永遠故に愛は流離う

未知之みちる

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彼女の名前は爛漫に映える

( 三 )

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 放課後、部活棟へ天音は向かった。
 天文部と書かれた部屋の前で立ち止まると声をかけられた。
「もしかして、駿河天音ちゃん?」
 背の高い天音よりも、更に背の高い人間に囲まれて過ごしている彼女が新鮮に思うくらい、声の主は自分とあまり目線が変わらなかった。
「僕、天文部の部長やってる木下きのした真守まもる。よろしく」
 そう言った真守は部室の鍵を開けて天音を室内へ促した。
「ねえ、真守くん。北野先生て変な人よね」
 もはや天音は誰かと知り合う度に開口一番それを言う。友達になったクラスメートは「天音ちゃんくらいだよ、そんなこと言うのは」と口を揃える。
 「真守くん」と呼ばれた彼は部活を引退していない三年生であった。
「真守くん?」
 思わず真守は自分の名前をおうむ返ししてしまった。
 部活といえば、三年の夏頃に引退するイメージがあるから、天音は同学年だと勘違いしていた。
「うん、真守くん」
「ま、良いけど。そういうのは気にしないし、僕」
 天音は首を傾げた。
 専門書や望遠鏡、双眼鏡など、天音の好奇心をくすぐる物が山ほどある部室内で、中央の机にふたりは対面で座った。 
 まだ他には人が来ない。
「ね、北野先生。変わり者だと思わない?」
 同意が欲しい天音はもう一度聞いた。
 真守が苦笑いながら話しはじめた。
「北野先生てね、昔から無茶苦茶だったらしいよ。やんちゃな優等生だったんだって、年配の先生が呆れながら言ってた」
「やんちゃな優等生て、なんだか矛盾。それ、優等生に入るの?」
「先生たちがそう言うんだから、一応そうなんだろうね?」
 話しながら真守は鞄から参考書の類を取り出して机に置いていく。
「爽やか仮面は本当に仮面なのね」
「爽やか仮面て。確かにそうかも」
「ていうことは。ここだと結構、そのままなのね」
 「でも」と真守は言った。
 あの人を変な人と表現する人は初めてかもしれないと笑う。
 あくまで篤はとても素晴らしい教師という印象が生徒たちには植え付けられている。教師の中でも、性格はともかく信頼は得ている。
 そんな篤を捕まえてこんなことを言う天音は面白そうだと真守は思った。
「この天文部ね、北野先生が高校三年の時に立ち上げたんだって。先生にとってはとても大切な場所」
 きっとそこまで知らないだろうと、真守は天音に聞かせはじめた。
「十年経った今じゃ殆どが幽霊部員で成り立っているようなものだけど。先生には申し訳ないよ。普段は数人しか顔出さない。だから僕、いつもここで勉強したりおしゃべりしたり楽しんでる」
「どんな活動してるの?」
「月に一回、合宿やるよ。天体観測。その時は多少、顔出す人も増えるかな」
「素敵!  この辺て、前住んでいたところよりも星がよく見えるの!」
 身を乗り出すようにしてきらきら目を輝かせた天音が微笑ましく、真守は噂とは少し印象は違うけれども素敵な子だなと感じた。
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