異世界に転生したけど魔力0だったので、1000年間剣技を鍛えてみた ~自分を低級剣士だと思い込んでいる世界最強は無自覚に無双するようです〜

八又ナガト

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第18話 お礼の内容

 アリシアから満を持して問われた内容は『あなたはこれまでに、ドラゴンを倒したことはありますか?』というものだった。
 意図は分からないが、答えは当然NO。
 もしYESなら今ごろブイブイ言わせてるところだ。

 その回答に納得がいったのかいかなかったのか、アリシアは隣のフード姿と顔を見合わせてからもう一度こちらを向く。

「も、もう一度訊かせてください。ユーリさん、あなたは本当にこれまでドラゴンを倒したことはないんですか?」

「ああ」

「戦ったことも?」

「当然。ドラゴンなんて、とても俺に敵うような相手じゃないからな」

 自信満々にそう答えると(内容的には誇れることではないが)、アリシアは明らかに戸惑いを見せていた。
 そして隣のフード姿と身を寄せあう。

「(アリシア、今のところ『真偽鑑定』には引っかかっていないわ)」

「(となると、やはりこちらの勘違いでしょうか? それとも……)」

「(別の角度から攻めるべきね。この人はギルドに魔力がなく魔物と戦ったこともないと報告しているけど、そんな人が冒険者を目指すとは思えないもの)」

「(そ、そうですね、分かりました)」

「…………?」

 俺に聞こえない声量でコソコソと何かをささやき合う2人。
 いつまでこうしていればいいのかと思い始めたタイミングで2人の距離が離れ、アリシアが俺に向き直る。

「そ、それでは違う質問を。これまでに他のどんな魔物と戦ったことがあるかお聞かせいただけますか?」

「他の?」

「はい。どんな些細なものでも構いません」

「そう言われてもな……」

 俺はまだ異世界に来て2日目。
 戦ったことのある魔物なんて限られている。
 というか1体だけだ。

「スライムくらいしか倒したことはないぞ」

「スライム、ですか?」

「ああ。それもつい昨日、初めて倒せたんだ。低級とはいえ、魔物を倒せたらやっぱり達成感があるもんなんだな」

「……どうやら、本当のようですね」

 深く息を吐きながら、何かを諦めるように呟くアリシア。
 そして、唐突に彼女は頭を下げた。

「申し訳ありませんユーリさん。モニカを救ってくれた恩人に、疑うような真似をしてしまって」

「待て待て、何の話だ?」

「実は……」


 その後、アリシアはここに至るまでの経緯を説明してくれた。
 昨日、彼女たちがドラゴン討伐のクエストを受けて達成したこと(それ自体はモニカから聞いていたため知っていた)。
 しかし、実際にドラゴンを倒したのは彼女たちではない別の誰か。
 その特徴として魔力を用いない方法を使っているのではないかと推測。
 ギルドマスターにこのことを報告したところ、同じに冒険者登録に来た魔力0の俺がその候補に挙がったとのことだった。


「なるほど、そんな事情が……」

 全てを聞き終えた俺は、顎に手を当てながら深く考え込む。
 確かにそんな事情があれば俺を疑うのも当然だろう。
 客観的に見て俺という存在は怪しすぎる。

 もっとも、実際にその正体は俺ではなかったわけだが――

「――待てよ」

「ユーリさん?」

 俺はふと、昨日のある出来事のことを思い出した。
 この町に来る途中、俺は大きな鳥を斬り落とした。
 もしかしたらアレがドラゴンだったりしたのではないだろうか?

(いや、そんな訳ないか)

 そこまでを考え、俺は慌てて首を左右に振った。

 この推測には大きな問題点が存在する。
 そう、これはあくまでなのだ。
 しかしながら知っての通り、実際の俺は通りすがりのスライムにも苦戦する有様。

 それとも、もしかしたら――

「なあアリシア、もしかして(この世界の)ドラゴンって、低級モンスター並に弱かったりしないか?」

「い、いえ、決してそんなことは。特に私たちが戦ったのはSランクのスカイドラゴン、野放しにすれば数日でこの町を壊滅させるほど強力な魔物です」

「そっか」

 やっぱり俺の勘違いだったみたいだ。
 そりゃそうだ、万が一にも自分がドラゴンを倒したんじゃないかと思ってしまったのが今となっては恥ずかしい。

 ただ、ここまでの話を聞いて気になった点がもう一つだけある。

「けど、よく俺のことを信じてくれたな? 嘘をついてるとか疑ったりはしなかったのか?」

「それに関しては彼女がいますから。ティオ」

「……はあ、仕方ないわね」

 アリシアの呼びかけを受け、ティオと呼ばれた少女がフードを取る。
 首元に切り揃えれた綺麗な翡翠色の髪や、明るい青色の瞳など。
 気になる部分は幾つもあるが、その中でも最も俺が目を引かれたのは彼女のだった。

