「え? どういうことだ?」
「私とお兄様に会いにくるため、領地を出て王都を目指しているらしいです。三日後には到着すると書かれていますわ」
「なっ……」
これは予想外だ。
まさかこんな風にしてあの父と再会することになるとは。
いったい何を考えているのだろうか。
「そっか。じゃあルークたちは家に戻るんじゃなくて親が来てくれるんだね。よかったね、ルーク」
「……そうだな」
この場で家の事情をユナに伝える必要はないだろう。
とりあえず頷いておく。
そんな風にして、ユナは一時的に故郷に戻り、俺とティナは父の到来を待つことになった。
俺たちの勝利がアナウンスされた直後、観客席からアリアが飛び降りてくる。
誰もが憧れている学園長の登場に、一気に場が賑わい始める。
「ルークくん、ユナさん、おめでとう。これで貴方たちの実力は明らかとなりました。もう文句をつけてくる者もいないでしょう」
「そうでしょうか?」
剣技を見せた際の静寂を思い出す。
快く受け入れられたようには思えなかった。
そんな考えが読み取られたかのように、アリアはくすりと笑う。
「それは彼らがまだ貴方たちのような戦い方に馴染んでいないからでしょう。魔術師としては異端と言うほかないもの」
「なるほど」
「うんうん。その戦い方をした本人である私でもそう思うもん。皆はもっと思うはずだよ」
ユナがそう言うのであれば、それは本当なのだろう。
「何はともあれ、これで貴方たちは来期から第一学園の学生です」
言いながらアリアが手渡してきたのは、第一学園の制服だった。
そこでようやく、会場からまばらに拍手の音が聞こえてくる。
徐々に大きくなっていく喝采の中、俺とユナは丁寧に制服を受け取った。
アリアはその様子を見てこくりと頷く。
「貴方たちのこれからの活躍を期待しています――特に」
アリアの翡翠の瞳が、俺を射抜く。
その視線からは何かを訴えかけられているような気がした。
それが何か尋ねるよりも早く、アリアは踵を返し去っていく。
「……まあ、いいか」
何はともあれ、俺とユナの転入試験は無事に合格という結果で幕を閉じた。
「やっぱりお兄様は最強です!」
転入試験後、約束していた合流地点に辿り着くと、真っ先にティナが飛び込んできた。
「っと」
怪我をさせないように、その体を受け止める。
ティナはそのまま、口早に今日の試験について語りだす。
「お兄様の活躍、この目でしかと見届けました! 周りの愚かな者たちは何をしたか分からないなどとのたまっていましたが、私には一挙手一投足まで見えていましたよ!」
途中、かなりの速さで動いていたはずだが、それが本当ならティナにも相当な身体強化の才能があるかもしれない。
ユナに続いて、肉体言語で語る仲間を増やしておくべきだろうか?
「ね、ねえ、ルーク、ティナ。一応周りに人もいるんだから、落ち着こ?」
「む、そうですわね。お兄様にご迷惑をおかけするわけにはいきませんから」
先ほどまでの態度は何だったのか。
殊勝な物言いですっと姿勢を正すティナを見て、思わず苦笑してしまう。
「まあいい、とりあえず席につこう」
「はい、お兄様!」
「うん、ルーク」
王都にある中でも比較的、富豪向けの飲食店だ、
あまり騒ぎすぎるのはよくない。
現に今、すごく注目を浴びている。
まあ、どちらかと言うとティナやユナのような美少女に見とれている者たちの方が多い気はするが。
乾杯を終えると、さっそく今回の転入試験が話題になる。
「ユナが問題なく戦えたみたいで、ほっとしたよ」
「そうですね。特訓と本番は違いますから。慣れない力を自在に扱う様はとても素晴らしかったです」
「ありがとう、二人とも。でもあれだけ頑張って特訓したんだもん。むしろ本番の方が楽だったくらいだよ」
ユナの言葉を聞き、特訓時のことを思い出す。
魔心を体に纏うところまではすんなりとうまくいったが、問題はその後だった。
魔術師は通常、長距離から攻撃を仕掛けてくる。
