ゲーム世界のモブ悪役に転生したのでラスボスを目指してみた 〜なぜか歴代最高の名君と崇められているんですが、誰か理由を教えてください!〜

八又ナガト

文字の大きさ
43 / 58
第三章 冥府の大樹林編

第43話 私の婚約者(確定)【ソフィア視点】

しおりを挟む

 ソフィアとアルデンの会話は、お互いの勘違いによって明後日の方向に向かい始めていた。

 ソフィアがクラウス以外の何者かから【王家一族の指輪ロイヤル・リング】をもらったと聞いたアルデンは、思わず片手で頭を押さえた。
 それはかつての勇者が当時の姫に送ったとされる婚約指輪エンゲージリング
 言ってしまえば、これは建国神話の再現。
 その逸話の影響は大きく、王家として伝統にのっとるなら二人の婚約を受け入れなければならない。

 とはいえ、だ。
 それはあくまで本人同士にその意思がある場合に限られる。
 そこでアルデンは、重大な疑問をソフィアに投げかけた。

「それでソフィアよ、お前自身はどう思っているのだ? というより、既に答えは返したのか?」

 ここで頷かれるようなら、アルデンの目論見もくろみは崩れ落ちる。
 しかし幸いにも、彼女は首を横に振った。

「いいえ、お返事は待ってもらうことになりました」

 そう答えた後、ソフィアはわずかに微笑む。

(もっとも、私がクラウス様の隣に立てるだけの自信がついた暁には、すぐにでも受け入れるつもりですが)

 ――という、大切な内容を省いての回答。
 それを聞いたアルデンは、「ふむ」と考え込むような素振りを見せた。

(普段は即断即決のソフィアが答えを保留するとは、本人としてはそこまで乗り気ではないのかもしれんな。であるならば、まだ間に合うかもしれん!)

 意識を切り替え、アルデンは次の質問を繰り出す。


「ところでだ、ソフィア。お前はクラウス・レンフォードを知っているな?」

「っ、は、はい、それはもちろん」

「そうか! それでだが……率直に訊かせてもらおう。お前は彼についてどう思っている?」

「え、ええっ!?」


 突如として父から繰り出される、娘の恋心を暴くような問いに困惑するソフィア。
 だがここで、ソフィアの天才的頭脳(?)がアルデンの狙いに気付いた。

(ここまであえてクラウス様の名前を伏せてきたのですが……どうやら指輪をくださったのが彼だと気付かれてしまったようですね。さすがはお父様です)

 これが一国の頂点に君臨する王の慧眼けいがんなのかと感心するソフィア。
 そこまでバレてしまった以上、もう隠すことはできないだろう。

 しかし、である。
 だからと言って、父親の前で想い人への気持ちを語れるかというと、それはまた別の話。
 クラウスのことを考えるだけで、顔に熱が集まってしまう。
 そのためソフィアは、なんとか誤魔化すべく口を開いた。

「そ、それはその……とてもこの場ではお答えできません」

 顔を赤く染め、言いにくそうに答えるソフィア。
 その様子を見て、アルデンの天才的観察眼(?)がソフィアの感情を見抜いた。

(ソフィアが顔を赤く染めた……? まさか、これはか!?)

 ソフィアとクラウスが既に出会っていることを、アルデンは知らない。
 加えて、これまでソフィアが恋愛に興味を持つような姿を見たことがないため、“ただ娘が照れているだけ”という発想にアルデンはたどり着けなかった。
 その結果、見当違いな方向に思考が至る。


(そうだ、思い出せ。確かレンフォードが初めて魔王軍幹部を討伐したという情報が入ってきた時、ソフィアは苛立っていた。魔王討伐の使命を背負って育てられた立場として、先に成果を挙げられたことが不満だったのだろう。加えて、今回の四天王討伐という大偉業を目の前で達成されたとくれば……これだけの怒りを覚えるのも納得だ!)


 明後日の方向に結論を導くアルデン。
 そんなアルデンに対して、ソフィアは畳み掛けるようにして告げる。

「ところで陛下、改めてもう一つお願いしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

「な、何だ?」

「今回の件を通して、私はまだまだ成長しなくてはならないと感じました。そこでどうか、私が王女として成長するための試練を与えてくれませんか?」

「……ふむ」

 そのお願いを聞いたアルデンは、確信とともに尋ねる。


「それは、クラウス・レンフォード(が達成してきた数々の偉業)に追いつくためか?」

「はい、その通りです(夫婦として彼の隣に並び立てるようになるためです)」


 透き通るような青色の瞳で真っ直ぐ見つめてくるソフィア。
 それを受けて、アルデンは彼女の意思の強さを理解する。

(まさかこれほどまでに、ソフィアがレンフォードに対して強い対抗意識を持っていたとは。しかし、これは考えようによってはチャンスかもしれん)

 ここに来て、アルデンはわずかな活路を見出す。
 今はクラウスに対して敵対視しているようだが、実際に顔を合わせる機会を設ければ、何かのきっかけで気持ちが反転するかもしれない。
 そうすれば見事、クラウスを王家に取り入れることができるだろう。

 それらを踏まえ、アルデンは素早く思考を巡らせる。

(今より成長したいというソフィアの要望に応えつつ、二人を結びつける良案はないだろうか……っ、そうだ!)

 アルデンは一つの解決策を思いつく。
 ソフィアの王立学園入学まであと数ヵ月と迫ったこの期間、従事させるにはが存在する。
 それの達成を目指す中で、クラウスとの仲を深めることも可能となるだろう。


「それではソフィアよ、お前に一つ任務を与えよう」

「はい」

「これは未だかつて、どんな貴族も成し遂げたことのない重大な任務なのだが――」


 もはやただの縁結びおじさんと化したアルデンから、ソフィアにとある試練が下される。
 超高難易度の内容に加え、敵対視している相手との合同ミッション。
 にもかかかわらず、それを聞いたソフィアはなぜか大いに目を輝かせ、力強く頷くのだった。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...