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第1章
第63話:魔族の尖兵との出会い
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重く、鈍く、黒い瘴氣を引きずるような気配が、倉庫の奥からにじみ出してくる。
それは獣のような荒々しさではない。
だが、人と呼ぶにはあまりにも異質だった。
まるで、瘴氣そのものが意志を持ち、自ら形を成して歩み出したかのような――そんな禍々しい存在感。
「……ようやく気づいたか。人間ども」
低く、冷ややかな声が倉庫全体に響いた。
音ではなく、圧として胸に突き刺さるような声だった。
そこに立っていたのは、一見すれば青年にも見える姿。
だが、目を見ればすぐに分かる。燃えるような深紅の瞳。
肌のあちこちから滲み出る黒い瘴氣が、まるで呼吸のたびに空間を汚染していくように揺れている。
「お前は……魔族か?」
蒼真が警戒の色を浮かべて問うと、男は口元を吊り上げて嗤った。
「ああ。覚える必要もないだろうが――《ベルク》だ。
名乗ったところで、お前たちはここで死ぬ運命だがな」
その言葉と同時に、空間が一変した。
まるで倉庫全体が深い水の底に沈んだような、圧倒的な重圧。
壁という壁が黒く濁り、瘴氣の奔流が空気そのものを蝕んでいく。
「リリーナはそれの解体に専念してくれ……あいつは俺が止める」
「ええ。任せて。だから、あなたは……負けないで」
短く交わした言葉に、揺るぎない信頼がこもっていた。
リリーナは魔道具の解体へと向かい、蒼真はまっすぐベルクを睨む。
「これ以上、好きにはさせない。覚悟しろ、魔族ベルク!」
蒼真の氣が静かに高まり、足元の床板がわずかに軋む。
対するベルクも、ただ立っているだけで瘴氣を波のように揺らめかせる。
二つの氣がぶつかり合い、倉庫の空間が悲鳴を上げるように軋んだ。
その瞬間、ベルクの表情がふと変わった。
眉がわずかに動き、興味を示すような目で蒼真を見据える。
「……ほう?」
低く漏れた声に、わずかな違和感が滲んでいた。
ベルクは一歩踏み出し、鼻を鳴らす。
「妙だな。お前……ただの人間じゃない」
蒼真は構えを崩さない。
だが、ベルクの視線が左眼に注がれたのを感じた。
「なるほど。微かだが、瘴氣に似た匂いが混じっている。
人間の氣ではない。だが魔族とも違う……境界に立つような気配だ」
彼の目が、蒼真の顔――いや、眼帯に隠された左眼へと注がれる。
「……左眼か」
興味を含んだ声が、やがて嘲りへと変わる。
「隠すように覆ってるのがまた怪しいな。そこにあるんだろう?
人の身に似つかわしくない、異質な力が」
蒼真は、ベルクの赤い瞳がじっと自分を見据えているのを感じながら、内心で静かに息を詰めていた。肌にまとわりつくような瘴氣の圧力――それ以上に恐ろしいのは、魔族の本能的な勘だった。
(……こいつ、気づきかけてる)
ベルクの視線は的確に左眼を見ている。
深くは悟られていない。だが、確実に疑念を抱かれている。
――魔族のスキル。
自分の内に眠るその力は、本来、人の身に宿ってはならない異物だ。
誰にでも打ち明けられるようなものではないし、口にした瞬間、すべてが崩れる。
もし知られれば――魔族は必ず、それを取り戻しに動くだろう。
いや、それどころか、スキルが奪えるという事実が人間側に知れ渡れば……
その力を狙う者が、今度は人の中から現れるかもしれない。
どちらにしても、自分は標的になる。
(異物として扱われるのはわかってる。……だけど)
それでも蒼真は、その力を手放す気はなかった。
それは奪ったものではない。
血の中に焼きついた、師との戦いと、命の意味を背負った証だった。
(この力がある限り……僕は誰よりも深く戦いに踏み込める。これ以上……語る必要はない)
蒼真は静かに、左眼にかかる布へと手を伸ばした。
ベルクの嗤いが止まる。
その目が、わずかに鋭さを増す。
「やはり……相当な秘密らしいな」
「答える義理はない」
淡々と告げたその声に、ベルクの口元が歪む。
嗤いが、獣のような冷笑へと変わっていく。
「フン……いいさ。わざわざ語る必要などない」
そう言いながら、ベルクはゆっくりと足を踏み出した。
その歩みはまるで獲物を嬲るように悠然としている。
瘴氣が彼の周囲に濃く渦を巻き、床が軋むほどの重圧を帯びていく。
「だがな――」
赤い瞳が蒼真を射抜く。
そこに浮かぶのは、紛れもない興味と執着。
「お前の中には、明らかに人ではない何かがある。
それが何か、俺の手で暴いてやる。首を落としたあとでな」
空気が震える。
ベルクの背後から吹き出した瘴氣が、触れた空間を染め上げるように広がっていく。
それはただの氣の流れではない。破壊と支配の意思を宿した、魔そのものの気配だった。
「お前の心も、血も、骨も――全て引き裂いて、ゆっくりと調べてやる。
死体となってからでも、秘密は引き出せるんでな」
それでも蒼真は一歩も引かない。
むしろその目は、ベルクの中にある本質を静かに見据えていた。
「そうか……なら、まずはその口を黙らせてやる」
静かな言葉が、気配とともに鋭く放たれる。
剣を抜く音すらない。
