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第一部 最弱魔術師から最強剣士への成り上がり
29 戦闘経験の差
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「お前が敵だな」
俺が告げた言葉を受けて、魔族の女は小さく笑う。
「ええ、その通りよ。私の名はエレジィ。紛い物ではない本物の魔族よ」
「エレジィ、お前がヌーイや隣国の騎士たちを魔族化させたんだな?」
「その通りよ。けれど魔族化についてまで知っているなんて、貴方こそ何者なのかしら?」
「――ただの剣士だ」
そこで一度会話を止め、ユナを見る。
魔心でエレジィの魔術を防いでいたようで、怪我をしている様子はない。
少しホッとする。
「大丈夫か、ユナ?」
「う、うん。私はなんとか。お父様も気絶しているけど命に別状はないよ。でも、町が隣国の騎士たちに襲われているの!」
「そっちなら問題ない。ティナを残してきた。今頃敵を無力化した頃だろう」
「……本当に?」
不安そうなユナの問いに、俺は頷く。
「ああ、それに俺たちが到着するまで町の騎士たちがよく守ってくれていたみたいで、町に被害はほとんど出ていない。優秀だな、この領地の騎士は」
「そ、それはルークが事前に魔族が現れたって教えてくれていたからだよ。対策を取ってたの。それだけでも感謝が尽きないのに、こうして助けに来てくれるなんて……本当にありがとう、ルーク」
心の底からの安堵と感謝を表したような笑みを浮かべるユナを見て、こんな状況にも関わらず胸が高鳴ってしまう。
けれど礼を言うのはまだ早い。
目の前にいるエレジィを倒した後に改めて聞かせてもらおう。
「エレジィ、質問がある」
「何かしら?」
「どうしてヌーイたちを魔族化させた? あの程度の力を持った存在を多数生み出したところで大した意味はないだろう」
「ヌーイくんとやらは例外として、彼らを魔族化させたのはただの気まぐれよ。彼らの領地を襲った際に殺してもよかったけど、従順な手足がいてもいいと思ったの。私に命を握られているからかしら? 熱心に働いてくれるわ」
命を軽く見すぎだと怒りをぶつけたいところだが、そんなことをしても無駄だということは分かっている。
俺は次の質問を投げかける。
「……そうか、ならばもう一つ聞かせろ。そもそも何故魔族がこちら側にいる? 戦妨滝(フリーデントーア)が存在する以上、移動は不可能なはずだ」
「その不可能を覆すだけの何かが起こった、とだけ教えておいてあげるわ。仲間を裏切る訳にはいかないもの」
なるほど、仲間がいるということはエレジィだけではなく、他の魔族もこちら側に来ていると考えるべきだろう。
移動の手段を早急に突き止める必要がある。
そのためにも、今この場の問題を解決しなくては。
剣を構え、切っ先をエレジィに向ける。
「あら、質問はもういいの?」
「ああ」
エレジィは強者だ。それは気配で分かる。
レーニスや特殊個体のロックドラゴンでは全く敵わないほどの実力。
間違いなく、俺がこちらの世界で戦ってきた誰よりも強いだろう。
聖剣を持たない俺が勝てるのか、それとも敵わないほどの実力なのか。
試させてもらおう。
「いくぞ」
「ええ、いらっしゃい」
地を蹴り、空を飛ぶエレジィに迫る。
だが彼女の視線はしっかりと俺を捉えていた。
「はあッ!」
「あまいわ!」
振るった剣も、余裕を持って躱される。
この速度に対応できるとは、予想以上の実力かもしれない。
「ならこれはどうだ」
「――っ」
俺の攻撃は止まらない。
力強く空を蹴り、無理やり足場を生み出すことによって空を駆ける。
音速を超える斬撃を縦横無尽に浴びせる!
