不透明だし歪だし

未知之みちる

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《 第三章 》綺麗ごと、隠しごと、本当のこと

( 三 )

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 学校を出ると割とすぐに気分を持ち直すことができた。時也がいきなりわたしの手を掴んで「双葉の手、冷たい」と言って、そのまま手を繋いでくれていたからだ。けれども頭の中は相変わらずごにゃごにゃしている。気持ち悪いのはあのふたりなのかわたしなのか、それとも両方なのか。ごにゃごにゃしすぎて、そんなことを思う理由がわからない。この気持ち悪さは嫌悪感だと思っていたけれど、どうやらそれとは少し違うような気もする。
 学校を挟んで、自分たちの通学路を逆に歩くと、大きな通りの交差する角っこに古いスーパーがある。近くにチェーン店の安いスーパがあるけれど、そこそこには人が入っているらしい。理由は、あまり見かけない製造元の商品や生産量が少なくて手に入りづらい商品がたくさんあるからだ。商品が並べられたり積まれたり詰め込まれたりと狭苦しく、買い物かごですれ違うのが精一杯。そのため、カートは置かれていない。お菓子の品揃えも選ぶのが大変なほど沢山ある。あまり見かけないものを発掘するために、わたしと時也は時々このスーパーへ出かける。
「今日はどんなの食べたい気分?」
 先の方に見えてきた『とんとん』というスーパーの看板をぼんやりと見つめていたわたしに時也が聞いた。
「とことん甘いやつ。甘ーいチョコでコーティングされてるみたいなのがいいかなあ」
「了解、了解ー。とにかく甘そうなやつね」
 そして、輸入菓子にしようとふたりで決めた。いつもわたしたちは目的を決めてから買いに行く。そうでないと延々と決まらない。初めて行った時がそうだった。
 あの光景を見た後味はとても不味かったから、甘いチョコレートで満たしたい。口直しが必要だ。そうしたら、少しはごにゃごにゃしたものが鎮まるだろうか。
「なあ、双葉ー。なにがあったの? 俺が聴いても平気なこと?」
 唐突に時也がそう言った。
「大丈夫。だけど、誰にも言わないなら」
「任せろ、言わない」
「じゃあ、あとで話すね」
「お菓子のお供になるような話?」
「そうでもない。けど、お菓子でもないと話す気になれない」
 そうして時也が「そっかあ」と悩ましげな声を出した。
 スーパーへ着くとお菓子売り場へ直行する。相談しながら悩みに悩んで購入したものは、ウエハースにものすごく甘そうなチョコレートがコーティングされた輸入菓子。たぶんベルギー産。名前はさっぱり読めない。他にもいくつかしょっぱいやつと甘いやつ。飲み物も買った。わたしたちはわたしの部屋でゆっくりと話をすることにしたから、お菓子ひとつではきっと足りない。お母さんが喜ぶ顔が想像できるけれど、わたしは深刻だ。
 時也が居てくれてよかった。なんでも話せて、なんでも聴いてくれて、いつも素敵な言葉をくれる。そばに居てくれて、本当によかった。
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