スキルなし王妃の逆転劇〜冷酷王と結婚しましたが、問題はそこではありません〜

雪城 冴

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2章

2-5 おこのみで

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 3人がアトリエに入ると、センスのよいドレスをぴしっと着た、若い女性が出迎えた。
「オスカー陛下、言ってくだされば伺いましたのに」


 細身でモデルのようだったが、彼女はここのデザイナー兼、店主らしい。

 
 オスカーが目でリリアナを促すと、店主は恭しくお辞儀をした。


「王妃様、お目にかかれて光栄に存じます。今日は何をお探しで?」


「いえ、わたくしドレスは……布を見せていただいてもいいですか?」

 店主はもちろんです、と頷き、奥へと案内してくれた。しっとりと手になじむようなシルクは噂に違わぬ美しさで、リリアナはほぅっとため息をついていた。

 ユリウスも覗き込む。

「リリアナ様、何かお作りになったらいかがです?」


「でも、公式行事用の物はご用意いただきましたし……今の数で十分です」


 リリアナは居た堪れなかった。今着ているドレスは、実家から持ってきた妹のお下がりだ。

 継母からは、離縁されるかもしれないのだから新しいドレスは不要だと言われた。
――そもそも何年も新しいものなど買ってもらっていないのだが。


 妹は、リリアナにドレスを渡す前にわざと染みを付けたり、裏地を破いたりする。 
 リリアナのサイズとも合っていない。
 
(もしかしてオスカー様は、私の服装を見かねてここへ連れてきてくださったのかしら……)
 
 そう思うと、店主の目線が痛く感じる。
 デザイナーの彼女からしたら、このドレスは相当流行遅れに見えるだろう。


 恥ずかしいやら情けないやらで、リリアナはドレスの袖を引っ張った。 
 
 オスカーは店主に向けて淡々と告げる。


「とりあえず5着ほど持って帰る。後は、何着か仕立ててくれ。納期は任せる」

「もちろんですわ! あぁ、さっきからうずうずしておりましたのよ!」


 店主が準備のため席を外したのを確認し、リリアナはそっと値段表を見た。思わず息が止まった。


(私、桁を見間違えているの……?)
 
 見間違いではなかった。
 公爵家の令嬢と、一国の王妃が着るドレスというのは物からして違うようだ。


「陛下、こんな……無駄遣いです」

「これは必要経費だ」

 
 はっきり言い切られ、これ以上は反論できなかった。
 店主が戻り、リリアナに布やレースを取っ替え引っ替え合わせていく。

「う~ん……」

 店主がため息をついたり、眉間にしわを寄せるたびに、自分に似合うドレスなどないのではと、どきどきしてくる。
 

 見かねたオスカーが店主に声をかけた。

「おい、あまり焦らさないでやってくれ」


「すみません! 次々にアイデアが浮かんでしまうんで、悩んでしまいましたの。
ところで、陛下も1着くらいお選びになっては?」

 困ったように黙り込むオスカーの代わりに、ユリウスが楽しそうに言った。


「ピンクならこっちのスモーキーピンクの方が合うと思うんですよね。
あとは、シックな色やデザインも生来の上品さを引き立てますし……」


 ぽかんとするリリアナにユリウスは続ける。
 
「僕、姉がいて、小さい頃よく着せ替え人形にされてたんです。それで、ドレスには結構詳しくって」


(だからユリウス様は、柔らかな雰囲気で話しやすいのかも……)


「ほらほら、リリアナ様も楽しんで選びましょうよ」

「……そうね」


 ユリウスの気楽な言い方に、リリアナは心がほぐれ、自分を卑下する気持ちが薄くなった。
 鏡に映った表情も、少し明るくなっていた。


「それは少し……」

 急にオスカーが異を唱える。
 リリアナが試着していたのは漆黒のドレス。ざっくり空いた首周り、ぴたっと身体に沿い、ボディラインを美しく見せるデザインだった。

 リリアナは不安になる。
「あの、おかしいでしょうか」

 オスカーは、無言で別のシャンパンベージュのドレスを手に取る。

「まあぁ! お目が高い。こちら今日入った新作ですのよ。ほら……」

 店主がドレスをトルソーから取り、リリアナの身体に合わせた。清楚で、リリアナの可憐な雰囲気によく似合う。
 オスカーは「こちらのほうがいいな」と小さく言った。

 
 ユリウスがにやにやしている。
「オスカー様? 黒のドレスは駄目なんですか?」

 言い淀むオスカーを挑発するように、ユリウスはリリアナの髪をさらっと撫でた。

「この黒が、ブロンドの髪によく映えると思いますけどね」

「ありがとう、ユリウス」

 先ほど女子力の高さを見たからなのか、リリアナはユリウスに接近されても、女同士のじゃれ合いのようにしか感じなかった。


 だが、そうは思わないオスカーは、耐えられないと言ったように、ユリウスの手を跳ねのけた。

「僕に妬く位なら、最初から素直になってくださいよ。身体のラインが出過ぎて、心配なのでしょう?」


(妬く? 心配? オスカー様が私に?)




 オスカーはユリウスを無視して、出口の方に歩き出す。

「これで以上だ」

「はい、陛下。ではお持ち帰りはこちらで。他は出来たらすぐに届けさせますわ」

 店主に見送られ、3人はアトリエを後にした。


(オスカー様は、なるべく言葉に出すというのを有言実行してくださっているんだわ……)

「陛下。私も、言葉にするようにします」

 驚いた顔で振り返ったオスカーは、目で頷いた。

 少しだけ、彼の頬に血が通った気がした。


(この人を、もっと知りたい)

 想いが通じたかのように、その夜から、二人の空気はわずかに変わり始めていく――

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