才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった

雷覇

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第1章

第33話:新たなる刀を求めて

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蒼真とセリスは、出発の準備を着々と進めていた。
セリスをリグゼリアまで送り届け、その後――蒼真は自身の目的地である魔族の地へ向かう。道場の一室には広げられた地図と整えられた物資が並び、旅立ちの緊張と静けさが漂っていた。

裏手の庭では、セリスが慣れない手つきで荷をまとめながら、ふと空を仰ぐ。

「……いよいよ、だね」

その言葉に、蒼真は静かに頷いた。
そのとき、足音が近づいてくる。音を立てぬように歩いてきたのは――

「蒼真。……これで、しばらくお別れですね」

そう声をかけたのは神代静流だった。
旅支度でも、いつもの道着でもない、ごく質素な装い。
だがその瞳には、変わらぬ凛とした光が宿っている。

「あなたは……魔族の地へ向かうのでしょう?」

静流の問いに、蒼真はまっすぐに答える。

「ああ。僕にとって、大切な約束だから。師匠とのな」

その目に迷いはなかった。
けれど、その奥底にかすかに揺れる寂しさを、静流の目は確かに捉えていた。

「なら、私もここで約束を果たすわ。
 いつかまた、あなたと剣を交えるその日まで――
 私自身の剣を、もう一度鍛え直す」

風がふたりの間を吹き抜けた。

「……楽しみにしてるよ」

蒼真は、わずかに笑ってそう言った。
静流もまた、静かに微笑み返す。
言葉は交わさなくても、伝わるものがある。
それが剣士という生き方を選んだ者たちの確かな絆だった。

「ところで……その刀で、本当に戦うつもりですか?」

静流が一歩前へ出て、蒼真の腰に帯びられた刀に目を落とす。
柄は擦り切れ、鞘には何度も修繕された痕が残る。
それは彼が歩んできた戦いの記録でもあり、限界の兆しでもあった。

「……ん?」

蒼真が問い返すように視線を向けると、静流は言葉を続けた。

「その剣、もう限界よ。これから向かうのは人ならざる存在がいる地。命を奪うためだけに動く者もいるはず。そんな相手に、今の剣で挑むのは……無謀だわ」

蒼真は黙ったまま、自らの刀を見つめ直した。
馴染みすぎていたそれが、今、どこか頼りなく見えた。

「……確かに。今のままじゃ……通じないかもしれないな」

静流は頷き穏やかに、しかし強い意志を込めて言った。

「なら、手に入れて。今のあなたに見合った剣を。
技だけが強さじゃない。剣は、あなたの命を守る最後の盾にもなるのだから」
静流の言葉には、厳しさの中にも確かな温もりがあった。

「……そうだな。まずは、剣を新しくしないとな」

そう応えると、静流は少しだけ微笑みながら、一歩前へ出る。
どこか懐かしさを帯びたまなざしで、彼に告げた。

「信頼している刀鍛冶がいるの。あなたにも紹介しておきたい」

「刀鍛冶、か?」

「ええ。剣聖の系譜にある者は、代々そこで刀を打ってもらってきた。
あの人なら、きっと今のあなたに応える一本を打ってくれるはずよ」

蒼真の視線が、静流の腰に下げられた一振りの刀へと移る。
白銀の刃は、冴えた光を帯び、持ち主の氣を写したかのように凛とした佇まいを放っていた。

「……頼ってもいいのか?」

「もちろん。ただ、あの人、気難しいから気をつけて。私の顔がなかったら門前払いされてるかも」

「それだけ腕に自信があるってことか」

静流は小さく頷き、少し微笑む。

「名前は――たしか、鋼屋 楓真(はがねや・ふうま)。少し風変わりだけど、腕は確かよ」

「鋼屋……今はどこに?」

「人里から離れた谷の奥深くに住んでるわ。私が連れていく」

そう言って、静流は再び蒼真の腰の刀へと視線を落とした。

「あなたの覚悟は、もう十分に伝わってる。その想いに応える剣を手にするべきよ」

蒼真はその言葉を受け止め、静かに頷いた。

「わかった。案内を頼むよ」

その様子を見ていたセリスが、わざとらしく咳払いを一つ。

「ふーん……お嫁さんの次は、装備担当ってわけ? さすが静流さん、抜け目ないのね」

「なっ……!?」

静流は顔を真っ赤にしてセリスを睨みつけるが、蒼真は苦笑しながら小さく頭を下げた。

「……助かるよ、静流さん」

静流が顔を赤くしてそっと顔をそむける。
その様子を見たセリスは、肩をすくめて小さく笑った。

「ふふ……あら、照れていらっしゃるの? そういうところ、可愛らしいですね」

「べ、別に照れてなんか……いませんっ」

言い返しかけて視線を逸らす静流。
セリスはいたずらっぽく笑みを浮かべたまま、蒼真の隣へと歩み寄った。

「蒼真。新しい剣は、きちんと選んでくださいね」

「ああ。命を預けるものだからな。粗末なものは選ばない」

「それなら安心しました。戦う者にとって、武器は己の命と同じですもの」

セリスは少し真剣な表情になり、蒼真の腰元に視線を落とす。
その意図を察して、蒼真はわずかに苦笑した。

「……ずいぶんと心配してくれるんだな」

「ええ。蒼真は無茶をなさる方ですから」

セリスはふっと柔らかく目を細める。

「けれど……まっすぐに前を向いて進もうとするその姿を見ていると、どうしても応援したくなってしまうんです。そういう方なのだと、私は思っています」

「……ありがとう」

蒼真が静かにそう返すと、セリスはくるりと背を向け、軽く手を振った。

「いえ、お礼には及びません。どうか、ご無事で。ちゃんと帰ってきてくださいね。それだけで十分ですから」

柔らかな風がそっと吹き抜ける。
それはまるで、旅立ちの時を告げる合図のようだった。
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