才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった

雷覇

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第1章

第57話:王宮を狙う影

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結局、彼女の押しと脅しに根負けした形で、リリーナの頼みを引き受けることになった。神殿の侍女にして、聖女のおつき。だが、彼女の言動は清楚さよりも、ちゃっかりさが勝っている。

翌夜、蒼真は王都の裏通りに足を運んでいた。
月明かりすら届かぬ細い路地は湿った石の匂いが立ち込め、
昼間とは別の街の顔を見せている。
壁の隙間に潜むような影が、時折こちらを窺うように動く。

(……怪しい連中ってのは、こいつらか)

リリーナが言っていた通り、数人の男たちが大きな木箱を運び込んでいるのが見えた。手際は慣れたもので、周囲を警戒する視線も鋭い。
蒼真は建物の陰に身を潜め、息を殺す。

運び込まれる木箱のひとつが、不自然に揺れた。
中からかすかに、金属が触れ合う音――。

(武器か、それとも……)

男たちの会話は小声で、内容までは聞き取れない。
だが、彼らの一人が「今夜中に王宮近くまで運ぶ」と漏らしたのを聞き逃さなかった。

蒼真は目を細め、影の中で心中を決める。

(……やっぱり一筋縄じゃいかないな。面倒なことに首突っ込んでる感じがする)

だが、ここまで来た以上、見届けるしかない。
蒼真は静かに体勢を変え、より深く闇に紛れた。

蒼真は、建物の陰に身を潜めたまま、じっと男たちの動きを観察していた。
木箱を抱えた彼らは、周囲を警戒しながら路地の奥へと進んでいく。
月明かりの差さない裏路地は、静かに湿った空気をたたえ、遠くで水滴が落ちる音だけが響く。

(……王宮の近くに運ぶ、か。どう考えても怪しいよな)

男たちの動きを追いながら、蒼真は気配を殺して屋根に飛び移った。
夜の王都の屋根は、瓦の冷たさと夜風が肌を刺す感覚がある。
暗闇の中、足音をほとんど立てずに尾行を続ける。

やがて、男たちは古い倉庫の前で足を止めた。
扉の前には別の見張りらしき人物が立ち、軽く合図を交わすと、木箱は中へと運び込まれていく。扉が閉まる瞬間、倉庫の中からぼんやりとした赤い光が漏れた。

(……灯りの色が妙だな。普通の明かりじゃない。魔力の灯りか?)

蒼真は気配を消し、倉庫の側面へと移動する。
板壁の隙間からそっと覗くと、そこには異様な光景が広がっていた。

運び込まれた木箱が次々に開けられ、中には黒布に包まれた武具や、見たことのない金属製の筒が並んでいる。
さらに奥では、フードをかぶった男が何やら呪符のようなものを貼り付けていた。

(ただの密輸じゃない。魔術絡みか?)

その時、見張りの一人が不意に振り返り、視線を周囲に走らせる。
蒼真は即座に息を殺し、屋根の陰に身を伏せた。

心臓の鼓動が、夜の静寂にやけに大きく響くように感じる。
やがて、見張りは何事もなかったかのように持ち場へ戻った。

(……王国に来てから面倒ごとにばかり巻き込まれる)

苦笑しながらも、蒼真は目を離さなかった。
このまま放っておけば、神殿に何が運ばれるのかは明らかだ。

(とりあえず、証拠と情報は押さえておくか……)

蒼真は手を刀の柄にかけ、闇に溶けるように身を低く構えた。
息を殺し、屋根の影に身を潜めたまま様子をうかがった。
倉庫の前で男たちが木箱を運び終えると、扉は重々しい音を立てて閉ざされる。
内部からは、かすかな話し声と、金属を擦るような音が漏れ聞こえてきた。

(……今だ)

屋根から飛び降りると、静かに倉庫の裏手に回り込む。
そこには古びた小窓があり、板の隙間からわずかに中が覗ける。
蒼真は慎重に覗き込み、目に映った光景に眉をひそめた。

倉庫の中には開けられた木箱が並び、黒い布に包まれた武具や、金属製の筒状の物体がぎっしりと詰められている。
その一つには、魔術の刻印のような文字が彫り込まれていた。
さらに奥の作業台では、フードを被った男が呪符のような紙を筒に貼り付けている。

(……武器の密輸か、それとも魔術兵器か?)

蒼真は袖の中から薄い紙と墨鉛筆を取り出し、手際よく倉庫内部の配置や品の形状を描き写す。リリーナに言われるまでもなく、これだけの証拠があれば王宮も動くだろう。

作業を続ける男たちの声が、夜気に紛れてかすかに届く。

「今夜中に全部仕上げちまえ」
「抜かりは許されねぇってさ」

その言葉に、蒼真は目を細めた。
(……何か隠してるな)

必要な証拠を手にした蒼真は、静かにその場を離れ、屋根伝いに倉庫を抜け出した。
夜の闇に紛れて人気のない路地を選びながら、宿へ戻る途中、彼はふと立ち止まり、ひとつ息を吐く。

(……リリーナの頼み、ただの気まぐれじゃなかったか。これは放っておけない)

証拠は掴んだ。だが、それだけでは全貌が見えない。
蒼真は歩みを止め、向きを変える。

――戻る。もっと近づく必要がある。

相手の懐に踏み込み、正体を突き止める。
そのためには危険を承知で、もう一度、あの連中の中に身を潜める覚悟がいる。
蒼真は静かに頷き、闇の中へと再び姿を消した。
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