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第9話:招集命令
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篠原美琴が、重厚な扉を押し開けたその瞬間――
空気の密度が、ひときわ変わった。
石造りの床。魔力が張り巡らされた天井。
封霊機構・本部最深部。
《封議の間》――当主および当主候補にのみ立ち入りが許される、最高機密区画。
篠原美琴は、ゆっくりとその部屋に足を踏み入れた。
円卓の向こうには、既に三人の姿があった。
まず一人――
「ようやく来たか、“お嬢様”」
嘲るような声で振り返ったのは、狩野 悠雅(かのう・ゆうが)。
黒髪を後ろで束ね、冷笑を浮かべる男。
旧家の生まれで、封呪師の才能こそあるが、他人を見下す癖がある。
「今日も気品たっぷりって感じだな? 着飾って何になりたいんだか」
そして、その隣には、紅い口紅を引いた女が座っていた。
彼女は退屈そうに爪を眺めながら、美琴に一瞥をくれる。
「いいんじゃない?実力が足りない分、外見だけでも整えてないとね」
彼女の名は朝霧 蘭(あさぎり・らん)。
封霊機構の諜報部門出身で、情報操作と人心掌握に長けた才女。
美琴は、その二人の挨拶に、微笑ひとつ崩さず、静かに腰を下ろした。
「ご心配ありがとう。あなたたちも、今日も相変わらず余裕がないのね」
言葉には刺を返す。
だが感情は見せない。
“当主候補”とは、そういうものだ。
最後に目が合ったのは、静かに席に座っていた青年――秋津 晶(あきつ・しょう)。
彼だけは無言で軽く頷き、美琴もまた小さく頷き返す。
この場で唯一、“敵意のない者”だった。
そしてその時、空間が静かに揺れる。
「――揃ったようだな」
奥の結界が開き、《封霊機構・第十代当主:御門 錬司(みかど・れんじ)。》が姿を現した。
白銀の髪に、深い紺の衣をまとった男。
その眼差しは、すでに候補たちの未来を見透かしているような冷たさを宿していた。
「……御門当主」
美琴は静かに頭を下げた。
狩野悠雅、朝霧蘭、秋津晶――そして、篠原美琴を含む4人の《次期当主候補》。
そのすべてが緊急で呼ばれるとは何事かが起きたのか。または新たな試練か。
「よく聞け。これはもはや試練ではない。緊急命令だ」
御門当主は、厳然と言い放った。
「第零封印区に異常が発生。封印が揺らいでいる」
空気が凍る。
封印機構最大の災厄――
その封印が、今、静かに脈打ち始めている。
「君たち4名には、これより共闘任務を命じる。
第零封印区へ赴き、現状を調査、必要とあらば“再封印の儀式”を行え。
全権は君たちに預ける。」
御門の声が、さらに低くなる。
その声音には、かつて戦場を支配した気と、今の肉体の限界が滲んでいた。
「……任務の失敗は、決して許されぬ」
低く、威厳に満ちたその言葉に、会議室が静まり返る。
「もし――“奴”の封印が完全に解かれれば、この世界は再び災厄の炎に焼かれることとなる。 我々封霊機構が何のために存在するか、貴様ら自身が最もよく知っているはずだ」
美琴たち候補の胸に、緊張が走る。
「本来ならば、この手で向かいたいところだ。だが……」
御門はそこで、わずかに咳き込んだ。
白い手が、口元を隠す。
指の隙間から、血がにじんでいた。
「……この様ではな。当主ともあろう者が情けないことだ」
美琴は、驚きに目を見開いた。
狩野悠雅でさえ、言葉を失ったままだ。
「だからこそ、今ある力を――“すべて”を、お前たちに託す。今回は、現時点で動ける機構の戦力を、惜しみなく投入する。 術者、補助兵、式神部隊、後衛班……すべてだ。 だが、それを統率するのはお前たち、当主候補4名に限られる」
その視線は、もはや“試される者”に向けられるものではなかった。
“後を託す者”を見る、後継者への眼差しだった。
「二度と災厄を繰り返さぬために――
命を賭しても、奴を再び眠らせろ」
「――篠原美琴。
この命、しかと受けたまわりました。
命を賭してでも、災厄を封じてみせます」
言葉には、一切の迷いがなかった。
美琴の中では、すでに覚悟が固まっていたのだ。
続いて、秋津晶が無言で一礼し、左手を胸に当てた。
「秋津晶、拝命。任務、遂行いたします」
その目には冷静な炎が灯っていた。
狩野悠雅は、ふてぶてしい笑みを浮かべつつも、その目に宿った闘志は本物だった。
「へっ……了解だよ。狩野悠雅、命令とあらば喜んで。
だが俺は、最強の座を奪いに行くつもりだぜ?」
朝霧蘭は口元に皮肉な笑みを浮かべながらも膝を折る。
「朝霧蘭、命に従います。まあ、私の実力を魅せるには丁度いい仕事でしょう」
4人の宣誓が終わった瞬間、御門当主は立ち上がった。
「よろしい。お前たちの覚悟、確かに聞き届けた。
ゆえに封霊機構当主、御門錬司の名において命ず」
重く、力強く。
「この任務、絶対成功を命ず。――以上」
「「「「はっ!」」」」
4人の声が揃い、封議の間に力強く響き渡る。
その瞬間――