だが、俺やユナのようなタイプは敵に接近しなければ攻撃することができない。
身のこなしを覚える必要があった。
そこで俺は魔力を循環させ、強力な身体強化を行うコツをユナに教えた。
これには才能も大きく関わるが、圧縮と固定の性質を持つユナの魔力にとってすれば非常に相性が良かった。
構え、踏み込み方、拳の振るい方。
格闘家として必要な技術を三日間のうちに叩きこんだため、本人としては非常に辛い日々となっていたみたいだ。
それでも特訓に耐え抜き成果を残すことができたのは、ひとえにユナの努力によるものだろう。
「私なんかより、ルークの方が凄かったよ。相手の八人のうち、七人も一人で倒しちゃうんだから」
「そうです、お兄様は素晴らしいのです!」
「なぜティナが誇らしげなんだ……」
ユナとティナはそう誉めてくれる。
だが実際のところ、向こうの世界で潜り抜けてきた修羅場に比べればぬるま湯も同然だった。
あの程度の実力者なら、千人束になってかかってこようと一蹴できるだろう。
そういう意味では、俺にとって一番の収穫は試験の結果ではなかった。
「ユナ、改めて礼を言わせてほしい。俺がこうして強力な剣を手に入れることができたのはユナのおかげだ。本当にありがとう」
「そ、そんな! 私なんて、ルークの言う通りに魔力を注いだだけだよ?」
「その魔力に価値があったんだよ」
そう、俺が試験で使用した剣。
その素材はロックドラゴンの鱗とユナの魔力だった。
ただロックドラゴンの鱗を削り作っただけでは、俺の戦闘スタイルに耐えきれずすぐに折れてしまうだろうと懸念していた。
だがユナの魔力は錬成に向いていた。
ユナに協力してもらうことで、通常の何倍もの強度を誇る剣を作ることができたのだ。
聖剣には遠く及ばないが、通常使用するものとしては問題ないだろう。
これで俺は自分の実力を発揮することができる。
改めて、ユナという少女に出会えたこと。
その幸運に感謝した。
「ところでユナはこれからの休暇どうするんだ? 皆みたいに家に戻るのか?」
「うん、そのつもりだよ。せっかく第一学園に入れたんだもん。お父様たちに報告しなくちゃ!」
嬉しそうに告げるユナの姿から、両親と良好な関係を築けていることが窺えた。
アートアルド家とは異なるみたいだ。
第二学園に入学して以降、もう何年も父と顔を合わせていない。
「ルークは? 報告しに戻ったりしないの?」
「……ああ、俺は――」
その言葉が最後まで紡がれることはなかった。
どこからともなく透明な鳥が現れたからだ。
その透明な鳥はティナの手に止まった後、一枚の手紙に姿を変える。
伝達魔術だ。
「ティナ、誰からだ?」
「お父様からのようです。お兄様が第一学園に入ることになったと報告したので、それの返事だと思います」
「ん? いや待て、伝達魔術ではアートアルド領に伝わるまで半日以上かかるだろう。試験が終わったのはついさっきだぞ」
「はい。ですので私はお兄様が転入試験を受けられると聞いた時に、知らせておいたんですわ」
「行動が早すぎる……」
ということは、三日前には既に父は俺が第一学園に入ることになったと思っているのか。
だからといって彼が何かを思ったり、特別な行動をしたりするとは思えないが。
そんな俺の予想とは裏腹に、ティナは告げる。
「ふむふむ、なるほど。お兄様、どうやらお父様はただいまこちらに向かっているらしいです」
「え? どういうことだ?」
「私とお兄様に会いにくるため、領地を出て王都を目指しているらしいです。三日後には到着すると書かれていますわ」
「なっ……」
これは予想外だ。
まさかこんな風にしてあの父と再会することになるとは。
いったい何を考えているのだろうか。
「そっか。じゃあルークたちは家に戻るんじゃなくて親が来てくれるんだね。よかったね、ルーク」
「……そうだな」
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