もしも。

匿名花畑

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わたしとあなた。

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 19歳になったわたしは風俗店で働きはじめた。初めて面接に言った時風俗街が怖くてたまらなかったのを思い出す。

 右を見ても左を見ても違和感丸出しの色をした建物ばかりなうえ、怪しく光るネオンが不気味に点滅を繰り返す。歩く人もみな「いかにも」といったような中年男性、もしくは若い女性ばかり。
明るい見た目とは裏腹に、静まりかえった街はなんとも言えない雰囲気をかもしだしていた。
そんな街でわたしは今日も働いている。

 湿気の篭もったまっピンクな個室で1人、わたしを呼ぶコールが鳴るのを待ちかねていた。
「今日も変なの来るのかなぁ。」
スマホを弄びながらポツリと独り言。
大抵ガリガリの骨のような男か
ブヨッブヨに太ったデブという極端が多い。筋肉質イケメンなお客さんが来る確率は、スマホゲームのガチャで★5を引くくらいにレアなのだ。
わたしも期待なんてしてないし
よくある「お客さんと恋しちゃった☆」は
わたし的に本当に論外。「どこにそんな素敵な方が?!」レベルに論外。

プルルルルルル、、、、プルルルルルル、、、、。

的はずれなタイミングで、心臓に悪いコールの音が部屋に鳴り響く。
なんでお菓子食べようとすると鳴るかなぁ。なんでやる気なくした時に鳴るかなぁ。
不満爆発状態。
もちろん受話器は取るけど。

ガチャ

「あ、フロントでーす!まゆちゃんお客様でーす!45分コースだよ!準備したらまたコールしてねー!」
無駄に棒読みなセリフと伸ばす語尾に苛立ちが隠せなくなるのはいつもの事。
少しイライラしながらも
「わかりましたー!」
と返事。
うん、我慢した、偉いぞわたし。
ちなみにわたしのお店での名前は
「まゆ」
お店の人に頼んで適当に付けてもらった。
アタフタと閉店モードになってた自分に喝を入れ準備に取りかかる。
お菓子を食べちゃったから歯磨き。
ベットメイキングに
お風呂の用意
最後に少し崩れてるメイクを治せば
まゆとして働く準備は完成。
瞬間にため息。

「ふぅ~、、、。」

慣れたとはいえ、どうしても新しいお客さんに当たるたび緊張はしてしまう。
どんな人とこれからこの小さな個室で2人きりになるのか、力強く暴力的な人じゃないといいなとか、不安が尽きない。

そしてお客さんと面会する場所へと階段を重い足取りで一段一段、ずっしりと登る。

「おねがいしまーす。」

プレッシャーにより力尽きた
私の声に反応したスタッフが
「はい行くよー!」
と明るく返事。
この時が1番心臓が高鳴るの。

コツコツコツコツ。

「はいいってらっしゃいませ~」
少し離れたところでスタッフの声。
はぁ、いよいよまゆちゃんタイムが始まるのね。どんな人だろう。

「はじめまして、まゆです。」
少し小さな声で言ったあと、チラッと視線を上にあげる。
ん!?若い!!!若い!!!!!
まゆさん、★5レアガチャ引きました。
大当たりです!頑張れます!!

すらっとした高身長にスーツは犯罪。
髪も黒髪で前髪を軽く固める程度。
清潔感さえも感じる。

「あ、おねがいしまっす!」
爽やかすぎる。
ハッキリと聞こえやすい声質
少し照れてるのかはにかんで誤魔化している所がたまらなく可愛かった。

溢れて収まらない感情はとりあえず無視して、さっきとは違う軽々とした足取りで階段を降り、部屋へと案内する。

部屋についてベットに座るなり、すぐにキョロキョロと部屋の中を見渡してはそわそわして落ち着かなそうなお兄さん。
「あんまりこーゆーとここないです?」
わたしも隣に座り話しかける。
やっぱりこのお兄さん若いってだけじゃなくてカッコイイ。
「んー、何年か前に来たけどずっと来てなかったんだよねー笑」
また、かわいいハニカミ笑顔で
恥ずかしそうに話す。

そしてわたしはこの店の業務をこなした。

 どうしてもかっこいいしかわいいし
わたしのタイプすぎて、いつも通りの接客が出来なかった。
他のお客さん達に言われる安っぽい「かわいい」なんて簡単に聞き流せるのに、お兄さんの「まゆちゃんはかわいいなぁ。」にはどうしても聞き流せなかった。

ハニカミ笑顔にときめいて
わたしを見つめる瞳にきゅんとして
偽物のわたしの名前を呼ぶその声に
わたしはひとめぼれしてしまったのかもしれない。

でも、おにいさんはイけなかった。
こんなこと他のお客さんではないし、やっぱりわたしはまだまだ未熟なんだなぁ。
改めて思い知らされてしょんぼりしていると、
 「まゆちゃん、まゆちゃんのせいじゃないよ? 俺、緊張しちゃってさ!
まゆちゃんとギュッてしてるだけで幸せだし癒されたよ、ありがとう。」
そう言って私の頭に優しく
ポンッと手をそえる。
どこまで優しいんだろうおにいさん。また会えるのかな。また来てくれるのかな。変なおじさんは何度もリピートしてくれるけど若いし、しかも今回のお兄さんみたいにかっこいい人なんてきっと、リピートする確率はないに等しい。
そう思うと突然に「さみしい」の感情がわたしの胸を締め付けた。

「まゆ、もっとテクニシャンになるね!」
笑って冗談を言うことしかできなかった。

―――――――――――――――


「じゃあね。」

笑顔でわたしに手を振り消えて行くお兄さん。
また会いたい。
好きかもしれない。
もっと一緒にいたい
もっとお兄さんを知りたい。
そんなお客さんに出会ったのは
今日が初めてだ。

「ありがとうございました。」

寂しさを紛らわす作り物の笑顔で
わたしはお兄さんを送り出した。

――――――――――――――――


わたしとあなたのはじめての記憶。
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