柔らかに満ちる

未知之みちる

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十五

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 街角で、ふたりは本当に出会えた。
 古い友人は、出会えるようにしてあげると言っていたが、そこに約束は存在していなかった。
 歩道を照らす街灯たちは、淋しそうに瞬いた。
「ひとりはもう淋しい」
 そう言った葉月に、明日香は言った。
「葉月、その言い方は少し変だわ」
「そうだね、僕らはふたりでひとりだった」
 すると明日香は微笑んだのに、顔へ涙を伝せている。
「ねえ、もうずっと一緒に居たい。僕は明日香にもっともっといろいろな宝ものをあげたい」
 葉月がこんな風に我儘を言うのは珍しい。
 涙はまだ乾いていないけれど、明日香が破顔した。
 さきほど淋しそうに瞬いた街灯たちが、今は優しい光を放って夜を照らしている。
 剥がれ落ちて離れていた半身と半身は、引き合うように、再びひとつへ、ぴたりと合わさった。







 そして、かの作家は、使い込んだ万年筆をそっと置くと、愛おしそうに目を細める。







 fin.
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