才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった

雷覇

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第1章

第22話:神刀祭初戦

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神刀祭の予選が終わった夜、道場の庭先で蒼真は一人、木刀の手入れをしていた。
そこにそっと歩み寄ってきたのが、セリスだった。

「……ひとりで考え事ですか?」

「いや、ただの習慣だよ。刀の手入れをしてると、落ち着くんだ」

セリスは向かいに座り、静かにその様子を観察した。

「……あなたは本当に変わってますね。戦いの時はあんなに鬼神みたいなのに、今はまるで修道士みたい」

「修行してた山じゃ、それくらい静かに過ごすしかなかったからな」

そう言って笑う蒼真に、セリスはふと真剣な目を向けた。

「……あなたみたいな人が、どうして魔族と関わろうとしてるんですか?」

蒼真は、少しだけ考えてから答えた。

「会ったからだよ。偏見も憎しみもない。ただ、出会った一人が俺の心を動かした。それだけだ」

その言葉に、セリスの目が静かに揺れた。

「……そんなまっすぐな人、これまでいませんでした。だから……少しずつ惹かれてしまうんでしょうね、私」

「ん?」

「なんでもありません」

照れ隠しのように微笑むセリスに、蒼真も「変なやつだな」と笑い返した。

「……今夜は星が綺麗です。よかったら、一緒に見ませんか?」

その声はどこか柔らかく、遠慮がちで、でもどこか嬉しそうだった。


そして神刀祭・本戦初日。
朝もやの残る武道場に、緊張と熱気が立ち込めていた。

四方をぐるりと囲む観覧席には、早くも大勢の観客たち。
その中には流派の長老や貴族、王都からの視察者まで姿を見せ、今年の大会がいかに注目されているかを物語っていた。

蒼真は控えの間で木刀を片手に立っていた。
昨日までの予選とは、空気がまるで違う。
ここにいる者たちは一筋縄ではいかない実力者ばかりだ。
その中でも、明らかに周囲から一目置かれている人物がいた。

「あれが、剣聖の血を引く者か」

控えの間の一角で、参加者の誰かが囁く。
蒼真はその言葉に、ちらりと視線を向けた。

神代 静流(かみしろ しずる)
本戦の目玉とも言われる存在。
その眼差しは氷のように冷たく研ぎ澄まされている。

彼女は静かに座していた。
木刀すら握らず、ただ両膝を揃えて目を閉じている。
だが、その周囲には誰一人近づこうとしない。
まるで見えない圧の結界でもあるかのように。

「空気が……違う」
蒼真は思わずそう呟いた。

それは恐れではなく、純粋な感覚だった。
今の蒼真だからこそわかる。
あの女の中には、一本の理が通っている。
誰にも触れられない孤高の刃のようなものが。

すると――
まるで彼の視線を感じ取ったように 静流が目を開いた。

黒曜石のような瞳が、まっすぐに蒼真を射抜く。
一瞬、空気が張りつめ、周囲がざわめきを飲み込む。

蒼真は気圧されることなく、静かに微笑を返した。

「あなた、不思議な匂いがするわ」

そう言って、再び目を閉じる。
静流の隣で見ていた従者らしき者が呆気にとられたように呟いた。
「静流様が他人に興味を……?」

蒼真は木刀を握り直した。

この神刀祭。
本当の戦いは、これからだ――。

神刀祭――本戦、第一試合。
蒼真の名前が呼ばれると、観客席からはまばらな反応が返った。
予選を通過したとはいえ、田舎の道場出身の無名剣士。
その姿に過剰な期待を寄せる者は、ほとんどいない。

対するは、榊原 剛士(さかきばら つよし)。
若き実力者であり、名の知れた豪剣の使い手だ。
周囲の観客は彼の登場にどよめき、早くも勝敗は決まったかのような空気が流れる。

蒼真は、ゆっくりと土の舞台に上がる。
深呼吸一つ、氣を整えながら無造作に木刀を構えた。

(初戦……無理に目立つ必要はない)

彼の心は冷静だった。
ここで力を誇示しても、強者たちに目をつけられるだけ。
あくまで無名の剣士として、静かに勝ち上がる。
それが蒼真の初戦における方針だった。

「かかってこいよ、小僧!」
榊原は木刀を大上段に構えると、豪快に前進する。
剣風を裂くような一撃が振り下ろされた。
蒼真は、その一撃を半歩だけずらして受け流した。

観客席から軽いざわめきが出る。

(……悪くない。だが、まだ軽い)

蒼真は反撃に出ず、相手の出方を探るように立ち位置を変える。
まるで踊るように、流れるように。
戦っているはずなのに、力みが一切ない。

「チョロチョロと……ッ!」
榊原が苛立ち始めた。

蒼真の動きは鋭く、しかし本気ではない。
木刀の軌道は寸前で止まり、打撃もわざと外している。

(彼……力を抑えてる)

観戦していた静流のまなざしがわずかに細められた。
その表情に、隣の従者がそっと訊く。

「何か、お気づきですか?」

静流は答えず、ただ小さく呟いた。

「隠してるわね。あの男、まだ剣を抜いていない」

やがて、榊原の動きが乱れ始めた。
怒りと焦りで自滅するように突っ込んできたところを、蒼真は軽く一歩踏み込み

「……悪いな」

木刀の柄尻を、的確に鳩尾へと打ち込んだ。
榊原の身体が大きくのけぞり、次の瞬間、崩れ落ちる。

そして――
「勝者、天城蒼真!」という審判の声と共に、観客席に一拍おいて歓声が湧き上がった。

それでも蒼真の表情は変わらない。
彼の眼差しは、次の戦いを。
そして、神代静流のいる、その先を見据えていた。

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