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第1章
第36話:大切な絆
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蒼真と静流は丘を下りながら、街の小道をゆっくりと進んでいた。足取りは重くとも、揺らぐことはない。腰には新たに手にした刀が静かにその存在を示していた。
(……これが、僕の刀)
鋼屋の言葉が、胸の奥に深く残っている。
剣を振るうべき理由がある。
その意味が、今ならほんの少しだけわかる気がした。
そのとき、坂の下にひときわ小さな影が立ち止まっているのが目に入る。
袖口を握りしめ、じっとこちらを見つめていた。
「……セリス?」
呼びかけると、少女は目を見開き、弾かれたように駆けてくる。
「蒼真っ……!よかった……無事で……!」
「どうして、こんなところに……?」
セリスは言葉を探すように視線を彷徨わせ、やがて小さく呟いた。
「……なんか、胸騒ぎがして」
その一言に、蒼真は眉をひそめた。
「胸騒ぎ……?」
「うん。昨日の夜からずっと。何か悪いことが起きるような気がして、眠れなかった」
手のひらを握りしめながら、セリスは不安げに続ける。
「あなたがどこか遠くへ行ってしまうような、二度と戻ってこないような、そんな予感がして……」
蒼真はほんの少し目を見開き、次いで柔らかく微笑んだ。
「僕は戻るよ。この刀を振るうためにも、まだやることがある」
「……本当に?」
「ああ。だから、信じて待っててくれ」
セリスは少し唇を噛んだあと、こくりと頷いた。
その瞳にはまだ不安が残っていたが、どこか救われたような光も宿っていた。
静流は少し離れた場所で目を細め、心の中でひとつ、何かを納得したように息を吐いた。そして、ふたりに背を向け、ゆっくりと歩き出す。
「行くわよ、蒼真」
「……ああ」
もう一度セリスの頭を軽く撫で、蒼真もその背中を追って歩き出す。
「新しい刀も手に入ったし、これで旅の準備は万端だな」
そう言って、背の刀を軽く叩く。
セリスは目を丸くし、それから優しく微笑んだ。
「そっか。よかったね、新しい相棒だね」
「……名前、まだ決めてないけどな」
「じゃあ、わたしがつけようか?」
「断る」
「えっ!?」
「なんか、花とか風とか……変な名前つけられそうだからな」
「ひ、ひどいっ!?」
二人の声が、静かな朝の道に溶けていく。
蒼真は街を抜け、見慣れた道をたどって道場へ戻った。
朝の空気は澄んでおり、庭の竹林が風にそよいでいる。
その静けさの中に、剣気のような張り詰めた氣配があった。
道場の戸を開けると、床の掃き掃除をしていた琴音が顔を上げた。
淡い色の道着姿。無駄のない動きと背筋の通った立ち姿に、蒼真は一瞬だけ言葉を失う。
「……戻ったのね」
琴音の声は穏やかだったが、その目は鋭く蒼真を見据えている。
蒼真は軽く頭を下げ、真っすぐに立ち上がる。
「報告があります。刀を……手に入れました」
「そう。それは、あの鍛冶屋が打ったもの?」
「はい。僕のためだけに、一本。これが僕の刀です」
そう言って、背から刀を外し、丁寧に床の上に置いた。
琴音は一瞥しただけで、うなずいた。
「……よく打ってくれたわね。あの人、気に入らない相手には顔すら見せないのに」
「紹介してくれた静流さんのおかげです。けど、それ以上に……たぶん、僕の覚悟を見られてました」
「……ふふ。そうね、あの人は目利きだから」
琴音はほうきの柄を立てかけ、蒼真の前に立った。
その眼差しに、わずかな寂しさがにじむ。
「それで、もう行くのね?」
蒼真は静かにうなずいた。
「はい。これで準備は整いました。あとは……僕が進むだけです」
琴音は少し目を伏せ、そしてふっと息を吐いた。
「心配してないわ。あんたはきっと、戻ってくる。だけど――」
琴音はじっと蒼真を見つめたまま、言葉を続けた。
「これ以上、女を増やさないこと。いいわね?」
ぴしり、と冷たい釘を刺すような声音に、蒼真は思わず固まった。
「……え? な、なにを……」
「とぼけない。柚葉のことも、セリスのことも、静流のことも。どうするつもりなの?」
「ちょっ、ちょっと待って!? いや、別にそういうつもりじゃ――!」
蒼真は慌てて手を振るが、琴音の目は微動だにしない。
「女たらしになるなら、帰ってこなくていいわ」
「理不尽っ!? っていうか誤解だし!!」
焦る蒼真の姿に、琴音はようやく少しだけ口元を緩めた。
ほんの一瞬だけ、姉のような、母のような優しさがその表情ににじむ。
「冗談です。でもね大事なものを間違えないにね」
その真剣な声音に、蒼真はようやくきちんと背筋を伸ばしてうなずいた。
「……わかってます。気をつけます……たぶん」
「たぶんは禁止」
「はいっ!」
そのやりとりを聞いていた道場の仲間たちが、くすくすと笑い出す。