「グラディウス・アーツ流、五の型――瞬雷(しゅんらい)」
「なんて、速さ――ッ!」
音速を遥かに超える連撃には、さすがのエレジィも対応できなかったようだ。
首を狙った斬撃のみは躱されたが、それ以外は的確にエレジィの体を切り刻む。
右腕と左足が吹き飛んでいくのが視界に映る。
「風爆!」
「む――」
このままではジリ貧だと考えたのか、エレジィは自身を中心に爆発を起こす。
俺はすぐさま距離を置き、その光景を見届ける。
まさか自殺したわけではないだろう。
「ルーク、倒せたの!?」
「いや、まだだ」
ユナの興奮した声に対し、俺は首を横に振る。
さすがにこれほど簡単に倒せるような相手ではないはずだ。
爆風が晴れる。
そこには傷だらけながらも戦意を失っていない瞳を持つエレジィの姿があった。
怒りを込めて俺を睨んでいる。
「まさか、これほどの実力とはね。もう少し警戒しておくべきだったわ」
「そうか。けど残念だったな、もう手遅れだ」
「手遅れ? バカなことを言わないでほしいわ。私が命を懸けるのはここからよ」
「――――ほう」
エレジィを中心として、魔力の暴風が渦巻く。
これは上位魔族が命と引き換えに発動する禁術、魔神化。
その名の通り、ほんの数分のみだが神にも等しい力を得るのだ。
数秒後、そこには体が元通りに復元され、莫大な魔力を纏うエレジィの姿があった。
彼女は自信に満ちた表情で叫ぶ。
「さあ、こうなった私に敵う者などいないわ! 無様に死になさい!」
そうして放たれた数々の最上級魔術を前に、俺は――
「お前、さっきからどこを見ているんだ?」
「――――え?」
――エレジィの背後から、そう告げた。
エレジィは驚愕に目を見開き振り向くが、もう遅い。
「グラディウス・アーツ流、六の型――無刈(むがい)」
振るわれた剣閃が、エレジィの心臓のみを両断する。
残像を残し、音を消し、一瞬で敵に肉薄し命を奪う暗殺技。
エレジィ程度の実力では、命を取られたことにすら気付かない。
「う、そ。なんで、こんな負け方……」
「冥土の土産に教えておいてやる、魔神化は周りに仲間がいるか守りを固めてから発動するものだ。隙だらけだからな」
「なんで、そんなことを、貴方が知って……申し訳ございません、魔…、…様――」
エレジィの言葉が最後まで紡がれることはなかった。
大気に溶けるように体が消滅していく。
人族が魔族化した時と同じような現象が、魔神化した者にも訪れるのだ。
俺の剣技にある程度対応できたことから考えても、エレジィは間違いなく才能があった。
けれど実戦経験はあまりなかったのだろう。魔神化の弱点すら知らなかったくらいだ。
今回俺はその隙をついて勝った。
別に魔神化したエレジィと真正面から戦っても勝てただろうが、面倒な展開は避けるに限るからな。
今回に限って、俺の目的は強者と戦うことではなくユナを助けることだ。
それを最優先するのは当然。俺はゆっくりと彼女に向かい歩いていく。
そしてその場に座り込む彼女に手を伸ばす。
「終わったぞ、ユナ」
「――うん、ルーク!」
ユナは満面の笑みを浮かべながら、俺の手を握った。
こうして、ミアレルト領での全ての戦いが終わりを告げた。
俺が告げた言葉を受けて、魔族の女は小さく笑う。
「ええ、その通りよ。私の名はエレジィ。紛い物ではない本物の魔族よ」
「エレジィ、お前がヌーイや隣国の騎士たちを魔族化させたんだな?」
「その通りよ。けれど魔族化についてまで知っているなんて、貴方こそ何者なのかしら?」
「――ただの剣士だ」
そこで一度会話を止め、ユナを見る。
魔心でエレジィの魔術を防いでいたようで、怪我をしている様子はない。
少しホッとする。
「大丈夫か、ユナ?」
「う、うん。私はなんとか。お父様も気絶しているけど命に別状はないよ。でも、町が隣国の騎士たちに襲われているの!」
「そっちなら問題ない。ティナを残してきた。今頃敵を無力化した頃だろう」
「……本当に?」
不安そうなユナの問いに、俺は頷く。
「ああ、それに俺たちが到着するまで町の騎士たちがよく守ってくれていたみたいで、町に被害はほとんど出ていない。優秀だな、この領地の騎士は」
「そ、それはルークが事前に魔族が現れたって教えてくれていたからだよ。対策を取ってたの。それだけでも感謝が尽きないのに、こうして助けに来てくれるなんて……本当にありがとう、ルーク」
心の底からの安堵と感謝を表したような笑みを浮かべるユナを見て、こんな状況にも関わらず胸が高鳴ってしまう。
けれど礼を言うのはまだ早い。
目の前にいるエレジィを倒した後に改めて聞かせてもらおう。
「エレジィ、質問がある」
「何かしら?」
「どうしてヌーイたちを魔族化させた? あの程度の力を持った存在を多数生み出したところで大した意味はないだろう」
「ヌーイくんとやらは例外として、彼らを魔族化させたのはただの気まぐれよ。彼らの領地を襲った際に殺してもよかったけど、従順な手足がいてもいいと思ったの。私に命を握られているからかしら? 熱心に働いてくれるわ」
命を軽く見すぎだと怒りをぶつけたいところだが、そんなことをしても無駄だということは分かっている。
俺は次の質問を投げかける。
「……そうか、ならばもう一つ聞かせろ。そもそも何故魔族がこちら側にいる? 戦妨滝(フリーデントーア)が存在する以上、移動は不可能なはずだ」
「その不可能を覆すだけの何かが起こった、とだけ教えておいてあげるわ。仲間を裏切る訳にはいかないもの」
なるほど、仲間がいるということはエレジィだけではなく、他の魔族もこちら側に来ていると考えるべきだろう。
移動の手段を早急に突き止める必要がある。
そのためにも、今この場の問題を解決しなくては。
剣を構え、切っ先をエレジィに向ける。
「あら、質問はもういいの?」
「ああ」
エレジィは強者だ。それは気配で分かる。
レーニスや特殊個体のロックドラゴンでは全く敵わないほどの実力。
間違いなく、俺がこちらの世界で戦ってきた誰よりも強いだろう。
聖剣を持たない俺が勝てるのか、それとも敵わないほどの実力なのか。
試させてもらおう。
「いくぞ」
「ええ、いらっしゃい」
地を蹴り、空を飛ぶエレジィに迫る。
だが彼女の視線はしっかりと俺を捉えていた。
「はあッ!」
「あまいわ!」
振るった剣も、余裕を持って躱される。
この速度に対応できるとは、予想以上の実力かもしれない。
「ならこれはどうだ」
「――っ」
俺の攻撃は止まらない。
力強く空を蹴り、無理やり足場を生み出すことによって空を駆ける。
音速を超える斬撃を縦横無尽に浴びせる!
