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3章
魔神具
しおりを挟む「やぁ。ユークリウッドくん。暇そうだな」
地下にある反乱者達の隠れ家の一つ、そこにあるユークリウッドの部屋に、カミノが訪ねる。
「そうでもないですよ。僕にはいつも、アリアがいますから」
「そうかそうか。ところで、君に懐いていた少女がいるだろう? あの子の姿が見えないのだが・・・今日はここに来ていないのだな?」
カミノが言う少女とは、前にユークリウッドが、兵士から助けた少女の事である。
「あぁ、あの子ですか。"おいしかった"ですよ」
言いながら、ユークリウッドは落ち着いた様子で、異形の片腕を撫でた。
「あー・・・おいしかったか」
何があったのかを察したカミノは、呆れた様子で笑う。
「アリアも満足そうでした。子供は量が少ないのが難点ですが、筋肉質な兵士と比べると味が違いますから。
特にアリアは、自分と近い身体の人間が好きでして。子供とか、女性とかが好物なんです。安心する甘味がありますからね」
ユークリウッドは比較的無口な人物なのだが、珍しく饒舌である。
「あぁ、そうかそうか。それはよかった」
そんなユークリウッドの様子に、流石のカミノも苦笑いを浮かべた。
「安心して下さい。あの子には親がいないし、あまり戦力にもならないでしょう? ちゃんとそういう事を考えた上で頂きましたので」
嬉しそうにそう説明するユークリウッド。
「・・・それはそれはお気遣い有り難いな。さて救世主様、本題に入ろうか」
向かい合うカミノとユークリウッド。
「彼らは・・・反乱者達は、救世主である君のことを、神の使いの様に崇めている」
だが、とカミノは話を続ける。
「私は、そういう宗教的な意味で君を救世主だとは呼んでいない」
カミノは一枚の紙布を広げ、簡単な魔法を唱えながら紙布を撫でる。
「私は魔法の研究者だ。君の力がどの様なモノか理解し、その上で救世主だと呼んでいるのだ」
紙布からぼんやりとした光が漏れ、そして紙布は真上の空間に立体的な地図を映し出す。
「前にも少し話をしたが、私はヴァーリア軍にいた時"魔神具"と呼ばれる兵器を研究していた」
カミノは映し出された地図を動かし、中心部を拡大する。
「この王宮に隣接する妙な建物があるだろう。この建物が魔神具だ」
ヴァーリアの王族が住む王宮にぴったりと寄り添う様に建っている、協会の様な建築物がある。
「魔神具・レベリレーヴ。ヴァーリア国の持つ最強の兵器であり、そして切り札だ」
ユークリウッドは、映し出された魔神具をじっと眺める。
「これが、僕が救世主として戦う程の価値がある物なのですか? この建造物には、例えばどんな力があるのですか?」
「どんな力でも使える。その建物、厳密にはその結界の内部では"どんな事でも実現可能"になる」
カミノが笑みを浮かべる。
「どんな法則も意味をなさない。なんでも使用者が望む通りになる。
使用者は、あの中では永遠に生きる事も出来る。
空間を変化させ、建物の中に巨大な都市を築く事も出来る。
どんな強大な魔物も一撃で殺せる。
逆に、死んだ人間を生き返らせる事もできる」
それを聞いて、ユークリウッドが顔を上げる。
「制限があるとすれば、結界の内部にしか効果がない事と、魔神具の力を使用するには魔力を消費するという事だ。それと、魔神具を使用するには、マスターキーと呼ばれているキーが必要だ」
カミノはまた一枚の紙を取り出す。
「そのマスターキーは、ヴァーリアのお姫様が肌身離さず持っている」
それには、高貴な衣装を纏った少女の姿が載っていた。
「当然、お姫様が住んでいる王宮の警備はとても厳重だ。
常に何人ものSランク級の兵士が警備に就いており、強力な結界が展開されている」
カミノは指で空間をなぞると、一枚の結界が生成される。
「これは特別な結界だ。人や物を通す事は出来るが"魔法"を通す事は出来ない」
カミノが結界に指を触れるが、その指は結界を容易く通り抜ける。
「これは、使い魔や魔法を使って忍び込む侵入者の為の対策だ。
この結界が王宮の通路や入口、壁の隙間から水の通り道まで、ありとあらゆる場所に展開されている御陰で、小さな使い魔も、透明化した侵入者も、他人に化けた者も、王宮に忍び込むことは不可能だ」
「だがな」と、カミノはユークリウッドを視る。
「君のその霧化の力であれば、その結界を突破し、警備の目を潜り抜け、そしてお姫様の部屋まで忍び込む事が出来る」
「・・・どうして、僕がその結界に引っ掛からないと言い切れるのですか?」
「あの結界は、私が作ったからだ」
カミノは、自信に満ちた声でそう言った。
「ユークリウッドくん。君の力は、この世界の魔法とは、全く異なる法則を持った力なんだよ。
この世界には二つとして存在しない、全く別の世界の力だ! だから君は、私達にとっての"救世主"なのだよ」
ユークリウッドはカミノの話を聞きながら、狂気の象徴とも言える自身の腕を、じっと眺めた。
「気になる点があるのですが。魔神具の力はかなり強力、姫がその魔神具の中に籠っていたら、僕でもマスターキーを奪う事は不可能では?」
「言っただろう、魔神具は強力だが、使うには魔力を消費する。
あれはヴァーリアの隠し玉なんだ。反乱者が反乱を起こした程度では起動しない」
言いながら、カミノはヴァーリア王宮周辺の地図を折り畳む。
「それに、あのお姫様は我が儘なんだ。あの中に入っていたら魔神具を好き勝手使い、無駄な魔力を消費させてしまう。だから、普段は使用を禁止されているんだよ。くくく、絶対安全なのだから、黙って中に入っていればいいものを。馬鹿な奴だよ」
カミノは楽しそうに笑い声を上げて、話を続ける。
「この作戦に必要な"力"は全て用意しよう。魔法に、武器もな」
カミノは王宮への地図をユークリウッドへ差し出す。
「どうだ? 救世主としての使命を果してみないか?」
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