才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった

雷覇

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第1章

第35話:勇者の神器

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蒼真は黙って刀を見つめた。
鍛えたばかりのその刃には、まだ名も誇りもない。だが確かに、自分の氣と呼応している。まるで魂の延長のように。

「……凄いな」
刀を鞘に収め、肩にかけながら呟く。

「当然だ」
鋼屋が振り返ることなく応える。

「俺が打った刀だ。お前の命が宿ってて当然だろ」

蒼真はゆっくりと頷いた。その眼差しは、以前よりも少しだけ静かで、そして深い。

「これで……ようやく、あいつと並べる気がする」

鋼屋はふっと鼻を鳴らした。

「あいつとは、誰のことだ?」

蒼真は少しだけ迷ってから、正面を見据えたまま答える。

「瀬名隼人。王国が召喚した勇者……です」

その名を口にした瞬間、鋼屋の手が止まった。打ちかけていた鉄槌が空気を裂くような鋭さで止まり、代わりに鈍い沈黙が小屋を満たす。
鋼屋はゆっくりと顔を上げる。無精髭の奥の表情が明らかに不機嫌に歪んでいた。

「……勇者ね。耳障りな響きだ」

「ご存知なんですね」

「ああ。武器なんか使わずに勝てるとでも思ってる奴ばっかりだったな。刀の重みも、打ち手の想いも何ひとつ背負わねえ。そういうのは見てて退屈だ」

低く唸るような声。怒りというより、どこかにじんだ諦めと嫌悪があった。

「俺はな、名のある刀を打ちたくてこの谷に引きこもったわけじゃねえ。魂のある奴とだけ向き合いたかった。それだけだ」

蒼真は静かに聞いていた。
鋼屋の声が、鉄のように冷えて、しかしどこか温かかった。

「……でも、お前は違った。少なくとも選ばれたなんて顔はしていない」

鋼屋はそう言って、鍛冶台の上にある金槌をひとつ、軽く投げた。

「並ぶんじゃねえ。奴らを抜けよ。その先に守るべきもんがあるならな」

鋼屋はしばらく黙ったまま、火床の炭を鉄棒でかき混ぜていた。パチパチと弾ける火の音だけが、狭い鍛冶小屋に響く。

「ところでお前、勇者のことをどこまで知ってる?」

問いかける声には、あきらかな探るような色があった。
蒼真は少し考えたあと、正直に答える。

「スキルが強力なのは知っています。隼人は異常なほどの身体能力がありました」

鋼屋は火床に目を落としながら、重々しい声で口を開いた。

「勇者ってのはな、スキルだけじゃねぇ。神の加護を受けた特別な武器を持って現れる。最初から勝つための手段を握ってる連中だ」

「武器も、与えられるんですか?」

蒼真がわずかに目を見開く。

「知らなかったのか?ああ、スキルだけでも十分に強い。だが本当に厄介なのは神から与えられる神器だ。炎を呼ぶ剣、雷をまとう槍、時には触れただけで癒す盾なんてのもある。しかもそれが、最初から奴らの手にある」

鋼屋は、手にした鉄片を投げ捨てるように炉へ放り込む。

「そんなもん持ってる奴に、俺が打った刀が必要とされると思うか? ……くだらねぇ話だろ」

蒼真は目を見開いた。

「そんな武器まで……」

「お前が見た勇者がどうだったか知らねぇが、本気を出しちゃいなかったってことだ。神具を見せないってのは、つまりそういうことだ。まだ隠してる力があるってことさ」

蒼真は言葉を失い、ふと隼人の姿を思い出した。あの飄々とした態度。無造作な笑顔。

(……まさか、あれでまだ全部じゃなかったのか……?)

全身を冷たいものが駆け抜ける。
隼人は、ただの天才じゃない。
あれは選ばれた者。最初から特別な何かを持っている存在だった。

「神が打っただの、神に選ばれただの、そんなもんに頼る奴は、俺の打った刀なんぞ使わなくていい」

蒼真は驚いたように鋼屋を見る。

「……でも、それって、すごい武器なんじゃ?」

「確かに力はあるんだろうよ。だがな最初から完成されてるもんってのは、使い手を育てねぇんだよ」

鋼屋は立ち上がり、蒼真を真正面から見据える。

「神から与えられたもんじゃなく、自分で選び、歩んでいく。それが本当の武器だと、俺は思ってる」

静かな言葉だった。
だが蒼真の胸には、熱く響いた。

「はい。僕も、そう思いたいです」

鋼屋は満足げに小さく笑い、火床に再び向き直った。
蒼真は深く頷いた。
その眼差しには、もう迷いはなかった。

「超えて見せます。神の加護だろうと、使命だろうと僕の道を遮るなら、全部」

鞘に収めた刀の感触が、背中越しに伝わる。
それは、神の祝福ではない。鍛冶師と剣士、ふたりの覚悟が打ち込まれた刃。

鋼屋は焔を見つめながら、ぽつりと呟いた。

「勇者なんて呼ばれた奴らは、俺にとっちゃみんな薄っぺらな偽物だった。だが、お前は違うようだな」

「僕は、勇者じゃない。ただの剣士です」

「それでいい」

鋼屋は、ようやく満足そうに息を吐いた。
火床の中で、炭が赤く瞬き、まるで何かの決意に呼応するように火の粉が舞う。

「忘れんな。この刀は、お前とともに鍛えられる。壊してもいい。迷っても、負けてもいい。けど――」

鋼屋は、鋼のように重く静かな声で続けた。

「投げ出すな。それをやったら、俺が叩き直しに行く」

蒼真はわずかに笑った。

「……そのときは、また打ってもらいますよ。もっと強くなって、あんたに恥をかかせない刀を」

「フン。言ったな、ガキ。行ってこい!」

鋼屋は背を向けると、また黙々と火と鉄に向き合い始めた。
その姿に、蒼真は静かに一礼をして、刀を携えて静流と共に鍛冶小屋を後にする。

谷を越え、再びあの道を進む。
今度は、胸に確かな重みと、誓いを携えて――。

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