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寝坊しかけのアイドルくん
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時刻は、七時ちょうど。
そろそろ橘も起きてくる頃だろうか。
…しかし、待てど暮らせど、橘がリビングに現れる気配はない。
七時半を過ぎ、時計の針は八時を示そうとしている。高校の始業時間は八時四十五分だ。ここからだと、三十分はかかるだろう。
(まさか、寝坊…?)
まさか、とは思うが。
「…すみません、橘さん? 朝ですよー」
俺は恐る恐る、二階にある橘の部屋のドアをノックした。彼の部屋は、俺の部屋の向かいにある主寝室だ。反応はない。
「橘さーん? 学校、遅れますよー?」
もう一度、少し強めにノックする。それでも、中からは何の音も聞こえてこない。
これは、まずい。
初日から雇い主を遅刻させるわけにはいかない。
「し、失礼します!」
意を決してドアノブに手をかけると、鍵はかかっていなかった。そっとドアを開け、中を覗き込む。
キングサイズのベッドの上で、何かがこんもりと布団にくるまって眠っていた。間違いなく、橘圭吾だ。
「橘! 起きろ! 遅刻するぞ!」
さすがに敬語も吹っ飛ぶ。ベッドサイドに駆け寄り、布団を揺さぶる。
「んん……」
くぐもった声がして、布団がもぞりと動いた。そして、中から現れたのは、爆発したような寝癖頭の、眠そうな顔。
面接の日に見た、「もさもさ」バージョンの橘圭吾だった。
「…さくらい、せんぱい…? なんで…?」
「なんでじゃねえよ! もう八時だぞ! 早くしないと遅刻する!」
「はちじ……」
橘は寝ぼけ眼で壁の時計を見ると、数秒後、その目をカッと見開いた。
「やばいっ!!」
そこからの橘の動きは、凄まじかった。
ベッドから飛び起きると、猛スピードでクローゼットから制服を取り出し、バスルームへ駆け込んでいく。シャワーの音が聞こえ、数分後には髪を濡らしたまま出てきた。
「先輩! 朝ごはんは!?」
「できてる! リビングに!」
「さすがです!」
リビングに駆け下りた橘は、テーブルに並んだ和定食を見ると、「うわ、うまそう…」と呟き、椅子に座るやいなや、猛烈な勢いでご飯をかき込み始めた。その食べっぷりは、見ていて気持ちがいいほどだ。
「ごちそうさまでした! 行ってきます!」
十分ほどで朝食を平らげると、橘は鞄を掴んで玄関へと走った。
「あ、おい! 髪、まだ濡れてるぞ!」
「平気です! じゃあ、学校では、例の件、よろしくです!」
玄関のドアが閉まる直前、振り返った橘は、いたずらっぽく片目をつぶって見せた。その顔は、いつの間にか完璧な「キラキラ王子様」に戻っている。
一人、リビングに残された俺は、空になった食器を前に、ただ呆然とするしかなかった。
(…なんだったんだ、今の嵐は…)
これから毎日、これが繰り返されるのかと思うと、少しだけ眩暈がした。
「俺も急いで行かなきゃ……!」
食器を水につけるだけつけて、ダッシュで学校へ向かった。
そろそろ橘も起きてくる頃だろうか。
…しかし、待てど暮らせど、橘がリビングに現れる気配はない。
七時半を過ぎ、時計の針は八時を示そうとしている。高校の始業時間は八時四十五分だ。ここからだと、三十分はかかるだろう。
(まさか、寝坊…?)
まさか、とは思うが。
「…すみません、橘さん? 朝ですよー」
俺は恐る恐る、二階にある橘の部屋のドアをノックした。彼の部屋は、俺の部屋の向かいにある主寝室だ。反応はない。
「橘さーん? 学校、遅れますよー?」
もう一度、少し強めにノックする。それでも、中からは何の音も聞こえてこない。
これは、まずい。
初日から雇い主を遅刻させるわけにはいかない。
「し、失礼します!」
意を決してドアノブに手をかけると、鍵はかかっていなかった。そっとドアを開け、中を覗き込む。
キングサイズのベッドの上で、何かがこんもりと布団にくるまって眠っていた。間違いなく、橘圭吾だ。
「橘! 起きろ! 遅刻するぞ!」
さすがに敬語も吹っ飛ぶ。ベッドサイドに駆け寄り、布団を揺さぶる。
「んん……」
くぐもった声がして、布団がもぞりと動いた。そして、中から現れたのは、爆発したような寝癖頭の、眠そうな顔。
面接の日に見た、「もさもさ」バージョンの橘圭吾だった。
「…さくらい、せんぱい…? なんで…?」
「なんでじゃねえよ! もう八時だぞ! 早くしないと遅刻する!」
「はちじ……」
橘は寝ぼけ眼で壁の時計を見ると、数秒後、その目をカッと見開いた。
「やばいっ!!」
そこからの橘の動きは、凄まじかった。
ベッドから飛び起きると、猛スピードでクローゼットから制服を取り出し、バスルームへ駆け込んでいく。シャワーの音が聞こえ、数分後には髪を濡らしたまま出てきた。
「先輩! 朝ごはんは!?」
「できてる! リビングに!」
「さすがです!」
リビングに駆け下りた橘は、テーブルに並んだ和定食を見ると、「うわ、うまそう…」と呟き、椅子に座るやいなや、猛烈な勢いでご飯をかき込み始めた。その食べっぷりは、見ていて気持ちがいいほどだ。
「ごちそうさまでした! 行ってきます!」
十分ほどで朝食を平らげると、橘は鞄を掴んで玄関へと走った。
「あ、おい! 髪、まだ濡れてるぞ!」
「平気です! じゃあ、学校では、例の件、よろしくです!」
玄関のドアが閉まる直前、振り返った橘は、いたずらっぽく片目をつぶって見せた。その顔は、いつの間にか完璧な「キラキラ王子様」に戻っている。
一人、リビングに残された俺は、空になった食器を前に、ただ呆然とするしかなかった。
(…なんだったんだ、今の嵐は…)
これから毎日、これが繰り返されるのかと思うと、少しだけ眩暈がした。
「俺も急いで行かなきゃ……!」
食器を水につけるだけつけて、ダッシュで学校へ向かった。
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