彼女にフラれた俺は、封印された何かと暮らすことになった

雷覇

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第22話:久々の登校

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朝のホームルームが終わり、教室内がざわめいている。
久々に姿を見せた三神静馬に、クラスの空気はざわついていた。
だが、静馬本人は騒がれるのも気にせず、淡々と席に着いている。

そんな中、彼の机に近づいてくる影がひとつ。

「三神くん。おかえり」

視線を上げると、そこにいたのは氷室 澪(ひむろ みお)。
黒髪を一つに束ねたクラス委員で、几帳面で物腰の柔らかい少女だ。

「……ああ、ただいま」

静馬が短く返すと、氷室は少しだけ笑みを浮かべて首を傾げる。

「ずっと休んでたから……心配してたよ。みんなもだけど、私も。
先生も家庭の事情って言ってたけど、正直、行方不明扱いだったんじゃない?」

「……かもな」

「でも、こうして戻ってきてくれてよかった。
クラスの委員としても、安心したっていうか……」

そう言いながら、氷室はそっと自分の出席簿を見せる。
静馬の名前の列に、ずらりと並ぶ欠席の印。

「何度、欠席って書いたかわかる?」

「……悪かったな」

「ううん、いいの。無事ならそれで。……でも、ひとつ聞いてもいい?」

氷室の表情が、少しだけ真剣なものに変わる。

「篠原さん……今日も来てないんだけど。
夏休み前からずっと。……何か聞いてる?」

静馬はわずかに表情を曇らせる。

「……さあ。俺も夏休み前から会ってないし」

「……そっか。まぁ、気になっただけ」

氷室は静かに頷いて、その場を離れた。

(……美琴、なんで来てないんだよ)

静馬は窓の外に視線を向けたまま、口を動かさずに微かに唇を動かす。

(……見えてるか?ラウラ)

机の上のペンがカタリと揺れる。
それが、彼女からの「聞いている」という合図だった。
静馬は誰にも聞こえないよう、口元を微かに動かす。

(美琴……登校していない。
 せっかく山を下りてきたっていうのに。どうしたもんかな?)

黒板に視線を向けているふりをしながら、心の内は渦巻いていた。

(偶然、家庭の都合なのか……それとも本当に機構の人間なのか。
 いや、違う。違っててほしい。そんなバカな話、あるわけ――)

――あるわよ。

脳内に、くぐもったラウラの声が響いた。

(……っ! 勝手に入ってくるな)

――私の霊気に触れながら、思考ダダ漏れで聞くなは無理があるわよ。

(……チッ)

静馬は少しだけ顔を伏せ、左手を頬に当てるふりをして口元を隠す。

(……どう思う。あいつがこっち側の人間だったら。家に)

――なら、なおさら話すべきじゃない?

(そんな簡単に――)

――あら、そうだった。振られた男のプライドってやつ?

(……っ!)

――見えないのをいいことに、ツッコミし放題ね。

ラウラは楽しげに言う。だが、その声色には僅かな優しさも混ざっていた。

――でもね静馬、あなたは自分の意志でここに戻ってきたのよ。
 何もせずにいたら後悔するわよ。

静馬は、ゆっくりと息を吐いた。

(……霊体のくせに、うるさいな)

――霊体に頼られてるのはどっち?

(……うっさいよ)

教室では誰も気づかずに、少年と霊の少女が、
そんな言葉を交わしていた。

終礼のチャイムが鳴ると同時に、生徒たちは一斉に立ち上がった。

「やっと終わった……」
「部活行くぞー!」
「エアコンのない教室は地獄すぎる……」

そんなざわつく空気の中、静馬も鞄を手にしてそっと立ち上がった。

(よし、今日はもう帰る。あとは考えない。何も考えず、飯食って寝――)

「三神くん、ちょっと職員室まで来てもらえるかな?」

ピタッ。

教壇の前にいた古文の女性教師・柏木先生が、
にっこりと笑いながら手招きしていた。

「え……俺、何かしました?」

「してないわよ。ただ、しなかった事が山ほどあるわね」

笑顔の裏にうっすら怒気がこもっている。

「……あの、補習って言葉が、頭をよぎってるんですけど」

「正解。夏前からの欠席ぶん、個別で進度を合わせる必要があるの。
今日から毎日、補習ね」

「ちょ、ちょっと待ってください!今日は帰らなきゃいけない用事が……」

「はいはい、用事は成績の回復ね。ちゃんと記録してあるから逃げられないわよ」

静馬が半歩後退する。

(……ラウラ、逃げるぞ!)

「そこの三神くん、窓から出ようとしても無駄よ。
ちゃんと廊下にも見張り立ててあるから」

「……!?」

対応早すぎない?この先生、戦術家か何か?

(マジか……俺より手際いい……)

じりじりと逃げ腰になる静馬を、柏木先生は満面の笑みで追い詰める。

「こっちもね、夏休み返上して教材作ったの。
だからあなたも付き合ってちょうだい、ね?」

「……っく、戦いより怖ぇ……」

結局、静馬はずるずると引きずられるように教室を出ていった。
その肩には、霊体のラウラがひっそりと乗っていた。

――ご愁傷様。頑張って、静馬。

「(霊体が他人事みたいに言うなああああっ!)」

夕暮れの廊下に、静馬の心の叫びが響き渡った。
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