『禁忌魔術を極めすぎて追放された賢者、死んだ最愛の女性(毛玉)を蘇生させるついでに世界を蹂躙する~『ダメ』と言われるほど、俺の魔術は加速する

たゃんてゃん

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第0章 前日譚

【前日譚】“禁術魔法・概念変換”で古代竜の存在をゴブリンにしたら、恐怖したギルドに新ランク『X』を作られた件


「禁術魔法ってあれだろ? 女の子を操って好き勝手できる魔法だろ?」

 冒険者ギルドの酒場にて、絡まれる。

「そんなら聖教会に逆らってでも研究したくなるよなぁ!」
「違いねぇ! あの美人の受付嬢を操ってあんなことやこんなこと……ぐへへ」
「最高だな! 澄ました顔が快楽に溺れる姿……想像しただけでたまんねぇぜ!」

 下卑げひた笑いを浮かべながら絡んできたのは……確かSランク冒険者と言っていた3人組の男たち。
 
「とはいえよぉ……さすがに古代竜エンシェントドラゴンは操れないだろ? お前に何ができるんだ?」
「そうだな。お前は大人しく後方待機でもしとけばいいさ。禁術魔法使いのルシアンよ」
「俺らが死んだらお得意の禁術でも使って生き返らせてくれよ! ま、そんなことできねぇだろうけどな!」

 言いたいことだけ言って去っていった男たち。
 まだ何も返事してなかったのだが……。

「何ですかあの人たち! ルシアン様の悪口言って! 許せません!」

 机を叩き、抑えられないというように大声を上げるのは幼いエルフの少女、リエラ。
 先日とある事情で拾ったエルフの子だ。

「そう怒るな、リエラよ。あれは奴らの自信の表れで――」
「ですけど! さっきからずっと……ルシアン様に声をかける人たち、みんな同じこと言ってます!」
「禁術を研究している者にたいしては、だいたいこんなんだ」

 これでもまだマシな方である。
 この前などは有無を言わさずパーティを追い出されたくらいだ。

「明日の古代竜エンシェントドラゴン討伐に緊張しているんだろう。酒と共に恐怖を飲み込み、他者への暴言と共に吐き出す。冒険者ならよくあることだ」
「むぅ~……でもルシアン様がバカにされるの許せません!」

 尚もふくれっ面のリエラ、納得がいかないようで果実水の入ったグラスを一気にあおぐ。
 その威勢と飲みっぷりは、どんな冒険者にも負けていない。

「決めました! 私、冒険者の偉い人になってルシアン様のすごさをみんなに知ってもらいます!」
「……ふむ。それはいい考えかもな」

 別にすごさを知ってもらう必要はないが、リエラがやりたいことを見つけられたのはいいことだ。

「(出会った時は何にもやる気がなかったものね~)」
「(そうだな。無気力に、言われるがままの性格だった)」

 俺の肩にちょこんと乗っている白いもふもふマスコットにして最愛の女性、ミラが念話で話しかけてくる。

「リエラよ、ギルドの偉い人になるためには高ランクの冒険者になることが近道だ。つまり、魔法の特訓を頑張るのだな」
「はい! 私頑張ります! いっぱいルシアン様に教えて貰いたいです!」
「ああ、いいだろう」

 こうして素直に教えを請われたら……否が応でもやる気が出てきてしまうな。

「(ルシアンったら、嬉しそうな顔!)」
「(弟子――と言っていいのだろうか、俺にとっては初めての弟子だ。仕方ないだろう)」
「(そうね……今までルシアン、研究ばっかりだったものね……これを機に、自分のしたいことしてもいいんだよ?)」

 珍しく少ししょげた様子のミラ。
 確かに、俺の人生の9割9分はミラのために捧げてきた。

 だが――。

「(何を言っている。ミラを完全な人として蘇生させるという目標は、俺が望んでやっていることだ。今までも、これからも俺は好きに生きていく)」
「(……うん。ありがとう)」

