53 / 78
第5章 小さな胸に抱きし愛
第53話 追放されし男、追放する
空を包む瘴気は晴れ、王都に光が差す。
だがまだ終わってはいない。
「王城の下、そこに“胴体”があるな。今も再び瘴気が発生している」
『万象反転・瘴魔転生』の効果範囲外だったか、もしくは――。
「(何者かに守られていたか、だな)」
「(もうわかってんでしょ! あんたの分身体よ!)」
再び毛玉の姿に戻ったミラが肩に飛び乗ってくる。
言われなくてもわかってる。
「ユリエナたちは引き続き、王都内の人間の保護を頼めるか? まだ隠れている奴がいるかもしれん」
「わかりました!」
少ないながらも、あちこちでそれらしき魂を感知している。
そちらはエルフたちに任せよう。
「さて……俺たちは王城に向かうが……1つだけ約束してもらえるか?」
「なんでしょう」
リエラが代表して答える。
「手出しはしない、と」
「……というと?」
「待ち構えている者どもは漏れなく俺への挑戦者だ。ならば俺だけで受けて立つのが道理だろう?」
「……わかりました」
アイリスたちも同様に頷いている。
マールの奴は多分飛びつきそうなので、コアちゃんのお守りを任せよう。
「行くぞ」
王城へと続く階段を登る。
重たい門を無理やり開け放ち、王城で最も広い場所――謁見の間へと進む。
そこにいたのは――。
「これはこれは……誰かと思ったら、無能なルシアン君じゃあないか……」
「ザイモスか。愉快な変装だな」
全身を真っ黒な瘴気に侵され、立派な角を2本生やしたザイモスだった。
まるでオーラのように、自らが瘴気をまき散らしている。
魔人化が完了しているのにもかかわらず、理性を保てているようだ。
「見たまえ。君が恐れをなして逃げることのできなかった“暗黒の力”。大賢者たる私にかかれば、完全に掌握し利用することなど容易いのだよ」
「…………」
「どうだ? 恐ろしくて声が出ないだろう?」
「…………」
「時に貴様、随分美しい女どもを連れているな……くっくっくっ、どうだ? その女のうち1人でも我に寄こしたら……楽に殺してやるぞ?」
「…………」
「それとも、貴様をいたぶった後で……目の前で全員犯し尽くしてやろうか?」
「…………」
「何とか言え! 無能の口先だけのごみカス野郎が!」
「……すまんな。あまりにも見当違いな、そして下衆すぎる発言に言葉を失っていた」
「(ほんとね。返事する気さえ起きないわ!)」
ミラの言葉に頷きながら、右手を魔人化して見せる。
漆黒の黒、しかも瘴気を一切漏らさない完全に制御した魔人化だ。
「なっ!? 貴様も!?」
「魔人化は魔力を扱うという点で見れば効率的な体だ。俺が身に着けていないとでも?」
「……だが! お前は右手だけ――」
「何を言っている。お前相手に魔人化など必要ない」
再び自分の右手を通常の状態に戻す。
完全な掌握とは、不可逆なものではないということ。ザイモスはどうだろうな。興味はないが。
「戻った!? い、いや! その傲慢さが貴様の命取りなのだ! そして迂闊な自分を呪うがいい! 『唯我独尊我是絶対神』!!!」
ザイモスが叫んだ瞬間、床に刻まれた魔法陣が光だす。
ふむ、悪くない。
「この領域内は! 我が許可した魔法――基本属性の魔法しか使えないッ! 禁術に頼ってばかりの貴様は何もできず――」
「そんなに“禁忌”が怖いのか?」
「――あ?」
「謎、発見、挑戦、喜び、絶望、希望。その果てに築き上げてきた魔術師の叡智。なぜ『ダメだ』と言われねばならん」
「…………」
「なぜ、何も知らない者が一方的に禁止する。なぜそれに甘んじる。俺には理解できない……それは魔術師に――人間に対する冒涜だろうが!」
「……ご高説、ご苦労。何にも響かんがね」
確かに、どうかしていたな。ザイモスなどに自分を語るとは。
どうやら久しぶりに『ダメだ』と言われて頭に来てしまったようだ。
「負けた時の言い訳は終わりか? ならば始めよう! 真の大賢者の証明を!」
「最後に1つ教えてやる。俺の最も得意な魔法は禁術ではない。ごく一般的で基本的な魔法だ」
「『極大炎球魔法』」
「『加速』」
初級魔法、加速。
対象を加速する、ごくごく初歩的な魔法。
本来は足が多少速くなる程度のもの。
「(ミラの蘇生のために、とにかく時間が足りなかった。ミラの魂にとっても、俺の能力にとっても、身体能力や魔力の器としての肉体も)」
故に、加速した。加速して加速して加速して……。
いつしかほとんど時が止まった世界で、自分だけが動けるようになった。あまりにも加速し過ぎたため、時間を置き去りにしたんだ。
「ザイモスよ、お前の魔法は悪くない」
当然、返事はない。
奴は今、手の平から極大の火の玉を生み出しているところで止まっている。
「だが……これほど複雑な魔法陣、抑えられる許容上限が相当低くなっているな。これでは俺にとって何の障害にもならん」
『真魂顕現』でザイモスの角を8本ほどに増やしながら、どうしたものかと考える。
奴自身の性格はゴミ――ゴミに失礼なほどの矮小でドブのように濁り切った汚物そのものだが、魔術に対する姿勢は悪くない。
「この魔法陣の術式構成も、基本属性のみの使用許可――俺への対策をとりながら、あくまで魔法勝負に持ち込もうとした。“譲れない誇り”、そこだけは評価に値する」
だからこそ、どうするか。