氣が収束し、闇が震える。
ベルクの頬がぴくりと引きつる。
殺意が交差したその瞬間――
戦いが、始まった。
それは獣のような荒々しさではない。
だが、人と呼ぶにはあまりにも異質だった。
まるで、瘴氣そのものが意志を持ち、自ら形を成して歩み出したかのような――そんな禍々しい存在感。
「……ようやく気づいたか。人間ども」
低く、冷ややかな声が倉庫全体に響いた。
音ではなく、圧として胸に突き刺さるような声だった。
そこに立っていたのは、一見すれば青年にも見える姿。
だが、目を見ればすぐに分かる。燃えるような深紅の瞳。
肌のあちこちから滲み出る黒い瘴氣が、まるで呼吸のたびに空間を汚染していくように揺れている。
「お前は……魔族か?」
蒼真が警戒の色を浮かべて問うと、男は口元を吊り上げて嗤った。
「ああ。覚える必要もないだろうが――《ベルク》だ。
名乗ったところで、お前たちはここで死ぬ運命だがな」
その言葉と同時に、空間が一変した。
まるで倉庫全体が深い水の底に沈んだような、圧倒的な重圧。
壁という壁が黒く濁り、瘴氣の奔流が空気そのものを蝕んでいく。
「リリーナはそれの解体に専念してくれ……あいつは俺が止める」
「ええ。任せて。だから、あなたは……負けないで」
短く交わした言葉に、揺るぎない信頼がこもっていた。
リリーナは魔道具の解体へと向かい、蒼真はまっすぐベルクを睨む。
「これ以上、好きにはさせない。覚悟しろ、魔族ベルク!」
蒼真の氣が静かに高まり、足元の床板がわずかに軋む。
対するベルクも、ただ立っているだけで瘴氣を波のように揺らめかせる。
二つの氣がぶつかり合い、倉庫の空間が悲鳴を上げるように軋んだ。
その瞬間、ベルクの表情がふと変わった。
眉がわずかに動き、興味を示すような目で蒼真を見据える。
「……ほう?」
低く漏れた声に、わずかな違和感が滲んでいた。
ベルクは一歩踏み出し、鼻を鳴らす。
「妙だな。お前……ただの人間じゃない」
蒼真は構えを崩さない。
だが、ベルクの視線が左眼に注がれたのを感じた。
「なるほど。微かだが、瘴氣に似た匂いが混じっている。
人間の氣ではない。だが魔族とも違う……境界に立つような気配だ」
彼の目が、蒼真の顔――いや、眼帯に隠された左眼へと注がれる。
「……左眼か」
興味を含んだ声が、やがて嘲りへと変わる。
「隠すように覆ってるのがまた怪しいな。そこにあるんだろう?
人の身に似つかわしくない、異質な力が」
蒼真は、ベルクの赤い瞳がじっと自分を見据えているのを感じながら、内心で静かに息を詰めていた。肌にまとわりつくような瘴氣の圧力――それ以上に恐ろしいのは、魔族の本能的な勘だった。
(……こいつ、気づきかけてる)
ベルクの視線は的確に左眼を見ている。
深くは悟られていない。だが、確実に疑念を抱かれている。
――魔族のスキル。
自分の内に眠るその力は、本来、人の身に宿ってはならない異物だ。
誰にでも打ち明けられるようなものではないし、口にした瞬間、すべてが崩れる。
もし知られれば――魔族は必ず、それを取り戻しに動くだろう。
いや、それどころか、スキルが奪えるという事実が人間側に知れ渡れば……
その力を狙う者が、今度は人の中から現れるかもしれない。
どちらにしても、自分は標的になる。
(異物として扱われるのはわかってる。……だけど)
それでも蒼真は、その力を手放す気はなかった。
それは奪ったものではない。
血の中に焼きついた、師との戦いと、命の意味を背負った証だった。
(この力がある限り……僕は誰よりも深く戦いに踏み込める。これ以上……語る必要はない)
蒼真は静かに、左眼にかかる布へと手を伸ばした。
ベルクの嗤いが止まる。
その目が、わずかに鋭さを増す。
「やはり……相当な秘密らしいな」
「答える義理はない」
淡々と告げたその声に、ベルクの口元が歪む。
嗤いが、獣のような冷笑へと変わっていく。
「フン……いいさ。わざわざ語る必要などない」
そう言いながら、ベルクはゆっくりと足を踏み出した。
その歩みはまるで獲物を嬲るように悠然としている。
瘴氣が彼の周囲に濃く渦を巻き、床が軋むほどの重圧を帯びていく。
「だがな――」
赤い瞳が蒼真を射抜く。
そこに浮かぶのは、紛れもない興味と執着。
「お前の中には、明らかに人ではない何かがある。
それが何か、俺の手で暴いてやる。首を落としたあとでな」
空気が震える。
ベルクの背後から吹き出した瘴氣が、触れた空間を染め上げるように広がっていく。
それはただの氣の流れではない。破壊と支配の意思を宿した、魔そのものの気配だった。
「お前の心も、血も、骨も――全て引き裂いて、ゆっくりと調べてやる。
死体となってからでも、秘密は引き出せるんでな」
それでも蒼真は一歩も引かない。
むしろその目は、ベルクの中にある本質を静かに見据えていた。
「そうか……なら、まずはその口を黙らせてやる」
静かな言葉が、気配とともに鋭く放たれる。
剣を抜く音すらない。
氣が収束し、闇が震える。
ベルクの頬がぴくりと引きつる。
殺意が交差したその瞬間――
戦いが、始まった。
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