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第1章
第20話:ざわつく道場
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蒼真が聖女セリスを連れて道場に戻ると、案の定、門をくぐった瞬間からざわつきが起きた。
「……ん? 誰あれ?」
「蒼真先輩、女連れてるぞ……!」
「え、ちょ、まさか……恋人!?」
ざわめきはやがて、あからさまな茶化しへと変わる。
「まさかとは思うけど、蒼真、旅先で浮気ってやつ?」
「えぇー!? 朱音さん、どうなるのそれ!?」
「ったく……人が真面目に連れてきたってのに……」
蒼真は額を押さえ、ため息混じりに呟いた。
背後の聖女はといえば、どこ吹く風と優雅に微笑んでいる。
「ふふ……なんだか、賑やかな方たちですね」
「……うちの道場、こういうノリなんだ。悪気はない。……たぶん」
「構いませんよ。むしろ、少し羨ましいくらいです」
蒼真はその一言に眉をひそめたが、理由を問う前に、琴音の声が飛んできた。
「そこ、うるさい! 騒ぐんじゃないの!」
さすがの一喝に、騒いでいた面々がしぶしぶ口を閉じる。蒼真はその隙に前へ出て、琴音の前で姿勢を正した。
「琴音さん。この人、しばらく道場に置いてやってほしい。リグザリアに行く途中でトラブルに巻き込まれて行き場がないらしい。……俺の責任で預かる」
琴音はしばらく沈黙し、蒼真と聖女を交互に見比べたあと、静かに頷いた。
「……わかった。蒼真がそう言うなら、信用するわ。ただし」
「はい?」
「変なことしたら、私が叩き斬るからね?」
「そ、そんな物騒な……!?」
聖女が顔をひきつらせ、蒼真は肩をすくめた。
「まあ……こういう人なんで。大丈夫、たぶん問題ない」
「たぶんって……」
こうして、蒼真と聖女の奇妙な共同生活が始まるのだった。
それから数日後の朝。
道場の朝は早い。
柔らかな陽光が畳の上を照らし、竹林を抜けてくる風が涼やかな音を連れてくる。
そんな中で――
「はいっ、蒼真さん! 今日の味噌汁、私が作ってみたんですけど……どうでしょう?」
「あ、ああ……うまいな。普通に」
「ふ、普通に……!? そ、それって、もしかして神の恵みレベルってことですよね!」
「……いや、そこまでとは言ってない」
蒼真が苦笑する傍らで、道場の面々はにこやかに朝食を囲んでいた。
聖女セリス。
神殿に属し、神の声を聞くなどと言っていたその女性は、意外にも庶民的だった。
朝は雑巾がけを手伝い、夜は料理の手伝いをし、竹箒で庭掃除までしている。
最初は胡散臭がっていた柚葉も、今ではすっかり打ち解けていた。
「ねえセリスさん、また神託クッキー作ってくれない? 中から当たりが出たら今日神託が下るってやつ!」
「ふふ、いいですよ。でも、神の試練クッキーも混ぜますからね?当てたら腕立て100回です♪」
「うわあ、それ絶対出したくないやつ!」
笑い声が響く道場の空気は、どこか懐かしく、そしてあたたかかった。
そんな和やかな日々の中。
ついに、その日がやってきた。
神刀祭(しんとうさい)――
ワノクニ中の剣士たちが集い、己の技を競う大祭の、予選開始日。
蒼真は、ひとつ大きく息を吐き、帯を締め直す。
「……行くか」
その背に、道場の仲間たちの視線が注がれていた。
誰もが、あの日消えた少年が、どう戻ってきたのかを。
そしてこれから、どこまで登るのかを見届けたいと思っていた。
そして、セリスもまた。
彼の背中を、そっと祈るように見守っていた。
予選会場は、闘技場のような円形広場だった。
中央には砂が敷き詰められ、木製の観覧席に見物人や関係者が列をなしている。
その空間に、百名を超える剣士たちが集っていた。