機構に残された全霊力が、彼らに集い始めた。
《選ばれし者たち》の戦いが、今、幕を開ける。
空気の密度が、ひときわ変わった。
石造りの床。魔力が張り巡らされた天井。
封霊機構・本部最深部。
《封議の間》――当主および当主候補にのみ立ち入りが許される、最高機密区画。
篠原美琴は、ゆっくりとその部屋に足を踏み入れた。
円卓の向こうには、既に三人の姿があった。
まず一人――
「ようやく来たか、“お嬢様”」
嘲るような声で振り返ったのは、狩野 悠雅(かのう・ゆうが)。
黒髪を後ろで束ね、冷笑を浮かべる男。
旧家の生まれで、封呪師の才能こそあるが、他人を見下す癖がある。
「今日も気品たっぷりって感じだな? 着飾って何になりたいんだか」
そして、その隣には、紅い口紅を引いた女が座っていた。
彼女は退屈そうに爪を眺めながら、美琴に一瞥をくれる。
「いいんじゃない?実力が足りない分、外見だけでも整えてないとね」
彼女の名は朝霧 蘭(あさぎり・らん)。
封霊機構の諜報部門出身で、情報操作と人心掌握に長けた才女。
美琴は、その二人の挨拶に、微笑ひとつ崩さず、静かに腰を下ろした。
「ご心配ありがとう。あなたたちも、今日も相変わらず余裕がないのね」
言葉には刺を返す。
だが感情は見せない。
“当主候補”とは、そういうものだ。
最後に目が合ったのは、静かに席に座っていた青年――秋津 晶(あきつ・しょう)。
彼だけは無言で軽く頷き、美琴もまた小さく頷き返す。
この場で唯一、“敵意のない者”だった。
そしてその時、空間が静かに揺れる。
「――揃ったようだな」
奥の結界が開き、《封霊機構・第十代当主:御門 錬司(みかど・れんじ)。》が姿を現した。
白銀の髪に、深い紺の衣をまとった男。
その眼差しは、すでに候補たちの未来を見透かしているような冷たさを宿していた。
「……御門当主」
美琴は静かに頭を下げた。
狩野悠雅、朝霧蘭、秋津晶――そして、篠原美琴を含む4人の《次期当主候補》。
そのすべてが緊急で呼ばれるとは何事かが起きたのか。または新たな試練か。
「よく聞け。これはもはや試練ではない。緊急命令だ」
御門当主は、厳然と言い放った。
「第零封印区に異常が発生。封印が揺らいでいる」
空気が凍る。
封印機構最大の災厄――
その封印が、今、静かに脈打ち始めている。
「君たち4名には、これより共闘任務を命じる。
第零封印区へ赴き、現状を調査、必要とあらば“再封印の儀式”を行え。
全権は君たちに預ける。」
御門の声が、さらに低くなる。
その声音には、かつて戦場を支配した気と、今の肉体の限界が滲んでいた。
「……任務の失敗は、決して許されぬ」
低く、威厳に満ちたその言葉に、会議室が静まり返る。
「もし――“奴”の封印が完全に解かれれば、この世界は再び災厄の炎に焼かれることとなる。 我々封霊機構が何のために存在するか、貴様ら自身が最もよく知っているはずだ」
美琴たち候補の胸に、緊張が走る。
「本来ならば、この手で向かいたいところだ。だが……」
御門はそこで、わずかに咳き込んだ。
白い手が、口元を隠す。
指の隙間から、血がにじんでいた。
「……この様ではな。当主ともあろう者が情けないことだ」
美琴は、驚きに目を見開いた。
狩野悠雅でさえ、言葉を失ったままだ。
「だからこそ、今ある力を――“すべて”を、お前たちに託す。今回は、現時点で動ける機構の戦力を、惜しみなく投入する。 術者、補助兵、式神部隊、後衛班……すべてだ。 だが、それを統率するのはお前たち、当主候補4名に限られる」
その視線は、もはや“試される者”に向けられるものではなかった。
“後を託す者”を見る、後継者への眼差しだった。
「二度と災厄を繰り返さぬために――
命を賭しても、奴を再び眠らせろ」
「――篠原美琴。
この命、しかと受けたまわりました。
命を賭してでも、災厄を封じてみせます」
言葉には、一切の迷いがなかった。
美琴の中では、すでに覚悟が固まっていたのだ。
続いて、秋津晶が無言で一礼し、左手を胸に当てた。
「秋津晶、拝命。任務、遂行いたします」
その目には冷静な炎が灯っていた。
狩野悠雅は、ふてぶてしい笑みを浮かべつつも、その目に宿った闘志は本物だった。
「へっ……了解だよ。狩野悠雅、命令とあらば喜んで。
だが俺は、最強の座を奪いに行くつもりだぜ?」
朝霧蘭は口元に皮肉な笑みを浮かべながらも膝を折る。
「朝霧蘭、命に従います。まあ、私の実力を魅せるには丁度いい仕事でしょう」
4人の宣誓が終わった瞬間、御門当主は立ち上がった。
「よろしい。お前たちの覚悟、確かに聞き届けた。
ゆえに封霊機構当主、御門錬司の名において命ず」
重く、力強く。
「この任務、絶対成功を命ず。――以上」
「「「「はっ!」」」」
4人の声が揃い、封議の間に力強く響き渡る。
その瞬間――
機構に残された全霊力が、彼らに集い始めた。
《選ばれし者たち》の戦いが、今、幕を開ける。
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