才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった

雷覇

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第1章

第65話:瞬きも許さぬ戦闘

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地面が悲鳴を上げるような破裂音とともに、ベルクが蒼真の懐へ飛び込んだ。
これまでの連撃はあくまで試し。今の踏み込みは、捕獲を前提とした本命の一撃。

瘴氣を纏った腕が、蛇のようにうねりながら横薙ぎに迫る。
それはただの拳ではなく、掴み取って骨ごと粉砕するための動きだった。

(速い……!)

蒼真は反射的に上体を反らし、髪をかすめる瘴氣の奔流を感じた。
避けた瞬間には、背後で空気が裂ける低い轟音が響く。
もし直撃していれば、背骨が粉々に砕けていたことは疑いようもない。

「ほぉ……まだ避けるか」

ベルクは、掴み損ねた腕をそのまま床に叩きつけた。
石床が陥没し、亀裂が放射状に走る。

その間にも、蒼真は距離を取ろうと後退する。だが、ベルクの足がそれを許さない。一歩踏み込むたびに、空間そのものが瘴氣で押しつぶされるように重くなる。

(……距離を取らせない気か)

ベルクの狙いが読めた瞬間、蒼真の背筋を冷たい感覚が走る。
殴り続けているようでいて、その実、動線を削り、逃げ場を奪う包囲網を築き上げている。

「次で終わりだ」

ベルクの低い声と共に、瘴氣が全身から爆ぜた。
黒い衝撃波の中、巨腕が真っ直ぐ蒼真の胸を狙う。

ここで反撃に出るか、それともかわし切るか。一瞬の判断が勝敗を分ける局面だった。

ベルクの拳が一直線に迫る。
それは先程までの連撃とは違い、無駄も遊びもない、純粋な殺意だけを宿した一撃。

(……正面から受けたら終わる)

蒼真はわずかに腰を沈め、足裏で床を擦るようにして半歩横へ流れる。
拳が胸元をかすめ、布地が裂ける音と共に、瘴氣の熱が肌を焼いた。
同時に、足場ごと吹き飛ばすような衝撃が背後の壁を叩き割る。

破片が飛び散る中、蒼真は呼吸を整え、視線だけでベルクを捉える。
相手は拳を引き戻しながらも、わずかに目を細めた。

「……避けやがったか」

その声に苛立ちはなく、むしろ楽しげな響きが混じっている。
ベルクの両肩から立ち上る瘴氣はさらに濃く、黒い炎のように揺らめき、周囲の空気を軋ませていた。

(……この距離、この空間。このままかわし続けても埒が明かない)

蒼真は左手を柄に添え、右足を半歩引く。
刃を抜くか、まだ見極めるか――わずかな逡巡。

ベルクの唇が嗤いに歪む。
「今度は、避けられると思うなよ」

床を割る踏み込みと共に、巨腕が再び迫る。
だが、その瞬間。蒼真の瞳が鋭く光った。
次の瞬間、蒼真の身体がしなるように沈み込み、初めて反撃のための間合いへと踏み込んだ。

ベルクの拳が目前を裂く。
だが蒼真はその軌道を、紙一重で潜り抜けた。
踏み込みの勢いを殺さず、腰を回しながら懐へ滑り込む。

(重い攻撃ほど、死角は大きい……!)

ベルクの脇腹――わずかに開いた隙に、蒼真の拳が突き込まれた。
剣ではない、素手による掌底。
だがその一撃には、練り上げた氣が凝縮されていた。

「ッ……!」

鈍い衝撃音と共に、ベルクが半歩よろめく。
普通の人間なら肋骨が砕ける一撃。だが、魔族の肉体はそれでも崩れ落ちない。

「へぇ……殴り合いもできるのか」

嗤いながらも、その眼には明らかな警戒が宿る。
ベルクは即座に反撃の腕を振り上げた。だが蒼真はすでに距離を離していた。

(効きは浅い……けど、こいつに通ることは分かった)

ベルクの瘴氣が再び膨れ上がる。
黒い靄が床を這い、壁を伝い、戦場全体が圧迫感を帯びていく。

「面白ぇ……じゃあ次は、本当に壊す」

低く唸るような声と共に、ベルクの全身から迸る瘴氣が形を成し始める。
それは拳ではなく、瘴氣で作られた獣の腕のような巨大な影。
蒼真を押し潰すために振り下ろされようとしていた。

(……避け切れるか? いや――ここは)

蒼真の指が、ゆっくりと剣の柄へとかかる。
次の瞬間、空気が切り裂かれる音が戦場を満たした。

瘴氣の腕が唸りを上げて振り下ろされる。
まるで大地ごと押し潰すかのような質量感。
その瞬間、蒼真の足元がわずかに沈み、空気が鋭く張り詰めた。

(――間合いは、ここだ)

柄にかけた指が一気に締まり、蒼真の身体が閃光のように前へ。
抜き打ちの一閃が、ベルクの腕の付け根を正確に斬り裂いた。

「……ッ!」

ベルクの表情が歪む。
斬られた瘴氣は瞬時に霧散し、形を保てず空中に溶けた。

だが、ベルクは即座にもう片方の拳を振り抜く。
今度は瘴氣ではなく、自らの肉体。骨と筋肉がきしむ生の一撃だ。
蒼真は踏み込みの勢いを殺さず、身を沈めて再び紙一重で回避。
すれ違いざま、刃先がベルクの肩口を掠め、血が飛沫となって舞った。

「……やるじゃねぇか、人間」

ベルクは嗤いながらも、その瞳の奥に初めて焦りの色を宿す。

(こいつ……ただの速さじゃない。氣の流れを読んで動きを先回りしてやがる)

一歩引けば距離を取られる。ベルクはそれを悟り、さらに瘴氣を濃くする。
戦場の空気は重く、呼吸すら困難になるほど圧し潰されていく。

「次は……避けられねぇぞ」

床を抉る踏み込みと共に、両腕が十字に交差し、全方位を覆う瘴氣の衝撃波が解き放たれた。ここをかわすか、あるいは斬り裂くか。蒼真の判断は一瞬だった。

蒼真の視界が、黒い奔流で塗り潰される。
それは拳でも斬撃でもなく、ただ存在そのものを押し潰す暴力的な衝撃。
皮膚が裂ける前に、肺が潰れそうなほどの圧が全身を包み込んだ。

(……斬る)

迷いはなかった。
蒼真は左足を軸に腰を深く落とし、柄を握る両腕に氣を集中させる。
次の瞬間――刃が鞘から放たれ、一直線の光が黒の渦を切り裂いた。

「避けられないなら。斬るだけだッ!」

金属ではない、氣と氣がぶつかる鈍く鋭い音が響く。
衝撃波は真っ二つに裂け、左右へと吹き飛んだ。
だがその直後、斬り裂いた隙間からベルクが躍り出る。

剛腕が振り下ろされる瞬間、蒼真は残心のまま半歩踏み込み、剣を水平に払った。
斬撃と拳が交差し、爆ぜるような衝撃が戦場を揺らす。
床石が砕け、瘴氣が渦巻き、二人の足元から風が吹き上がった。

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