老若男女、筋骨隆々の戦士もいれば、陰のある少年や異国風の旅装者もいる。
そして、その中に――蒼真も立っていた。
左眼は眼帯で隠し、無骨な木刀を背に負う姿。
彼の隣にはセリスが静かに寄り添っていた。
予選の説明は簡潔だった。
「参加者百八名、全員が同時に戦い――最後まで立っていた一名が本戦へ進む」
「武器の制限なし、殺しは禁止。戦闘不能、場外は失格とする」
その言葉が告げられた直後、蒼真の方へ歩いてくる数名の剣士がいた。
「おい、お前!」
先頭の男は、派手な赤い羽織を着ていた。年は二十代半ば。顔には自信と見下しが張り付いている。
「田舎道場の雑魚が、何しに来た? こういうのは選ばれし流派のもんが勝つようにできてんだよ」
「無様に蹴落とされたくなかったら、今すぐ棄権して帰んな」
取り巻きたちがクスクスと笑う。
蒼真は、静かに眉をひそめた。
「……誰が雑魚だって?」
「は? じゃあ何だ、お前の流派は? 蒼神流? ああ、聞いたことあるぜ。昔はすごかったって噂だけな!」
周囲の参加者の数名も、面白がるように笑い出した。
その瞬間、セリスが一歩前に出る。
陽を受けてきらめき、聖印のペンダントが微かに揺れた。
「失礼ですけど……あなたたち、神の罰ってご存知ですか?」
男たちが一瞬、動きを止める。
「……あ?」
「信なき者に、導きの光は降りない。そのような態度では、試合開始と同時に転ばされ、場外に吹き飛ばされる未来が視えました」
「は?」
「神は愚か者に鉄槌をとおっしゃってます」
口元に優雅な微笑みをたたえながら、言ってのける聖女。
その奇妙な迫力に、取り巻きたちは思わず後ずさった。
蒼真はその様子を見て、やれやれと息を吐いた。
「……まったく、怖え聖女様だな」
「信じる者には優しいんですよ。頑張ってくださいね」
予選の合図の太鼓が鳴る。
「始めッ!」
その瞬間、蒼真の眼差しが鋭く変わった。
「……田舎道場の雑魚が、本当に雑魚かどうか教えてやるよ」
足元を蹴って彼は戦場へ飛び込んだ。
「……ん? 誰あれ?」
「蒼真先輩、女連れてるぞ……!」
「え、ちょ、まさか……恋人!?」
ざわめきはやがて、あからさまな茶化しへと変わる。
「まさかとは思うけど、蒼真、旅先で浮気ってやつ?」
「えぇー!? 朱音さん、どうなるのそれ!?」
「ったく……人が真面目に連れてきたってのに……」
蒼真は額を押さえ、ため息混じりに呟いた。
背後の聖女はといえば、どこ吹く風と優雅に微笑んでいる。
「ふふ……なんだか、賑やかな方たちですね」
「……うちの道場、こういうノリなんだ。悪気はない。……たぶん」
「構いませんよ。むしろ、少し羨ましいくらいです」
蒼真はその一言に眉をひそめたが、理由を問う前に、琴音の声が飛んできた。
「そこ、うるさい! 騒ぐんじゃないの!」
さすがの一喝に、騒いでいた面々がしぶしぶ口を閉じる。蒼真はその隙に前へ出て、琴音の前で姿勢を正した。
「琴音さん。この人、しばらく道場に置いてやってほしい。リグザリアに行く途中でトラブルに巻き込まれて行き場がないらしい。……俺の責任で預かる」
琴音はしばらく沈黙し、蒼真と聖女を交互に見比べたあと、静かに頷いた。
「……わかった。蒼真がそう言うなら、信用するわ。ただし」
「はい?」
「変なことしたら、私が叩き斬るからね?」
「そ、そんな物騒な……!?」
聖女が顔をひきつらせ、蒼真は肩をすくめた。
「まあ……こういう人なんで。大丈夫、たぶん問題ない」
「たぶんって……」
こうして、蒼真と聖女の奇妙な共同生活が始まるのだった。
それから数日後の朝。
道場の朝は早い。
柔らかな陽光が畳の上を照らし、竹林を抜けてくる風が涼やかな音を連れてくる。
そんな中で――
「はいっ、蒼真さん! 今日の味噌汁、私が作ってみたんですけど……どうでしょう?」
