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第一部 最弱魔術師から最強剣士への成り上がり
13 天地切り裂く一閃
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(ユナは問題なくヴェレを倒せたみたいだな)
ミカオーたちから放たれる魔術に対応しながら、横目でユナの様子を窺う。
無事にヴェレを圧倒できたようだ。
初めてユナが使用する魔心を見た時から、俺はその可能性に気付いていた。
あれだけの硬度があり自由自在に変形可能。
防御だけでなく攻撃にも使えるはずだと考えた。
ユナも同じ発想で棘などで攻撃していたようだが、俺は魔心の硬度がそのまま活かせる戦い方の方が適していると考えた。
その戦い方こそが、魔心を体に纏い直接殴りつける一般的な格闘家スタイルだ。
ユナの魔力は質的に身体強化に長けていたため、これがうまくハマった。
常識とは異なる戦い方をする彼女に、並みの魔術師ではもはや対応することすら困難だろう。
「さて、次は俺の番だ」
この戦いを終わらせるべく、意識を切り替える。
これまでは防御に専念していたが、攻撃に回るとしよう。
「喰らえ」
両手で持った剣を、一閃。
パリンという音と共に、結界が砕け散る。
それを確認し、俺は素早く駆け出した。
「なっ!」
これまで安全地帯にいたミカオーたちは、突如として訪れる危機に目を見開く。
だが、遅い。
彼らが視認した時にはもう、俺はその場にいない。
駆け抜けながら放たれる斬撃は、次々と敵戦力を削っていく。
「何が、いったい何が起きている!?」
仲間が続けざまに倒れていくのを見て、ミカオーは恐怖に顔を引きつらせる。
見えなくとも、俺の手によって倒されたということくらいは分かるはずだ。
俺はミカオー以外の全員を気絶させたのち、動きを止めミカオーの前に立つ。
「あとは貴方だけですね」
「っ、アートアルド……!」
結界は壊れ、仲間は全員倒され、こちらは俺とユナが共に残っている。
すでに敗北が確定したであろう状況で、ミカオーはそれを認められないとばかりに強く歯を噛み締めていた。
「こんなことは、こんなことはありえない! 僕たちが何もできないままやられてしまうなんて! そうだ、不正に決まっている! 自分の姿を隠す魔道具でも使用しているんだろう!? そうでもなければ考えられない!」
どうやらまだ、現実を受け止めきれないようだ。
「負けを認めないと?」
「当然だ! こんな結果、納得いくものか! Aランクの魔物を倒したというのも嘘に決まっている! 真正面から戦うこともしないような奴の戯言を聞いてられるものか!」
「真正面から戦わない……ね」
そこまで言うのなら、仕方ない。
「それならこうしましょう。貴方が使用できる最大火力の魔術を俺に向けて放ってください。俺はそれを躱すことなく、真正面から打ち破ります」
「なんだと? は、ははっ、いいだろう。それで貴様の嘘偽りを証明してみせよう!」
ミカオーは瞳に生気を宿し詠唱を始める。
だが、ここで少しだけおかしな点に気付く。
ミカオーのもとに、気絶している七人からも魔力が送られていく。
「これは?」
問いに、暫くして詠唱を終えたミカオーが答える。
「気付いたのかい? けれどもう手遅れだよ。僕たち八人分の魔力を込めた最大火力の一撃さ!」
叫ぶと同時に、大量の魔力が高熱の炎に変化し、巨大な獣に姿を変えていく。
「これが僕たちのパーティの名前の由来ともなった、最上級魔術、炎顎(えんがく)だ。僕の行使と同時に、パーティ全員の魔力を集めて発動される最後の魔術だ。さあ、劫火の牙に引き裂かれろ!」
炎の獣が、巨大な口を開きながら迫ってくる。
俺は恐怖を抱くこともなく、ゆっくりと剣を上段に構える。
基本に忠実に、力強く。ただそれだけを意識し、振り下ろした。
「グラディウス・アーツ流、一の型――天地」
一切の抵抗はなかった。
俺の剣から生み出された斬撃は、炎の獣を両断し、その存在を消滅させる。
だが斬撃が止まることはない。
ミカオーの微かに右横を通り過ぎた斬撃は、観客席の直前で消滅する。
観客に被害を与えぬよう、あえてそれだけの威力で放ったのだ。
「なっ……ば、ばかな……」
現実に体が追い付かないとばかりに、ミカオーは膝を崩す。
その場に残されたのは、剣を振り下ろした姿のままの俺と、無様にしりもちをつくミカオーのみ。
俺は残心を終え、ゆっくりとミカオーのもとにまで歩く。
「どうだ、納得してくれたか?」
ミカオーは悔しそうに表情を歪めるも、抗う気力すら残されていなかったのか、静かに肩を落とす。
「ああ……僕たちの負けだ」
そう言って、敗北を認めた。
会場が沈黙に包まれる。
誰もが目の前で起きた出来事が信じられないとばかりに、言葉を失っている。
そんな沈黙を打ち破るように、アナウンスが響く。
『え、炎黙の顎のメンバー全員が気絶もしくは降参したため、ルーク・アートアルドおよびユナ・ミアレルトの勝利とします!』
そのアナウンスを聞き、嬉しそうに笑うユナが駆け寄ってくる。