 まるで口付けするように、ミラが頬にすり寄ってくる。
 彼女のためなら、俺はどんな困難にも立ち向かうだろう。

「……さしあたっては、明日の古代竜エンシェントドラゴンだ。そこで魔術師としての心構えを教えよう」
「はい!」

 その日はやる気いっぱいのリエラを連れ、宿に向かった。



 ◇◇◇◇◇◇

「ではこれより……我が国の近くに住み着いた古代竜エンシェントドラゴンの討伐に向かう! これは我が国だけでなく世界の安全のためのミッションだ! 心してかかれ!」
「「「おう!!!」」」

 とある大国の軍人が、集められた冒険者たち――総勢100名のドラゴン討伐隊にげきを飛ばす。
 古代竜エンシェントドラゴンは人類にとって脅威の存在、高ランクの冒険者をかき集めて討伐しなければどんな災厄が待ち受けているか……ということらしい。

 そのメンバーとして、俺もお呼ばれしていたのだ。

「この山道の山頂にいるんですよね……歩くだけで疲れちゃいそうです」

 険しい岩肌を必死になってよじ登りながら、リエラが声をかけてくる。

「その通り。故にリエラよ、戦場に着いた先で『疲れて戦えない』ということが無いように、魔術師とて体力をつける必要があるのだ」
「は、はい!」
「だが、体力は一朝一夕いっちょういっせきで身につかん。今日の所は俺が背負ってやろう」
「わぁい――じゃなくて、はい!」
「(ふふふ、エルフの子と言っても、まだまだ8歳くらいだっけ? かわいいね!)」

 ミラも何を言っているのだろうか。
 俺が背負うのは、かわいいとかそんな理由ではなく魔法を目の前で体感させるためだ。

「リエラよ、『飛行魔法フライ』の魔法を覚えれば楽に移動できる。だが体力の代わりに魔力を消費するから、魔力は多いに越したことは無い」
「わぁ~、浮いてます!」

 めんどくさい徒歩での移動をやめ、『飛行魔法フライ』を使って進む。
 他の冒険者から『あいつ魔力持たねぇぞ』『バカじゃねぇか』などの声が聞こえるが……俺の保有魔力を感じ取れないらしい。

「それと、魔術師たるもの、いつ危険が襲ってきてもいいように心構えと索敵は怠らないように」
「は、はい――きゃっ!?」

 上空からの強力なブレスを『飛行魔法フライ』で避ける。
 ブレスの飛んできた方向を見ると、討伐対象の古代竜エンシェントドラゴン、ご本人の登場だった。

「ぎゃああああああ!?」
「熱っ!? 助けてくれー!?」
「何でこんなところに――ぎゃああああああ!!!」

 予想外の襲撃に、対処の遅れた一部の冒険者たちが、高熱のブレスで焼けただれている。
 即死できた者は幸運で、全身を焼かれながらもがき苦しんでいる者の方が多い。

「グオオオオォォォォォーーーン!!!」
「ドラゴンだ! 迎撃せよ!」
「『か、風よ! 今と過去を結ぶ風よ! 命の源たる魔素よ──』」

 指揮官の声に合わせ、魔術師たちがこぞって魔法の詠唱を始める。
 だが当然それを待ってくれるドラゴンではなかった。

「グルルルル……ガァァッ!!!」
「ぷぎゃっ!?」
「ごえっ!」

 詠唱を始めた魔術師たちに、ドラゴンが鋭い爪や尻尾のぎ払いをお見舞いする。
 胴体が破裂するように分かれたり、尻尾に押しつぶされて圧死する魔術師たち。

「リエラよ、実際の戦闘では詠唱している暇などほとんどない。故に、事前に用意しておくのだ」
「じゅ、準備ですか!?」
「ああ。魔法陣を用意したり、敵の攻撃を予測してあらかじめ詠唱しておいたり――だが、1番いいのは無詠唱に慣れることだな。『極大回復アルティメットヒール』『仮初の蘇生ソウルバック』」
「す、すごい……!」

