ばかの村の勇者

yomimon

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うまれた!

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変わらない毎日に、少しの変化が訪れる日がたまにある。
例えば、道に迷った商人が来た日のことである。
基本的には自給自足、何かが無いならあるもので補えばいい。
そんな村に来た商人の感想は「ここじゃ商売人は食っていけねえ」。
金銭を用いた商売がこの『ばかの村』では一切通用しないのだ。

「この敷物などいかがですか、銀貨2枚でお譲りしますよ」
「うちにゃあるから要らねえなあ」
「そこらの獣狩りゃ、いくらでも作れっからな」
「…で、ではこちらの果実の干物など……」
「わざわざ干さんでも村の森にゃいくらでもあるし」
「だなあ」

すべての商品にこんなリアクションで済まされる。これでは商売あがったり。
物々交換に従って干し肉や野菜と先程の干物や敷物を交換した。
お金を渡そうとしても「こんな重しにしかならんもんいらない」である。
食事や宿泊先(宿自体なかったので村長の家)でも金の出番はなく、
更には見送りに、とテスタを無料で安全な場所まで護衛として付けさせてきた。
一応獣や危険なものも近くに生息するのだが開けた街道には近寄らない。
そこまで離れてはいない(と聞かされた)から、と護衛費として受け取ってもらえたのはほんの一握りの塩のみだった。


「あんたら損得の概念はないのかよ」

帰途の中、馬車を操る商人が道を塞ぐ折れた巨木を当たり前の様に一人でどけるテスタを見ながら心底呆れたと言うようにぼやく。
テスタは聞いても分からない、という顔でキョトンとしている。

「あー……なんだ、成功したいとか街で一山当てたいとさ」
「街?行ってどうすんだ?」
「贅沢したいとかさあ」
「贅沢ってなんだ?」
「飯いっぱい食うとか好きなだけ遊ぶとかよ」

会話のレベルを下げながら商人が聞く。
しかしテスタはやはり分からない、と首をかしげた。

「あんたのその怪力も冒険者になりゃ活かせるだろうに」
「俺がいなきゃ隣のおっちゃんが調子乗った時困るからね」
「……そうか」

根本から常識が違うのだ。
そう理解した商人はそれ以上何も言うこともなく静かに空を見上げる。 
空はいつも通り青く高く、澄み渡っていた。
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