ばかの村の勇者

yomimon

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うまれた!

3

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その日、テスタは苛立っていた。
森で獲物を逃しても「アイツ早いね!」と笑い飛ばし
村人にに持ち運びを頼まれればむしろ「頼られた!」と喜ぶ。
とにかく怒ったことのないテスタが、その時は珍しく感情を揺らしていた。

「だーかーら!俺やだって!」
「何でだよ!お前の力があったら絶対上手くいくんだって!」
「そもそも俺行く理由ないじゃん!」
「俺達が力を貸してほしいからだよ!」

村のど真ん中、衆人環視の中でテスタは声を荒げた。

「俺は、あんたを知らない!!!」



――それは、迷い込んだ商人が帰ってしばらくしてからの事だった。
なんだかとても重装備な鎧を着た人たちが村にやってきたのだ。
その人達は、自分は冒険者だと名乗り商人から聞いた素晴らしい怪力の持ち主である
純朴な青年テスタをスカウトしに来たのだと言う。


村は平和を絵に描いたようなのどかさに包まれているが
世界全体を見るとじつは案外そうでもない。
村を少し離れればそれなりに野生動物はもちろん、ちょっとした魔物も出没する。
魔族や魔王なんてものも当たり前のようにいるし
種族の隔たり関係なく悪いやつもそれなりにいるので王様は毎夜頭を抱えている。

『ばかの村』ののどかさは実はかなり稀有な例なのだ。
おそらくは村の近くの山から流れる川に魔除けになる成分でも含まれているのだろう
…というのが国の学者の見解である。

と、言う背景を『ばかの村』で生まれ育ち外部とほとんど接触しないテスタが知るはずもなく。
冒険者の大前提である常識の一つ、「魔物はとてもやばいやつ」も伝わらない。
テスタからしてみればいきなり知らない人が来て強引に「村出て魔物倒そうぜ!」と迫られているのだ。
最初は「無理」だとか「村が心配」だとかそれなりにそれっぽい事を言ってはいたのだが
それでもなお引き下がるスカウト冒険者にだんだん苛立ちを隠せなくなってしまったのだ。

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