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諦めた者が願う着地点
( 二 )
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前の家より少しだけ星が良く見えるベランダで、天音は夏の星座を見送っていた。
ふと微かな光を放つ流れ星が通り過ぎた。嬉しくなった彼女は部屋に引っ込み、棚から一枚のCDを取り出した。
このDCを花純からもらった時、色鮮やかなピアノと透き通るような声に、天音は一瞬で魅了された。
ジャズテイストな音楽を奏でるそのバンドはボーカルとピアノのツーピース。他のミュージシャンとコラボする時以外、他の楽器を取り入れることを一切しない。
その中でも天音が特に好きな曲は「あまねく音」という曲だ。
ピアニッシモで始まるピアノのイントロにボーカルのフェイクが重なり始め、幻想的な世界が静かに広がって行く。
静かに躍るピアノの音と、語りかけるように響く声と言葉の数々が、身体を包み込むように染みる。
普遍の愛を囁くようなゆったりと流れ行くその曲に、時間が止まったような感覚を抱く。
何度も聴いているその曲は、まぶたを閉じると天音に不思議な光景と感覚を齎した。
どうしてか込み上げる懐かしさは言葉にしたくないほど心地は好い。
その光景はまるで具体性などなかった。曖昧で何を表しているのかなんてわからないけれども、微笑みを浮かべるには充分だった。
花純は天音の部屋をノックした。
「ねえ、天音ー」
彼女からの返事はなく、花純は浸っているのだなといきなりドアを開けた。勝手に開けて天音と呼ベば、流石に天音も気付く。
「お母さん、邪魔しないでよ」
構わず花純は聞いた。
「良いことあったでしょ?」
一度CDを止めながら、天音は首を傾げた。
「特になかった」
失礼な副担任の男が脳裏に浮かぶも、これは良いことのうちに入らないと苦虫を潰しそうになった。
「ねえ、この重そうなカバンなに?」
「学校の先生が前の学校の教材持って来いって」
「奇特で親切な先生ね。良いことあったんじゃない」
再度、天音は親切心とは判断しづらい篤の暴言を思い出し、むっとした。
「北野先生って、とても変な人」
その変人ぶりを天音は花純へ訴えるように話した。
「見る目があるわね。良い男そうだわ」
天音は絶句した。花純の良い男の基準が謎過ぎる。
他にも学校での出来事を天音が話すと、花純は愉快そうに言った。
「面白そうな学校じゃない、化け猫天音。じゃあ、あたしは寝るわ」
化け猫と言われた天音が憤慨する前に、花純はとんずらした。
「お母さんて本当、物言いがひどい」
愚痴をこぼすと、気を取り直してCDを頭から再生した。
せっかく素敵な気分だったのに。花純のせいで台無しだ。思い出してしまった篤の失礼さが頭から離れなくなってしまった。
初対面の、しかもあのような人間に弱みを見せてしまったことが悔やまれる。
あの時、自分が絞り出した言葉は具体的に思い出せない。篤は目を見開いて自分を見ていた。思わず逃げ出した。
天音は篤が言っていた貪欲という言葉を思い出し、辞書に手を伸ばした。
項目には知っている通りの説明が記載されていて、すぐに辞書を閉じた。
あの人は失礼だけれども綺麗でもある。
まだよく知りもしない篤を再び思い浮かべると、そんなことを思ってしまった。どうしてかはわからない。
自分の綺麗ってなんだろうか。
うっかり篤に綺麗という言葉を当てはめてから、天音は考えた。
今日会ったばかりなのに、篤に対する綺麗は何故か上位に入っている。「FEU」の「あまねく音 」はもちろんそれ以上の上位に入る。洸との口付けの時間はとても綺麗だが、最上位ではない。
他にもっと綺麗なものがあったはずなのに、それがなにか思い出せなくて、天音は悲しくなった。
いつの間にか次の曲に変わっていた。
なんてタイトルだっけとブックレットを見たら、「ここにいて」と書いてあった。作詞作曲共に、「あまねく音」の作曲者と同じYOSHINORIという名が記されている。
またこの人の曲、やっぱり綺麗だなとひとり微笑む。
「FEU」の楽曲はボーカルのTENとピアノのARATA、そしてこのYOSHINORIという人のものが時々挟まれる。
