永遠故に愛は流離う

未知之みちる

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行方の在り処を誰も知らない

( 二 )

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 本当に甲斐は諦めていた。
 花純なら可能でも、それは真理に反することかもしれないという不安はあった。
 そのうちなにか罰が下ったとしても仕方のないことだと腹を括ってさえいた。
 これから先の自分たちが今までのように在れなくなっても、どうしても彼女の願いを叶えたかった。最愛だからこそ、多くを求めようとしない彼女が抱いた願いを叶えてあげたかった。
「元気に笑っていてくれれば、それだけで僕はいいんです」
 と、黙っていた智也が言った。
「甲斐君、諦めからは決してなにも生まれないよ」
「諦めたから、叶ったのだとしても?」
 智也の発想と自分の発想の違いに戸惑いつつ、甲斐は問い返した。
「叶ったのだから、もうもっと欲張ってもいいのだと思うよ」
 それは甲斐自身では永遠に見つけることは出来ないだろうひとつの答えであった。
 今の甲斐は、諦めることに慣れ過ぎていた。
「でも、どうすればいいのかなど、僕にはわからない」
 引き合わせることは簡単だが、それは自分がしても良いことではないと智也は思う。
 花純を見遣ると、まるで彼女らしくない。
 さっきは茶化したくせに、感情を灯せないほど酷い顔をしている。連れて来たのは間違いだったのかもしれないと智也は思ってしまった。
 今の甲斐がどんなか知りたいと言ったのは花純であっても、最愛の女性にそんな顔をさせたくはない。

「あなた、どうしてそんな風なの?」

 あの時の甲斐に覚えた不安が花純の中ではっきりとした。
 彼は無意識に、全てがなくなって終わりになっても構わないと思っているのだ。
 そうとしか思えなくて、希望を現実にした花純は声を絞り出した。

「どうしてあたしが引き受けたか解る?」

 耐えることが必然である花純には、耐えることがなかった甲斐が、代わりにいつ終わっても構わないように映った。
 甲斐は花純の問いの答えを今まで考えたことすらなかった。しかし、きっと今は判らないという答えは許されない。
「彼女の願う強さにあなたが負けたから」
「違う。あなたに負けたの」
「僕?」
 花純が答えた正解は甲斐を戸惑わせた。
 あの時したことは、花純の出した条件を承諾して頭を下げただけだ。
 彼女と花純がふたりで色々と話していた時、彼はそばから離れて彼女の耳が忘れないようにギターを弾きながら長いこと待っていただけだ。
 ふたりでお願いしたけれども、自分が交渉したわけではない。

「ねえ、あたしはあなたのこの先が見たいの」

 哀しそうに甲斐を見ていた花純が、彼に希望を託すように淡く微笑みかけた。

「あたしが生きているうちに見せてよ」
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