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第三章 冥府の大樹林編
第43話 私の婚約者(確定)【ソフィア視点】
しおりを挟むソフィアとアルデンの会話は、お互いの勘違いによって明後日の方向に向かい始めていた。
ソフィアがクラウス以外の何者かから【王家一族の指輪】をもらったと聞いたアルデンは、思わず片手で頭を押さえた。
それはかつての勇者が当時の姫に送ったとされる婚約指輪。
言ってしまえば、これは建国神話の再現。
その逸話の影響は大きく、王家として伝統に則るなら二人の婚約を受け入れなければならない。
とはいえ、だ。
それはあくまで本人同士にその意思がある場合に限られる。
そこでアルデンは、重大な疑問をソフィアに投げかけた。
「それでソフィアよ、お前自身はどう思っているのだ? というより、既に答えは返したのか?」
ここで頷かれるようなら、アルデンの目論見は崩れ落ちる。
しかし幸いにも、彼女は首を横に振った。
「いいえ、お返事は待ってもらうことになりました」
そう答えた後、ソフィアはわずかに微笑む。
(もっとも、私がクラウス様の隣に立てるだけの自信がついた暁には、すぐにでも受け入れるつもりですが)
――という、大切な内容を省いての回答。
それを聞いたアルデンは、「ふむ」と考え込むような素振りを見せた。
(普段は即断即決のソフィアが答えを保留するとは、本人としてはそこまで乗り気ではないのかもしれんな。であるならば、まだ間に合うかもしれん!)
意識を切り替え、アルデンは次の質問を繰り出す。
「ところでだ、ソフィア。お前はクラウス・レンフォードを知っているな?」
「っ、は、はい、それはもちろん」
「そうか! それでだが……率直に訊かせてもらおう。お前は彼についてどう思っている?」
「え、ええっ!?」
突如として父から繰り出される、娘の恋心を暴くような問いに困惑するソフィア。
だがここで、ソフィアの天才的頭脳(?)がアルデンの狙いに気付いた。
(ここまであえてクラウス様の名前を伏せてきたのですが……どうやら指輪をくださったのが彼だと気付かれてしまったようですね。さすがはお父様です)
これが一国の頂点に君臨する王の慧眼なのかと感心するソフィア。
そこまでバレてしまった以上、もう隠すことはできないだろう。
しかし、である。
だからと言って、父親の前で想い人への気持ちを語れるかというと、それはまた別の話。
クラウスのことを考えるだけで、顔に熱が集まってしまう。
そのためソフィアは、なんとか誤魔化すべく口を開いた。
「そ、それはその……とてもこの場ではお答えできません」
顔を赤く染め、言いにくそうに答えるソフィア。
その様子を見て、アルデンの天才的観察眼(?)がソフィアの感情を見抜いた。
(ソフィアが顔を赤く染めた……? まさか、これは怒りか!?)
ソフィアとクラウスが既に出会っていることを、アルデンは知らない。
加えて、これまでソフィアが恋愛に興味を持つような姿を見たことがないため、“ただ娘が照れているだけ”という発想にアルデンはたどり着けなかった。
その結果、見当違いな方向に思考が至る。
(そうだ、思い出せ。確かレンフォードが初めて魔王軍幹部を討伐したという情報が入ってきた時、ソフィアは苛立っていた。魔王討伐の使命を背負って育てられた立場として、先に成果を挙げられたことが不満だったのだろう。加えて、今回の四天王討伐という大偉業を目の前で達成されたとくれば……これだけの怒りを覚えるのも納得だ!)
明後日の方向に結論を導くアルデン。
そんなアルデンに対して、ソフィアは畳み掛けるようにして告げる。
「ところで陛下、改めてもう一つお願いしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「な、何だ?」
「今回の件を通して、私はまだまだ成長しなくてはならないと感じました。そこでどうか、私が王女として成長するための試練を与えてくれませんか?」
「……ふむ」
そのお願いを聞いたアルデンは、確信とともに尋ねる。
「それは、クラウス・レンフォード(が達成してきた数々の偉業)に追いつくためか?」
「はい、その通りです(夫婦として彼の隣に並び立てるようになるためです)」
透き通るような青色の瞳で真っ直ぐ見つめてくるソフィア。
それを受けて、アルデンは彼女の意思の強さを理解する。
(まさかこれほどまでに、ソフィアがレンフォードに対して強い対抗意識を持っていたとは。しかし、これは考えようによってはチャンスかもしれん)
ここに来て、アルデンはわずかな活路を見出す。
今はクラウスに対して敵対視しているようだが、実際に顔を合わせる機会を設ければ、何かのきっかけで気持ちが反転するかもしれない。
そうすれば見事、クラウスを王家に取り入れることができるだろう。
それらを踏まえ、アルデンは素早く思考を巡らせる。
(今より成長したいというソフィアの要望に応えつつ、二人を結びつける良案はないだろうか……っ、そうだ!)
アルデンは一つの解決策を思いつく。
ソフィアの王立学園入学まであと数ヵ月と迫ったこの期間、従事させるにはちょうどいい任務が存在する。
それの達成を目指す中で、クラウスとの仲を深めることも可能となるだろう。
「それではソフィアよ、お前に一つ任務を与えよう」
「はい」
「これは未だかつて、どんな貴族も成し遂げたことのない重大な任務なのだが――」
もはやただの縁結びおじさんと化したアルデンから、ソフィアにとある試練が下される。
超高難易度の内容に加え、敵対視している相手との合同ミッション。
にもかかかわらず、それを聞いたソフィアはなぜか大いに目を輝かせ、力強く頷くのだった。
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