こうして、少しばかり騒がしくも、温かな見送りの空気に包まれながら
蒼真の旅立ちは、確かにその一歩を踏み出した。
(……これが、僕の刀)
鋼屋の言葉が、胸の奥に深く残っている。
剣を振るうべき理由がある。
その意味が、今ならほんの少しだけわかる気がした。
そのとき、坂の下にひときわ小さな影が立ち止まっているのが目に入る。
袖口を握りしめ、じっとこちらを見つめていた。
「……セリス?」
呼びかけると、少女は目を見開き、弾かれたように駆けてくる。
「蒼真っ……!よかった……無事で……!」
「どうして、こんなところに……?」
セリスは言葉を探すように視線を彷徨わせ、やがて小さく呟いた。
「……なんか、胸騒ぎがして」
その一言に、蒼真は眉をひそめた。
「胸騒ぎ……?」
「うん。昨日の夜からずっと。何か悪いことが起きるような気がして、眠れなかった」
手のひらを握りしめながら、セリスは不安げに続ける。
「あなたがどこか遠くへ行ってしまうような、二度と戻ってこないような、そんな予感がして……」
蒼真はほんの少し目を見開き、次いで柔らかく微笑んだ。
「僕は戻るよ。この刀を振るうためにも、まだやることがある」
「……本当に?」
「ああ。だから、信じて待っててくれ」
セリスは少し唇を噛んだあと、こくりと頷いた。
その瞳にはまだ不安が残っていたが、どこか救われたような光も宿っていた。
静流は少し離れた場所で目を細め、心の中でひとつ、何かを納得したように息を吐いた。そして、ふたりに背を向け、ゆっくりと歩き出す。
「行くわよ、蒼真」
「……ああ」
もう一度セリスの頭を軽く撫で、蒼真もその背中を追って歩き出す。
「新しい刀も手に入ったし、これで旅の準備は万端だな」
そう言って、背の刀を軽く叩く。
セリスは目を丸くし、それから優しく微笑んだ。
「そっか。よかったね、新しい相棒だね」
「……名前、まだ決めてないけどな」
「じゃあ、わたしがつけようか?」
「断る」
「えっ!?」
「なんか、花とか風とか……変な名前つけられそうだからな」
「ひ、ひどいっ!?」
二人の声が、静かな朝の道に溶けていく。
蒼真は街を抜け、見慣れた道をたどって道場へ戻った。
朝の空気は澄んでおり、庭の竹林が風にそよいでいる。
その静けさの中に、剣気のような張り詰めた氣配があった。
道場の戸を開けると、床の掃き掃除をしていた琴音が顔を上げた。
淡い色の道着姿。無駄のない動きと背筋の通った立ち姿に、蒼真は一瞬だけ言葉を失う。
「……戻ったのね」
琴音の声は穏やかだったが、その目は鋭く蒼真を見据えている。
蒼真は軽く頭を下げ、真っすぐに立ち上がる。
「報告があります。刀を……手に入れました」
「そう。それは、あの鍛冶屋が打ったもの?」
「はい。僕のためだけに、一本。これが僕の刀です」
そう言って、背から刀を外し、丁寧に床の上に置いた。
琴音は一瞥しただけで、うなずいた。
「……よく打ってくれたわね。あの人、気に入らない相手には顔すら見せないのに」
「紹介してくれた静流さんのおかげです。けど、それ以上に……たぶん、僕の覚悟を見られてました」
「……ふふ。そうね、あの人は目利きだから」
琴音はほうきの柄を立てかけ、蒼真の前に立った。
その眼差しに、わずかな寂しさがにじむ。
「それで、もう行くのね?」
蒼真は静かにうなずいた。
「はい。これで準備は整いました。あとは……僕が進むだけです」
琴音は少し目を伏せ、そしてふっと息を吐いた。
「心配してないわ。あんたはきっと、戻ってくる。だけど――」
琴音はじっと蒼真を見つめたまま、言葉を続けた。
「これ以上、女を増やさないこと。いいわね?」
ぴしり、と冷たい釘を刺すような声音に、蒼真は思わず固まった。
「……え? な、なにを……」
「とぼけない。柚葉のことも、セリスのことも、静流のことも。どうするつもりなの?」
「ちょっ、ちょっと待って!? いや、別にそういうつもりじゃ――!」
蒼真は慌てて手を振るが、琴音の目は微動だにしない。
「女たらしになるなら、帰ってこなくていいわ」
「理不尽っ!? っていうか誤解だし!!」
焦る蒼真の姿に、琴音はようやく少しだけ口元を緩めた。
ほんの一瞬だけ、姉のような、母のような優しさがその表情ににじむ。
「冗談です。でもね大事なものを間違えないにね」
その真剣な声音に、蒼真はようやくきちんと背筋を伸ばしてうなずいた。
「……わかってます。気をつけます……たぶん」
「たぶんは禁止」
「はいっ!」
そのやりとりを聞いていた道場の仲間たちが、くすくすと笑い出す。
こうして、少しばかり騒がしくも、温かな見送りの空気に包まれながら
蒼真の旅立ちは、確かにその一歩を踏み出した。
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