才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった

雷覇

文字の大きさ
91 / 96
第1章

第91話:雷の勇者墜つ

しおりを挟む
胸を上下させながら荒い息を吐くレグナは、氷に閉じ込められたギルとイリアを見据えた。仲間――いや、暴れることだけを共有した共犯者。その姿は哀れで、無様で、しかし何よりも現実を突きつけていた。

(……チッ。あっけなくやられやがって。まったく役立たずどもが)

拳を握りしめながらも心の奥底では分かっていた。
どれだけ荒れ狂おうが自分の力では届かない壁がある。

(化け物だ……あんなの人間が勝てる相手じゃねぇ……!)

思い返すのは、巨体が一歩踏み出すたびに地が震える感覚。
視線ひとつで息が詰まり、声を聞いただけで肺が凍りつく。
神器を振るっても、かすり傷すら残らない。

(この世界に来てからずっと好き勝手に暴れて、欲望のままにぶち壊してきた。
誰も止められなかった。俺の槍に立ちはだかる奴なんざ、一人もいなかった……!)

思い返すのは、燃え落ちる街、呻き声を上げて転がる泣き叫ぶ人々。力を手にして以来、すべてが玩具でしかなかった。壊すことが正義であり、暴力こそが快楽だった。

(なのに……!)

眼前に立つ巨影――グラウゼル。
今まで享受してきた暴力の優越がすべて粉々に打ち砕かれる。

(あんな化け物と……戦えるかよ……勇者? そんなもん知るか! 俺は生き延びる……!)

次の瞬間、レグナの足は無意識に後ろへ跳び闇の中へと駆け出していた。
土煙を巻き上げながら必死に駆け出し、石につまずき、転びかけては顔を歪める。
その姿は、もはや勇者と呼べるものではなく、ただ狩られるのを待つだけの哀れな獣に過ぎなかった。
その背を、グラウゼルは冷ややかな眼差しで見ていた。

「……逃げられると思うか」

低く吐き出された声とともに、巨体が一歩を踏み出す。

(逃げろ……逃げろ……! 仲間? 知るか! 役立たずが勝手に凍ってるだけだ!)

しかし背後から響くのは、地を揺るがす巨獣の足音。あらゆる抵抗を嘲るような轟きだった。振り返った瞬間、グラウゼルの圧倒的な影が迫り来る。
呼吸は乱れ、肺は焼けるように軋み、視界の端は白く霞んでいった。

「やめろォォッ! 来るなぁぁぁ!!」

「敵を前にして背を向けるとは……愚か者が!」

拳から放たれる圧力が、轟音と共にレグナの背へ叩きつけられた。
骨がきしみ、肺の奥から絞り出されるような呻き声が漏れる。

「ぐあああッ……!」

大地が震え、背中に走る衝撃は皮膚を突き破り、内臓を捻じ曲げるかのようだった。
その一撃はただの打撃ではない、圧倒的な氣そのものが、容赦なく肉体を貫ぬく。

レグナは地に膝をつき、血を吐きながら必死に顔を上げた。
その瞳には誇りも矜持もなく、ただ生に縋る醜悪な光が宿っていた。

「ま、待て……! お、俺は……降伏する……!」
「魔族だろうがなんだろうが、仲間になる……だから、命だけは……!」

震える声で必死に吐き出す言葉は、かつて勇者と呼ばれた男の面影を完全に打ち砕く。その姿に、戦場の空気が凍りついた。

グラウゼルはしばし黙したまま、哀れな命乞いを耳にしていた。
やがて、その眼光からは怒りすら消え、ただ深い失望だけが宿る。

「こんなものが勇者か……。期待などするだけ無駄だった」

低く響く声が、大地を震わせる。
次の瞬間、巨拳が振り下ろされ、雷鳴のような衝撃が戦場を揺るがした。

「――消えろ」
「い、いやだぁあああッ!!」

恐怖と絶望の叫びが響き渡る。だが、その声はすぐに掻き消された。
巨腕が振り下ろされ、骨と肉が砕け潰れる鈍い音が響き渡る。
鮮血が飛沫となって舞い、地面に叩きつけられた肉体は二度と動かない。
かつて勇者と呼ばれた男の声は、無惨な破砕音にかき消され跡形もなく途切れた。

グラウゼルは二度と動かぬ骸を一瞥し、冷ややかに吐き捨てた。
「背を向け、命を乞う者に剣を持つ資格はない。こいつは勇者などでは断じてなかった」

その言葉が風に溶け重苦しい沈黙だけが残った。
やがて、そこへイリスとベルクが歩み寄ってきた。
二人は血塗れの地に沈むレグナを一瞥し、グラウゼルへと視線を向ける。

「仕留めたみたいですね」
イリスが口元に笑みを浮かべ、楽しげに問いかける。

グラウゼルは無表情のまま低く唸った。
「これほどあっけなく終わるとはな。勇者と呼ぶには、あまりに脆い」

その言葉を吐き終えると、巨体をゆっくりと翻し、冷ややかな眼差しをベルクへと向ける。

「ベルク――この死骸を王都の近くに晒してこい。勇者が倒れたと知れ渡れば、奴らも動揺するだろう」

「承知しました。ただ……できれば、もう少し見栄えよく仕留めてくださればよかったのですがね」
血に塗れた亡骸を一瞥しながら、ベルクは肩をすくめた。

その日、王都の門近くを行き交う人々は、思わず足を止めて凍りついた。
街道脇に打ち込まれた巨大な槍。その穂先には、無惨な人間の死骸が突き刺されていたのだ。

「ゆ、勇者……レグナ……!」
「うそだ……勇者様が……」

農民は悲鳴を上げ、兵士たちは蒼白な顔で槍を見上げる。
街に入った噂は瞬く間に広がり、王都全体を揺るがした。

「勇者でも魔族には勝てないのか……」
「じゃあ、俺たちを守るのは誰なんだ……」
「もう終わりだ……魔族が攻めてくる……!」

恐怖と絶望の声が市場にも、貴族街にも溢れていく。
人々の心に希望を与えるはずだった勇者の死は、まるで王都そのものの防壁を打ち砕くかのように、人々の士気を根こそぎ奪っていった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。 無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。 やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。

現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。 ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。 しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。 奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。 そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。

処理中です...