才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった

雷覇

文字の大きさ
19 / 96
第1章

第19話:セリスとの出会い

しおりを挟む
蒼真は、神刀祭の受付会場へと足を進めていた。
城下の広場に設置された特設受付所。すでに剣士志望の男たちが列を作っており、彼もそこに並ぼうとした、その時だった。

「そこのあなた。そこの黒き眼の方」

澄んだ声が、突如通りの向こうから飛んできた。
振り返ると、白と金の神官服をまとった、一風変わった雰囲気の少女がこちらを指さしていた歳は十六、七だろうか。どこか浮世離れした瞳と、不自然なまでにふわふわした口調。

「あなたに神の声が届いております。無視すると、ちょっとした神罰が降るかも……です」

蒼真は眉をひそめる。
「……勧誘なら他をあたってくれ」

「違います。これは神の導きなんです。あ、拒否しても構いませんけど……その場合、あなたの旅路には一生、突然のにわか雨がつきまといますよ」

「……それ、神罰っていうか、ただの嫌がらせだろ」

少女は咳払いした後、真顔で言った。

「今のは冗談です。この時代に人でありながら魔の加護持ちである人……実際に存在したことに驚きました」

蒼真の表情がわずかに強張った。

「……なぜそれを」

少女はにこりと微笑んだ。

「言ったでしょう。神の声が、私には届くのです」

蒼真は一瞬、警戒する。
しかしその少女の氣には敵意も力の圧も感じられなかった

「わかった。少しだけ話を聞こう。……雨に濡れるのも嫌だしな」

「ふふっ、賢明な判断です。魔に選ばれし者さん」

その言葉に、蒼真の背筋がかすかに粟立った。

蒼真が神刀祭の受付に向かう途中で出会った変な聖女――名を「セリナ」と名乗ったその少女は、静かな場所に腰を下ろすと少し恥ずかしそうに語りはじめた。

「……実は、私、本当はリグザリア王国に向かう予定だったんです。勇者・隼人様のパーティーに正式に加わるために」

「勇者の……?」

蒼真の眉がぴくりと動いた。

「はい。でも……あの、船を……間違えちゃって」

「……は?」

「医療支援を募集してる船に急いで飛び乗ったら……ここに着いちゃいました。港に降りた瞬間、見たことない景色で愕然としました」

「……」

「さらにお財布を落としてしまって、今、所持金ゼロです」

「お前……それで神の導きとか言ってたのか……」

蒼真は額を押さえる。セリナは恥ずかしそうにうつむきながらも懸命に笑った。

「でも、これはきっと意味のある間違いだと思うんです。だって、あなたに出会えましたから」

「……そっちが勝手に導きに変えるな」

「それでも、導きは導きです」

セリナはそう言って、にこっと笑った。
その笑顔にはどこか、世界の理屈を超えた鈍感な強さと信仰者ならではの芯があった。

「……それで、どうするつもりだ」

「それがですね……金銭的な理由で、この国から出られなくなっちゃって。宿代も払えないし……」

「つまり、完全に詰んでるってわけか」

「はい。……あ、でも! 一応、神術は扱えますよ! 回復と祝福くらいなら!」

「……なるほどな」

「なあ、ひとつ聞かせてくれ。なんで、俺の左眼のことがわかった?」

「ふふ……やっぱり気になっていましたか?」

「隠してたはずだ。初対面のあんたが、これを見抜く理由がわからない」

聖女は少しだけ目を伏せ、胸元の小さなペンダントに手を当てた。

「あなたの左の眼。隠しても無駄ですよ。私には視えるんです。人の運命に差す影……あるいは、導きの光……その片鱗が」

「……俺の左眼が導きってのか?」

「ええ。あなたの中には選ばれし者ではない者が、選ばれた者を凌ぐ可能性が宿っています」

「可能性、ね……都合のいい言葉だ」

「そう思っていても構いません。けれど、あなたの旅路はただの剣士のものではない。その証が、すでにあなたの中に刻まれている」

少女は懐から小さな布の包みを取り出した。中から現れたのは、精緻な刺繍が施された白い布だった。

「……これは?」

「これは加護を静かに封じるためのものです。特別な祝福を編み込んであります」

蒼真はしばらく黙って布を見つめていたが、やがて小さく頷いた。

「……ありがたくもらう。悪いな」

「神の導きが、あなたの旅路に影を落としませんように」

少女の声はどこまでも穏やかだった。
蒼真は、神刀祭の受付に視線を向ける。

「借りっぱなしってのも性に合わない。俺が神刀祭で優勝したら、その賞金であんたの旅費ちゃんと払わせてくれ」

聖女は一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに慈愛に似た笑みを浮かべた。

「まあ……頼もしい。ですが優勝など簡単ではないのでは?」

「やるよ。やるって決めた」

遮るように言う蒼真の声音には、どこまでもまっすぐな意思が宿っていた。
それに、聖女も何かを感じ取ったのか、軽く頷いた。

「ええ。では……信じて待っています」

「それと、もうひとつ。道場に俺の知り合いがいるんだ。しばらく、そこに寝泊まりできるよう頼んでみる。さすがに野宿はきついだろ」

「本当に……いいのですか?」

「事情を話せばきっと理解してくれるはずさ」

セリナの顔がぱあっと明るくなる。

「ほんとに!? 神は……神は私を見捨てていなかった!」

「いや、間違いなくお前を試してるだけだろ」

「試練こそ、信仰の証です!」

聖女は少し黙ってから、深く礼をした。

「感謝します。神の加護が、あなたの剣に導きを与えますように」

「神は信じてないが……ま、悪い気はしないな」

冗談めかした蒼真の言葉に、聖女はくすりと笑った。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。 無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。 やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。

現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。 ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。 しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。 奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。 そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。

処理中です...