「グラディウス・アーツ流、五の型――瞬雷(しゅんらい)」
「なんて、速さ――ッ!」
音速を遥かに超える連撃には、さすがのエレジィも対応できなかったようだ。
首を狙った斬撃のみは躱されたが、それ以外は的確にエレジィの体を切り刻む。
右腕と左足が吹き飛んでいくのが視界に映る。
「風爆!」
「む――」
このままではジリ貧だと考えたのか、エレジィは自身を中心に爆発を起こす。
俺はすぐさま距離を置き、その光景を見届ける。
まさか自殺したわけではないだろう。
「ルーク、倒せたの!?」
「いや、まだだ」
ユナの興奮した声に対し、俺は首を横に振る。
さすがにこれほど簡単に倒せるような相手ではないはずだ。
爆風が晴れる。
そこには傷だらけながらも戦意を失っていない瞳を持つエレジィの姿があった。
怒りを込めて俺を睨んでいる。
「まさか、これほどの実力とはね。もう少し警戒しておくべきだったわ」
「そうか。けど残念だったな、もう手遅れだ」
「手遅れ? バカなことを言わないでほしいわ。私が命を懸けるのはここからよ」
「――――ほう」
エレジィを中心として、魔力の暴風が渦巻く。
これは上位魔族が命と引き換えに発動する禁術、魔神化。
その名の通り、ほんの数分のみだが神にも等しい力を得るのだ。
数秒後、そこには体が元通りに復元され、莫大な魔力を纏うエレジィの姿があった。
彼女は自信に満ちた表情で叫ぶ。
「さあ、こうなった私に敵う者などいないわ! 無様に死になさい!」
そうして放たれた数々の最上級魔術を前に、俺は――
「お前、さっきからどこを見ているんだ?」
「――――え?」
――エレジィの背後から、そう告げた。
エレジィは驚愕に目を見開き振り向くが、もう遅い。
「グラディウス・アーツ流、六の型――無刈(むがい)」
振るわれた剣閃が、エレジィの心臓のみを両断する。
残像を残し、音を消し、一瞬で敵に肉薄し命を奪う暗殺技。
エレジィ程度の実力では、命を取られたことにすら気付かない。
「う、そ。なんで、こんな負け方……」
「冥土の土産に教えておいてやる、魔神化は周りに仲間がいるか守りを固めてから発動するものだ。隙だらけだからな」
「なんで、そんなことを、貴方が知って……申し訳ございません、魔…、…様――」
エレジィの言葉が最後まで紡がれることはなかった。
大気に溶けるように体が消滅していく。
人族が魔族化した時と同じような現象が、魔神化した者にも訪れるのだ。
俺の剣技にある程度対応できたことから考えても、エレジィは間違いなく才能があった。
けれど実戦経験はあまりなかったのだろう。魔神化の弱点すら知らなかったくらいだ。
今回俺はその隙をついて勝った。
別に魔神化したエレジィと真正面から戦っても勝てただろうが、面倒な展開は避けるに限るからな。
今回に限って、俺の目的は強者と戦うことではなくユナを助けることだ。
それを最優先するのは当然。俺はゆっくりと彼女に向かい歩いていく。
そしてその場に座り込む彼女に手を伸ばす。
「終わったぞ、ユナ」
「――うん、ルーク!」
ユナは満面の笑みを浮かべながら、俺の手を握った。
こうして、ミアレルト領での全ての戦いが終わりを告げた。
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