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3章
本命 01
しおりを挟むヴァーリア国、中央街。
その城下町の中心には、強固な塀に囲まれている王宮がある。
王族が住むその宮殿には、常に凄腕の兵士や魔術師達が見回りをしており、
あらゆる魔法を用いても、忍び込むことは不可能と言われている。
そんな厳重に護られた王宮の奥に、ヴァーリアの姫の部屋がある。
「姫様、夕食の用意が出来ました」
一人の女性メイドが夕食の時間を告げる。
「ありがとう。それにしても、今日は外出出来ないから詰まらないわ」
ネグリジェ姿の少女は、メイドに不満を漏らしながら席を立つ。
現在、外は反乱による戦闘起きている。
当然ながら、姫や王族といった重要な人物は、危険がある為一切外に出る事は出来ない。
「反乱が起きましたので仕方ありません。
ですが、脅威であった「霧の異界人」を倒したとの報告がありました。反乱も、もうすぐ収まるでしょう」
「それは良かったわ。
それにしても、反乱を起こすなんて迷惑な奴ら。
なんで反乱者なんているのかしら。人の楽しみを奪うなんて、本当最低だわ」
「姫様、言葉が乱暴ですよ」
「いいのよ、他に見てる人もいないし。
ところで、ディナーにはどの衣装を着ていこうかしら?」
姫はクローゼットを開きながら、メイドに質問をする。
しかし、メイドからの返事がない。
「ちょっと、私が聞いているの無視するなんて、どういう―――」
不機嫌そうに振り返る姫。
その瞬間。
「あ・・・」
メイドが腹部から血を吹き出して床に倒れる。
「いっ・・・んん!? んん!!!」
姫が叫び声を上げようとするが、口を何者かに塞がれる。
そして、姫の胸から黒い刃が突き出す。
「ッ・・・ぁ・・・・!!!」
姫は震える腕で抵抗しようとしたが、
黒い刃はより深くその身体を抉り、その命に止めを刺した。
黒い刃が引き抜かれ、姫の身体が床に落ちる。
「そうだな、ディナーにしようか」
その背後に立っているのは、今まさに"倒した"と報告があったばかりの、霧の異界人―――
ユークリウッドであった。
「だが、その前に仕事を終えなくてはな」
ユークリウッドは何もない空間に手を翳すと、何らかの魔法を展開した。
魔法発動の合図である黒い霧が漏れ出し、宙に不自然な"裂け目”が生まれる。
やがて、その裂け目が広がっていく。
開いた裂け目の先は、どこが別の場所と繋がっていた。
その先に、人影が覗く。
「くくく。あぁ、この王宮に入るのも何年ぶりだろうか」
開いた空間の先から現れたのは、カミノであった。
「さて。これはいただくぞ」
カミノは姫の死体に近付き、姫の腹部に触れる。
その瞬間、結界が発動し、姫の身体を包みこんだ。
それは、姫の身体に隠されている"あるもの"を守る為の結界であった。
「悪いなお姫さん」
しかし、カミノは指に魔力を込めると、パキパキとガラスが割れた様な音が鳴り始めた。
カミノの魔法により、結界が割られていく。
やがて、結界を破壊したカミノは、姫の身体の中へと手を突き刺した。
そして中から結晶化した石を取りだす。
その結晶こそが、カミノが求めていた物を手に入れる為の、鍵。
魔神具・レベリレーヴと呼ばれる最強の兵器を操る、マスターキーである。
「さて"もう一人"の救世主はどうしている?」
カミノはキーを愛おしそうに眺めながら、ユークリウッドへ問う。
「あぁ。あなたの作戦通り"良い囮"として、働いてくれたよ」
「くくく。まさか奴らも、キミが"もう一人"いて、王宮に忍び込んでいるとは思ってもいないだろうな」
カミノがユークリウッドに与えた力とは、魔法の扱いや、彼の力を増幅させる結晶だけではない。
本命は、もうひとつの身体を与える事であった。
「君は本当に救世主だよ。君の様に特異な体質の者がいないと、出来ない作戦だった」
偽物などではなく、紛れも無い本物の身体をもう一つ作り出す事。
使い魔でも偽者でもない、カミノが生み出した、本物のユークリウッドと全く同じ存在。
コハク達が戦っていたユークリウッドは、その一人だった。
「さて、いつまでもここにいるのは利口じゃあないな。本命の魔神具を頂きに行こうか」
その時。
「が・・・っ!?」
カミノの胸部を、ユークリウッドの黒い刃が貫いた。
カミノの身体から血が流れ出す。
それは、カミノが身代わりではない、本物である証だ。
「お、前・・・!!!」
カミノは両手に魔力を込めて反撃に出ようと試みるが、
ユークリウッドは腕の刃を振るい、カミノの腕を切断する。
「ぐぁ!?!? 何故、何を・・・!?」
床に倒れるカミノ。
「貴様は、僕の身体の仕組みを知りすぎている。
・・・あまりにもな。
何故、貴様がそこまで僕の事を知っている?
答えは―――貴様が、僕を研究していた魔術士の一人だったからだ」
カミノは、かつて。
ユークリウッドがこの世界に転移するずっと前。
ユークリウッドが、まだ小さかった頃から。
その特異な身体を、研究していた者の一人であった。
「あぁ・・・ははは、くくく。利口に、なったもんだな」
カミノは苦しそうに息を吐きながら笑う。
「顔まで変えてまでして、まだ僕を使おうとするとは」
そう、カミノの今の姿は、顔も身体も全て別人の様に異なっていた。
カミノは、この異世界に来る前から、ずっと魔法で素性を隠して生きていたのだ。
「あぁ、ユークリウッド・・・。
ここまで来れたのは、私とお前の力を合わせたからだ。
今、この国は。我々の手の上にあるんだぞ?
魔神具の力が、我々の手にある。これで、全てが叶うのだ。
・・・お前が失った者も、全て手に入るのだ。わかるか?」
「そうだな。だが、もうお前は必要ない」
「・・・っ!!!」
ユークリウッドが、黒い刃を振るう。
カミノの首が、ごろんと床に落ちる。
「僕が欲しいのは、アリアだけだ」
そして、ユークリウッドは床に落ちていたマスターキーを拾い上げた。
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