クールで近寄りがたい同級生、「あざと可愛い」配信者推し仲間でした……え?本人?

天音ねる(旧:えんとっぷ)

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現実への帰還

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魔法が、解けていく。
楽しかった舞踏会は終わり、僕はカボチャの馬車から引きずり降ろされる。
残っているのは、みすぼらしい服を着た、ただの佐々木湊だ。

僕はゆっくりとパソコンの電源ボタンを押した。
ブォン、という小さな音を最後に、駆動音も消える。
部屋は完全な静寂と暗闇に支配された。
光を失ったモニターは、ただの黒い鏡だ。
そこに、ぼんやりと間の抜けた顔の僕が映っている。覇気のない目。
少し猫背の姿勢。
さっきまであれだけ生き生きとキーボードを叩いていた自分とは、まるで別人だった。

ズキリ、と胸が痛む。
これが現実。これが、本当の僕だ。

椅子から立ち上がり、重い足取りで窓辺へ向かう。
カーテンを開けると、窓の外には見慣れた住宅街の夜景が広がっていた。ぽつぽつと灯る街灯。
時折、ヘッドライトの光が走り去っていく。
どこにでもある、平凡で、退屈な風景。
さっきまで見ていた、光と歓声に満ちた世界とは、何一つ繋がっていない。

「はぁ…」



思わず、深いため息が漏れた。
学校に行きたくない。明日が来なければいいのに。
そんな子供じみたことを考えてしまう。

沈んだ気持ちのまま、ぼんやりと夜景を眺めていると、僕の脳裏に、二人の人間の顔が順番に浮かんできた。

一人は、今日の昼間に見た、月島蓮の顔。
女子生徒に囲まれても、一切表情を変えないクールな横顔。
ペンを拾った時の、洗練された指先の動き。
僕のことなんて、きっと視界にすら入っていない。
同じ教室にいるはずなのに、決して手の届かない、遠い世界の住人。
完璧で、眩しくて、近寄りがたい人間。

そして、もう一人。
画面の中で、くるくると表情を変えていた『砂糖しゅがあ』の顔。
ゲームに負けて悔しそうに唇を尖らせた顔。ファンからの応援に、嬉しそうに破顔した顔。僕のスパチャを見て、子どものようにはしゃいでくれた顔。僕を肯定し、癒し、明日を生きるための活力をくれる存在。

月島蓮と、砂糖しゅがあ。

片方は、僕が決して足を踏み入れることのできない現実の光。
もう片方は、僕が唯一安らげる仮想の光。

「…あまりにも、違いすぎるな」

僕は誰にともなく呟き、一人で苦笑した。
完璧でクールな月島蓮と、不完全であざと可愛い砂糖しゅがあ。
もし、あの月島蓮が、しゅがあの配信を見たら、一体なんて思うんだろう。
「こんなものに熱狂しているのか。くだらない」
きっと、そう言って冷たく鼻で笑うかもしれない。
彼の完璧な世界に、しゅがあのような存在が入り込む隙は、きっと1ミリもないだろう。

まあ、それでいい。
住む世界が違うんだから。交わるはずがない。
僕だけの神様は、僕だけの世界にいてくれれば、それでいいんだ。

僕はカーテンを閉め、現実の風景を遮断した。
ベッドに倒れ込むように潜り込み、再びスマートフォンを手に取る。先ほど終了した配信のアーカイブが、もう公開されていた。僕はそれを再生し、音量を最小にする。

枕元で、しゅがあの甘い声が子守唄のように流れ始めた。
彼の声を聞いていると、ささくれだった心が少しずつ凪いでいく。明日への憂鬱が、完全に消えるわけじゃない。でも、少しだけ、立ち向かう勇気が湧いてくる。

「おやすみ、しゅがあ」

心の中でだけ、そう呟いた。
明日を乗り切るための、最後の魔力チャージ。
退屈な現実と、『砂糖しゅがあ』のいる幸福な仮想世界。その二つの世界の狭間で、僕はゆっくりと意識を手放した。
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