「勝ったよ! やったね、ルーク!」
「ああ、ユナ」
パンと、俺たちは手を合わせた。
ミカオーたちから放たれる魔術に対応しながら、横目でユナの様子を窺う。
無事にヴェレを圧倒できたようだ。
初めてユナが使用する魔心を見た時から、俺はその可能性に気付いていた。
あれだけの硬度があり自由自在に変形可能。
防御だけでなく攻撃にも使えるはずだと考えた。
ユナも同じ発想で棘などで攻撃していたようだが、俺は魔心の硬度がそのまま活かせる戦い方の方が適していると考えた。
その戦い方こそが、魔心を体に纏い直接殴りつける一般的な格闘家スタイルだ。
ユナの魔力は質的に身体強化に長けていたため、これがうまくハマった。
常識とは異なる戦い方をする彼女に、並みの魔術師ではもはや対応することすら困難だろう。
「さて、次は俺の番だ」
この戦いを終わらせるべく、意識を切り替える。
これまでは防御に専念していたが、攻撃に回るとしよう。
「喰らえ」
両手で持った剣を、一閃。
パリンという音と共に、結界が砕け散る。
それを確認し、俺は素早く駆け出した。
「なっ!」
これまで安全地帯にいたミカオーたちは、突如として訪れる危機に目を見開く。
だが、遅い。
彼らが視認した時にはもう、俺はその場にいない。
駆け抜けながら放たれる斬撃は、次々と敵戦力を削っていく。
「何が、いったい何が起きている!?」
仲間が続けざまに倒れていくのを見て、ミカオーは恐怖に顔を引きつらせる。
見えなくとも、俺の手によって倒されたということくらいは分かるはずだ。
俺はミカオー以外の全員を気絶させたのち、動きを止めミカオーの前に立つ。
「あとは貴方だけですね」
「っ、アートアルド……!」
結界は壊れ、仲間は全員倒され、こちらは俺とユナが共に残っている。
すでに敗北が確定したであろう状況で、ミカオーはそれを認められないとばかりに強く歯を噛み締めていた。
「こんなことは、こんなことはありえない! 僕たちが何もできないままやられてしまうなんて! そうだ、不正に決まっている! 自分の姿を隠す魔道具でも使用しているんだろう!? そうでもなければ考えられない!」
どうやらまだ、現実を受け止めきれないようだ。
「負けを認めないと?」
「当然だ! こんな結果、納得いくものか! Aランクの魔物を倒したというのも嘘に決まっている! 真正面から戦うこともしないような奴の戯言を聞いてられるものか!」
「真正面から戦わない……ね」
そこまで言うのなら、仕方ない。
「それならこうしましょう。貴方が使用できる最大火力の魔術を俺に向けて放ってください。俺はそれを躱すことなく、真正面から打ち破ります」
「なんだと? は、ははっ、いいだろう。それで貴様の嘘偽りを証明してみせよう!」
ミカオーは瞳に生気を宿し詠唱を始める。
だが、ここで少しだけおかしな点に気付く。
ミカオーのもとに、気絶している七人からも魔力が送られていく。
「これは?」
問いに、暫くして詠唱を終えたミカオーが答える。
「気付いたのかい? けれどもう手遅れだよ。僕たち八人分の魔力を込めた最大火力の一撃さ!」
叫ぶと同時に、大量の魔力が高熱の炎に変化し、巨大な獣に姿を変えていく。
「これが僕たちのパーティの名前の由来ともなった、最上級魔術、炎顎(えんがく)だ。僕の行使と同時に、パーティ全員の魔力を集めて発動される最後の魔術だ。さあ、劫火の牙に引き裂かれろ!」
炎の獣が、巨大な口を開きながら迫ってくる。
俺は恐怖を抱くこともなく、ゆっくりと剣を上段に構える。
基本に忠実に、力強く。ただそれだけを意識し、振り下ろした。
「グラディウス・アーツ流、一の型――天地」
一切の抵抗はなかった。
俺の剣から生み出された斬撃は、炎の獣を両断し、その存在を消滅させる。
だが斬撃が止まることはない。
ミカオーの微かに右横を通り過ぎた斬撃は、観客席の直前で消滅する。
観客に被害を与えぬよう、あえてそれだけの威力で放ったのだ。
「なっ……ば、ばかな……」
現実に体が追い付かないとばかりに、ミカオーは膝を崩す。
その場に残されたのは、剣を振り下ろした姿のままの俺と、無様にしりもちをつくミカオーのみ。
俺は残心を終え、ゆっくりとミカオーのもとにまで歩く。
「どうだ、納得してくれたか?」
ミカオーは悔しそうに表情を歪めるも、抗う気力すら残されていなかったのか、静かに肩を落とす。
「ああ……僕たちの負けだ」
そう言って、敗北を認めた。
会場が沈黙に包まれる。
誰もが目の前で起きた出来事が信じられないとばかりに、言葉を失っている。
そんな沈黙を打ち破るように、アナウンスが響く。
『え、炎黙の顎のメンバー全員が気絶もしくは降参したため、ルーク・アートアルドおよびユナ・ミアレルトの勝利とします!』
そのアナウンスを聞き、嬉しそうに笑うユナが駆け寄ってくる。
「勝ったよ! やったね、ルーク!」
「ああ、ユナ」
パンと、俺たちは手を合わせた。
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