「……エルフ?」

「ええ、そうよ」

 頭に浮かんだ言葉をそのまま口にすると、ティオは小さく頷いた。
 そしてアリシアが補足するように口を開く。

「彼女はティオ・オータムといい、ユーリさんの仰るようにエルフ族です。そしてエルフ族の中でも数少ない『真偽看破』のスキルを持っているため、相手が嘘をついたか分かるのです」

「なるほど、道理で」

 それなら俺を信じてくれたのも納得だ。
 なにせ、俺は一切嘘をついていないからな。
 心にやましい者がある人にとっては厄介な力かもしれないが、俺にとってはむしろありがたい部分だったかもしれない。

 というか、それよりも……

「スキルか、驚いたな」

 どうやらこの世界では、当たり前のようにスキルを持っている者がいるらしい。
 転生時、本来なら俺もアリスティアから貰うはずだったものだが、その時のやり取りのせいでてっきり転生者限定なのかと思い込んでいた。

「スキル保有者は珍しいですからね、ユーリさんが驚かれるのも無理はありません」

 驚いた理由についてはアリシアに勘違いされてしまったようだが、わざわざ正すほどのことではないだろう。

「アリシア、用件は終わり?」

 ここまでしばらく無言を貫いていたモニカが、テーブルに突っ伏しながらそう口を開いた。

「はい、そのつもりでしたが……とてもこのまま帰るというわけにはいきませんね」

「まだ何か俺に用があるのか?」

「いえ、そういうわけではなくて。モニカを助けてくれたことのお礼に加え、今回疑ってしまったことのお詫びを何かしなくてはいけません」

「そんなに気にしなくてもいいぞ?」

「いいえ、このままで私たちの沽券にかかわりますから」

 何やら本人としてこだわりがある様子。
 俺としては特に気にしてなかったんだが、そこまで言うなら素直に受け入れておいた方がいいかもしれない。

「ユーリさんが今、困っていることや欲しているものはありませんか? 金銭での報酬という形でも私たちとしては問題ありませんが」

「う~ん、金銭はいいかな」

 そう答えると、モニカがきょとんとした表情を浮かべる。

「お金が要らないなんて……ユーリ、もしかしてお金持ち?」

「いや、無一文」

「無一文なのにいらないんですか!?」

 質問してきたのはモニカだが、驚いたのはアリシアだった。
 まあ、うん、その反応が自然か。

 だけど、俺としても考えがある。
 せっかく与えられた異世界での二度目の人生。初めから全てを用意してもらうチート状態ってのもそれはそれで退屈。
 本当に困った時ならまだしも、できるだけ自分の力で生活を整えたいと思ってる。

 とまあそんな内容を、異世界の部分を省いて説明するとアリシアはようやく納得したように頷いた。
 そして、

「そういうことなら、こちらから無理を言う訳にはいきませんね。しかし、金銭以外のお礼となると難しいですね……本当にそれ以外で欲しい物はないんですか?」

「う~ん」

 しばらく考えた後、一つの答えにたどり着く。

「しいて言えば実戦経験だけど……いや、これは言ってもらえるようなものじゃないな、忘れてくれ」

 すぐにお礼としては適していない内容だったと思い直し訂正しようとしたのだが、なぜかそのタイミングでアリシアがぐいっと身を乗り出してきた。

「いえ、そんなことはありません!」

「ア、アリシア?」

「実戦経験ですね、お任せください! それなら満足いくものをお渡しできるはずです!」

 そんな前置きのあと、アリシアは右手を胸に当てながら自信満々に告げた。


「私たちの手で、ユーリさんが納得いくまで鍛えて差し上げましょう!」

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