「まずは魔法陣を“俺が許可する魔法”だけに書き換えて、加えてザイモスの体を霊体化しておこう。そして――いや、後は本人に直接説明してやろう」
準備が整ったため、自分の『加速』を解除する。
再び時が元の動きに戻る。
「――死ねルシアン! ……あれ?」
「『加速』中に魔法陣を書き換えといたぞ。俺の許可する者以外魔法が使えないようにな」
「何をバカな……『極大炎球魔法』『極大炎球魔法』……『破星降臨』『暴風大殺陣』……なぜだ……なぜだぁぁぁ!?」
やれやれ、理解力が足りないようだ。
そんなだから、その程度の魔法しか使えないんだ。
「言っただろう『俺の許可する者以外魔法が使えない』とな」
「ま、まさか本当に……!?」
「それよりも、自分の体を見てみたらどうだ?」
「何を――なぁぁっ!?」
ようやく、自分の体が半透明になっていることに気が付いたようだ。
頭の角は……まあいいか。
「そして……お前をこの箱に閉じ込める。中が異空間になっていて捕らえたものを決して逃がさない箱だ」
「何を!?」
「自尊心の強いお前だ。これからは誰にも見られることのない、狭い空間で独り過ごすがいい。なあに、中は意外と快適だ。死にもしない」
「や、ややや……やめろぉぉ……やめてくれ……!」
「ふむ?」
「頼む! お願いだ――お願いします! どうかこの通り助けてくれ! お願いします!」
「断る。今度は、俺がお前を追放する番だ。この世界からな」
「やめっ!? やめてぇぇぇぇぇぇえええええええ~~~~~ああああああああああ――――………………」
手の平サイズの箱がコトリと落ち、ザイモスの収容を完了する。
最後まで醜いやつだったな。
「……一瞬、でしたね。あんな大口を叩いていたのに」
「いやいや……アイリスにはわからなかっただろうが……ルシアンの圧倒的実力を見せつけられた……」
おお、マールは何となくだが理解しているのか?
師としてこれほど嬉しいことはない。
「これで……終わったんですね……!」
「いいやまだだ。肝心な奴が残っている」
あなたにおすすめの小説
お城を抜け出したそばかす王女、ユニコーンと妖精と森番と気ままな旅で王国を取り戻す
タマ マコト
ファンタジー
そばかすを理由に社交界で笑われ続けてきた第三王女リリアーナは、実はシャンデリア、音楽、ドレスも好き。
舞踏会で婚約候補の公爵令息から「王家の恥」と侮辱され、衝動的に城を飛び出す。逃げ込んだ禁忌の森で、白銀のユニコーン・フィオと出会った彼女は、自分のそばかすが古代精霊の祝福の証であり、森を癒やす最強級の魔法を秘めていることを知る。妖精のミミルや森番の青年ノアと共に自由な旅へ出たリリアーナだったが、その裏では王国を蝕む“黒の魔脈”の異変が静かに広がり始めていた。
婚約破棄された後、他国の王族が求婚してくるのって怖すぎませんか?
ばぅ
恋愛
「婚約破棄の後に、都合よく他国の王子が求婚してくるわけがないでしょう?」
伯爵令嬢リノアは、甘い言葉で求婚してきた他国の王子に言い放つ。
その他国の王子の正体とはーーー?!
魔術のことしか頭にない冷静沈着な令嬢と、彼女を溺愛する不器用な王太子のハッピーエンド物語!
【完結】賢いケダモノは獲物を選んだはずだった。 ~愚かな侯爵令息の末路~
隅野せかい
ファンタジー
賢い狩猟者は、獲物を選ぶ。
侯爵家の三男である「オレ」は、逆らえない相手だけを選んで遊んでいた。
その日も、子爵家の三男とそのメイドを「獲物」として選んだ。
「なら、あたしは辺境伯の娘だ」
メイドはそう言って笑った。
相手は抵抗しないはずだった。
いつも通り、何も問題は起きないはずだった。
これは、“賢いつもりだった男”の末路の物語。
家を追放された生贄ですが、最強の大悪魔が花嫁になりました
深山鈴
ファンタジー
妾の子として名門貴族の家で虐げられてきた少年カイルは、ついに「家の役に立て」という理由で、復活した悪魔への生贄として捨てられてしまう。
死を覚悟してダンジョンの最深部へ向かった彼を待っていたのは、世界を滅ぼしかけたと恐れられる最強の大悪魔ルシファル。
だが、その正体は……気高く美しく、そしてとんでもなく照れ屋で可愛い少女悪魔だった。
初めて自分を大切にしてくれたルシファルに一目惚れしたカイルは、悪魔との契約で願いを問われ、こう告げる。
「あなたが欲しいです」
その一言で、まさかの結婚成立!?
家族に捨てられた少年が、最強の悪魔のお嫁さんに一途に愛され、力を得て、幸せを取り戻していく甘々救済ファンタジー。
※ざまぁ要素あり。基本は甘々・幸せ路線です。
悪役令嬢の父は、家族の死亡フラグをすべて叩き潰すことにした
霜月零
ファンタジー
「うわ……最悪……」
王子の名前を愛娘の口からきいた瞬間、前世を思いだした俺。
愛する妻と娘を失って、王家に復讐する悪役令嬢の父に転生していると気づいてしまった。
気付いたなら、妻と娘の死亡フラグは破壊するよ。
まだ二人とも生きてるからね。
物語の通りになんて、させるか!
※他サイトにも掲載中
追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る
夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。