「あ、ああ……うまいな。普通に」
「ふ、普通に……!? そ、それって、もしかして神の恵みレベルってことですよね!」
「……いや、そこまでとは言ってない」
蒼真が苦笑する傍らで、道場の面々はにこやかに朝食を囲んでいた。
聖女セリス。
神殿に属し、神の声を聞くなどと言っていたその女性は、意外にも庶民的だった。
朝は雑巾がけを手伝い、夜は料理の手伝いをし、竹箒で庭掃除までしている。
最初は胡散臭がっていた柚葉も、今ではすっかり打ち解けていた。
「ねえセリスさん、また神託クッキー作ってくれない? 中から当たりが出たら今日神託が下るってやつ!」
「ふふ、いいですよ。でも、神の試練クッキーも混ぜますからね?当てたら腕立て100回です♪」
「うわあ、それ絶対出したくないやつ!」
笑い声が響く道場の空気は、どこか懐かしく、そしてあたたかかった。
そんな和やかな日々の中。
ついに、その日がやってきた。
神刀祭(しんとうさい)――
ワノクニ中の剣士たちが集い、己の技を競う大祭の、予選開始日。
蒼真は、ひとつ大きく息を吐き、帯を締め直す。
「……行くか」
その背に、道場の仲間たちの視線が注がれていた。
誰もが、あの日消えた少年が、どう戻ってきたのかを。
そしてこれから、どこまで登るのかを見届けたいと思っていた。
そして、セリスもまた。
彼の背中を、そっと祈るように見守っていた。
予選会場は、闘技場のような円形広場だった。
中央には砂が敷き詰められ、木製の観覧席に見物人や関係者が列をなしている。
その空間に、百名を超える剣士たちが集っていた。
老若男女、筋骨隆々の戦士もいれば、陰のある少年や異国風の旅装者もいる。
そして、その中に――蒼真も立っていた。
左眼は眼帯で隠し、無骨な木刀を背に負う姿。
彼の隣にはセリスが静かに寄り添っていた。
予選の説明は簡潔だった。
「参加者百八名、全員が同時に戦い――最後まで立っていた一名が本戦へ進む」
「武器の制限なし、殺しは禁止。戦闘不能、場外は失格とする」
その言葉が告げられた直後、蒼真の方へ歩いてくる数名の剣士がいた。
「おい、お前!」
先頭の男は、派手な赤い羽織を着ていた。年は二十代半ば。顔には自信と見下しが張り付いている。
「田舎道場の雑魚が、何しに来た? こういうのは選ばれし流派のもんが勝つようにできてんだよ」
「無様に蹴落とされたくなかったら、今すぐ棄権して帰んな」
取り巻きたちがクスクスと笑う。
蒼真は、静かに眉をひそめた。
「……誰が雑魚だって?」
「は? じゃあ何だ、お前の流派は? 蒼神流? ああ、聞いたことあるぜ。昔はすごかったって噂だけな!」
周囲の参加者の数名も、面白がるように笑い出した。
その瞬間、セリスが一歩前に出る。
陽を受けてきらめき、聖印のペンダントが微かに揺れた。
「失礼ですけど……あなたたち、神の罰ってご存知ですか?」
男たちが一瞬、動きを止める。
「……あ?」
「信なき者に、導きの光は降りない。そのような態度では、試合開始と同時に転ばされ、場外に吹き飛ばされる未来が視えました」
「は?」
「神は愚か者に鉄槌をとおっしゃってます」
口元に優雅な微笑みをたたえながら、言ってのける聖女。
その奇妙な迫力に、取り巻きたちは思わず後ずさった。
蒼真はその様子を見て、やれやれと息を吐いた。
「……まったく、怖え聖女様だな」
「信じる者には優しいんですよ。頑張ってくださいね」
予選の合図の太鼓が鳴る。
「始めッ!」
その瞬間、蒼真の眼差しが鋭く変わった。
「……田舎道場の雑魚が、本当に雑魚かどうか教えてやるよ」
足元を蹴って彼は戦場へ飛び込んだ。
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