どれも名曲ばかりの中、天音が好きな曲はバンドメンバーではないYOSHINORIという人のものが多い。
ふと微かな光を放つ流れ星が通り過ぎた。嬉しくなった彼女は部屋に引っ込み、棚から一枚のCDを取り出した。
このDCを花純からもらった時、色鮮やかなピアノと透き通るような声に、天音は一瞬で魅了された。
ジャズテイストな音楽を奏でるそのバンドはボーカルとピアノのツーピース。他のミュージシャンとコラボする時以外、他の楽器を取り入れることを一切しない。
その中でも天音が特に好きな曲は「あまねく音」という曲だ。
ピアニッシモで始まるピアノのイントロにボーカルのフェイクが重なり始め、幻想的な世界が静かに広がって行く。
静かに躍るピアノの音と、語りかけるように響く声と言葉の数々が、身体を包み込むように染みる。
普遍の愛を囁くようなゆったりと流れ行くその曲に、時間が止まったような感覚を抱く。
何度も聴いているその曲は、まぶたを閉じると天音に不思議な光景と感覚を齎した。
どうしてか込み上げる懐かしさは言葉にしたくないほど心地は好い。
その光景はまるで具体性などなかった。曖昧で何を表しているのかなんてわからないけれども、微笑みを浮かべるには充分だった。
花純は天音の部屋をノックした。
「ねえ、天音ー」
彼女からの返事はなく、花純は浸っているのだなといきなりドアを開けた。勝手に開けて天音と呼ベば、流石に天音も気付く。
「お母さん、邪魔しないでよ」
構わず花純は聞いた。
「良いことあったでしょ?」
一度CDを止めながら、天音は首を傾げた。
「特になかった」
失礼な副担任の男が脳裏に浮かぶも、これは良いことのうちに入らないと苦虫を潰しそうになった。
「ねえ、この重そうなカバンなに?」
「学校の先生が前の学校の教材持って来いって」
「奇特で親切な先生ね。良いことあったんじゃない」
再度、天音は親切心とは判断しづらい篤の暴言を思い出し、むっとした。
「北野先生って、とても変な人」
その変人ぶりを天音は花純へ訴えるように話した。
「見る目があるわね。良い男そうだわ」
天音は絶句した。花純の良い男の基準が謎過ぎる。
他にも学校での出来事を天音が話すと、花純は愉快そうに言った。
「面白そうな学校じゃない、化け猫天音。じゃあ、あたしは寝るわ」
化け猫と言われた天音が憤慨する前に、花純はとんずらした。
「お母さんて本当、物言いがひどい」
愚痴をこぼすと、気を取り直してCDを頭から再生した。
せっかく素敵な気分だったのに。花純のせいで台無しだ。思い出してしまった篤の失礼さが頭から離れなくなってしまった。
初対面の、しかもあのような人間に弱みを見せてしまったことが悔やまれる。
あの時、自分が絞り出した言葉は具体的に思い出せない。篤は目を見開いて自分を見ていた。思わず逃げ出した。
天音は篤が言っていた貪欲という言葉を思い出し、辞書に手を伸ばした。
項目には知っている通りの説明が記載されていて、すぐに辞書を閉じた。
あの人は失礼だけれども綺麗でもある。
まだよく知りもしない篤を再び思い浮かべると、そんなことを思ってしまった。どうしてかはわからない。
自分の綺麗ってなんだろうか。
うっかり篤に綺麗という言葉を当てはめてから、天音は考えた。
今日会ったばかりなのに、篤に対する綺麗は何故か上位に入っている。「FEU」の「あまねく音 」はもちろんそれ以上の上位に入る。洸との口付けの時間はとても綺麗だが、最上位ではない。
他にもっと綺麗なものがあったはずなのに、それがなにか思い出せなくて、天音は悲しくなった。
いつの間にか次の曲に変わっていた。
なんてタイトルだっけとブックレットを見たら、「ここにいて」と書いてあった。作詞作曲共に、「あまねく音」の作曲者と同じYOSHINORIという名が記されている。
またこの人の曲、やっぱり綺麗だなとひとり微笑む。
「FEU」の楽曲はボーカルのTENとピアノのARATA、そしてこのYOSHINORIという人のものが時々挟まれる。
どれも名曲ばかりの中、天音が好きな曲はバンドメンバーではないYOSHINORIという人のものが多い。
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