才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった

雷覇

文字の大きさ
34 / 96
第1章

第34話:自分だけの一刀

しおりを挟む
谷を越え、岩道を下った先。
そこには、灰色の煙が静かに立ちのぼる一軒の鍛冶小屋があった。

まわりを囲むのは巨岩と樹海。
人の気配などまるでない、静謐な土地。

だが、その小屋からは、どこか張り詰めた氣のようなものが漂っていた。
静流が扉の前で足を止める。

「ここよ」

蒼真が頷いたその瞬間。

――ガンッ! ガンッ!

鉄を打つ音が、まるで心臓の鼓動のように響いてきた。
静流が扉を軽く叩く。

「鋼屋さん。神代静流です。紹介したい人がいるの」

少しの沈黙。
やがて、ギィと扉が開いた。

現れたのは――

長身の男だった。
白銀に近い灰髪、煤で汚れた鍛冶服に太い腕。
その眼差しは、燃える鉄のように熱く冷たい。

「神代……てめぇか。久しぶりだな」

「ええ。元気そうでなにより」

「で、そっちのガキは何だ。弟子でも拾ったか?」

「彼に武器を作ってほしいの。実力は私が保証するわ」

鋼屋は蒼真を見据えた。

「……」

無言のまま、鋼屋の眼が蒼真を射抜く。
蒼真もまた、視線を逸らさずに言った。

「刀を求めに来た。僕の一振りを作って欲しい」

刹那、鋼屋の口元が微かに吊り上がった。

「……悪くない眼だ。少なくとも、見栄で剣を握る連中よりマシってことか」

男はゆっくりと鍛冶小屋の奥へと戻っていく。

「ついて来い。俺が認めりゃ、お前の刀を打ってやる」

鍛冶小屋の奥には、鉄と煤の匂いが満ちていた。
大小様々な剣が壁にかかり、炉の奥では真紅の鉄がじわじわと熱を帯びている。

鋼屋が重い足音を響かせながら棚から一本の刀を取り出す。
やや古びた拵え――だが、鞘に収まったその姿には、鋭利な氣が宿っていた。

「まずはこいつだ」

鋼屋は刀を蒼真に放り投げた。
蒼真は一瞬で受け止め、すぐに正眼に構える。

「見た目は古いが、斬れ味は保証する。お前に合わせて鍛える前に……その腕前、見せてもらおうか」

鋼屋が顎で指し示した先、そこには無造作に立てられた太い薪の束と、積み上げられた干し藁人形のような標的があった。

「好きに斬れ。ただし一撃で、終わらせてみせろ」

蒼真は頷き、一歩前へ。
息を吸い、心を鎮め、氣を集中させる。

風が静まった。

次の瞬間――

「――はッ!」

振り下ろされた一閃。
鈍くも鋭い斬撃が薪を貫き、同時に後方の人形も斜めに真っ二つに裂かれる。

一瞬の遅れで、遅れていた空気が唸りを上げた。
切られた藁が、まるで音を立てずに崩れ落ちる。

「……っ」

静流が息を呑む。
鋼屋は腕を組んでいたが、片眉を上げ唇の端をほんのわずかに吊り上げた。

「悪くねぇな」

「これが、今の僕の全力です」

刀を鞘に戻した――その瞬間、鈍い音とともに鞘口が裂けた。

「……っ?」

蒼真が驚きの色を浮かべて柄を引くと、刃が露わになった途端、まるで限界を迎えたかのように音を立てて欠けた。

刃の縁が、数か所にわたって深く割れ、刀身には細かい亀裂が無数に走っていた。まさに命を削って振るわれたかのような姿。

「何でこんなボロボロに……」

蒼真が呟くように言うと、鋼屋が鼻を鳴らして言い放つ。

「そりゃそうだ。今のは量産型の試作だ。氣をまとった一撃に耐えられるような代物じゃねぇ」

「……つまり、僕はもう普通の刀じゃ足りないってことか」

「そういうこった」

鋼屋は火の前に戻り、炉を再び開いた。

「ならば、その先を見せてもらおうか。……お前のための一振り、打ってやるよ」

鍛冶場に、再び鉄を打つ音が鳴り響いた。
小屋の炉は真紅に染まり、炎が唸り声のように揺らめいていた。
鋼屋は無言で鋼を炉から取り出し、金槌を振る。

ガン、ガン、ガン……!

火花が宙に散る。

「心して聞け。刀ってのは使う者の魂を喰う。
お前の剣が脆けりゃ、魂も脆い。
だが、魂が強けりゃ……どんな刃よりも強くなる」

蒼真はその言葉を一言も逃さず、じっと見守っていた。
鋼が熱され、打たれ、折り返され、また打たれる。

深山の鍛冶小屋に、再び重々しい鉄槌の音が鳴り響いた。
鋼屋は炉の火を最大まで焚き上げると、金属の箱を開く。

中から取り出されたのは、光を吸い込むような黒紫の鱗片――かつて焔喰いと呼ばれた魔物の外殻だった。

「この鱗は鉄と違う。ただ焼いても叩いても、形を変えん。だが――」

鋼屋は、慎重に一枚の鱗を炉に入れた。

「氣を流し込むと、こいつは応える」

鋼屋の掌から淡く光る氣が吹き込まれると、鱗が微かに唸り声のような音を立てる。そして、徐々に赤熱し、やがて金属のように軟化した。

「魔物の殻は、氣に呼応する性質を持つ。だからこそ、お前の剣になる」

溶け始めた鱗を取り出し、炉の横で待機していた純鉄の地金と重ねる。

「混ぜる。魔と人、異なる素材をひとつにする。だが中途半端では崩れる」

鋼屋は一晩かけて火を見張り続け、素材の「熟し」を待った。
夜明けとともに、最初の鍛打が始まった。

――ガンッ!

叩くたびに火花が四方に飛び散る。普通の鋼よりも遥かに重く、鍛錬には常人の倍の力が要る。

「この鉄は生きてる。叩くたびに、こっちを試してやがる」

蒼真と静流は外で見守る。鍛冶場に立ちこめる鉄と氣の匂いが、時の流れを忘れさせた。やがて鍛打が終わると、次は「焼き入れ」。

高温に熱された刀身を、一気に冷水へ。

――シュウウウッ!

蒸気が上がり、鍛冶場の中が白く包まれる。
その中に、一本の「刃」が現れた。
まだ未完成。しかし、刀としての命がそこに宿り始めていた。

「次は研ぎだ」

粗砥から始め、砥石を変えながら慎重に磨き上げていく。
一筋の刃文が現れる。まるで、火と影の波紋のように揺らぎ、剣に魂のような脈動を与えていた。最後に柄と鞘を仕立て、布で全体を拭い、仕上げる。

鋼屋は、完成した刀を両手で持ち、蒼真の前に差し出した。

「受け取れ。これはお前だけの刀だ」

蒼真は静かに刀を手に取った。驚くほど自然に、掌にその重みが馴染んでいった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。 選んだ職業は“料理人”。 だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。 地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。 勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。 熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。 絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す! そこから始まる、料理人の大逆転。 ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。 リアルでは無職、ゲームでは負け組。 そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

処理中です...