 大けがを負った者を回復し、既に死んだ者は強制的に魂を肉体に戻す――一時的にだが。

「ぎゃああ――あれ? 治ってる!?」
「た、助かった……誰かは知らんが感謝する!」
「グルル!?」

 蘇生された冒険者たちが再び剣を構え、杖をかざして魔法の準備を始める。
 敵としたら、1度倒したはずの相手が即座に起き上がってくるのは厄介だろう。

「『舞い踊れ。渦巻く刃、猛る嵐──『ウインドブレード!』」
「『穿うがつ炎、降り注ぐ槍――『フレイムレイン!』』」
「……グルルル……」

 ようやく完成した魔法が、ドラゴンに向けて殺到する。
 しかしドラゴンは余裕の様子で、空を飛んで回避した。

「リエラよ、戦いの肝要かんようは、いかに自分の得意分野に相手を巻き込むことができるか、だ」
肝要かんよう……?」
「大事なことという意味だ」

 回避したドラゴンがお返しとばかりにブレスを冒険者に放つ。
 再び焼かれていく冒険者を回復させながら、別の魔法の用意をする。
 『時間のかかる魔法には囮を用いることも有用な手段』、というのはまた今度伝えよう。

「『概念変換オルタエイドス・ゼロ』」

 対象の魂を、別の物に書き換える荒業あらわざ、もちろんこれも禁術である。
 まずはその翼を“無”にしてやろう。

「――グオォォン!?」
「ド、ドラゴンが地に落ちたぞ!?」
「翼がなくなったのか!?」

 飛ばれるのが厄介なら、翼を無くせばいい。
 これで今までろくにやることのなかった魔術師以外の者共も戦いやすくなるだろう。

「行くぜ――ぎゃぁっ!?」
「任せろ――ぷぎゃっ!?」
「ここは我が――ぐべ!?」

 しかし腐っても古代竜エンシェントドラゴンということだろうか、全く歯が立たない。
 その巨大な尻尾やたくましい腕と鋭い爪でぎ払われていく冒険者たち。

「(昨日のSランク冒険者さんも全く相手になってないね……)」
「(ここまでとは……)」

 そろそろ回復させ続けてやるのもめんどくさくなってきたな。

「……リエラよ、『魔力結界』は敵の攻撃を弾くことが主な用途だが、邪魔な味方を遠ざけることもできる」
「はい!」

 結界で仲間の侵入を防ぎながら、古代竜エンシェントドラゴンの目の前に降り立つ。
 シンプルに魔法で倒してもいいが……よし。

「グルルルル!?」
「リエラよ、魔法の中には対象の存在を全く別物に変えてしまう魔法がある。これが神への冒涜だとかの理由で禁止されているが……いかに有用なものか見せてやろう」

 展開していた『概念変換オルタエイドス』をそのまま転用しようとしたとき、突然頭の中に声が響いた。

「(まて、人間の魔術師よ!)」
「(ん? お前古代竜エンシェントドラゴンか?)」
「(左様! 我はただ身を守るためにお主らに攻撃しただけだ! 翼を消したのもそなただろう!? そのようなおぞましい魔法を使うのは――)」

 さすが、古代竜エンシェントドラゴン。どうやら理性と知性があるらしい。
 そしてこれから自分がどんな目にあうのかも予想がついているようだ。

「(悪いな。この子に魔法を教えるためだ。犠牲になってくれ)」
「(そんなっ!?)」
「『概念変換オルタエイドス小鬼ゴブリン』」
「グルオオオォォォ――グギャギャ!?」

 一矢報いようとしたのか、古代竜エンシェントドラゴンが大口を開けて突進して来ようとしたが、途中でその姿がゴブリンに変わってしまった。

「……ふわぁ」
「こうなれば、いかに強大なドラゴンであれ……倒すのは子どもでも容易い。リエラよ、やってみるか?」
「は、はい……!」

 リエラが集中して魔力を練り始める。
 周囲の冒険者たちも応援してくれているようで、何も言わずに見守っている。

「『アイスランス!』」
「ギャッ!?」

 見事、リエラが無詠唱でゴブリンを倒した。

「よし! よくやったぞリエラ! お前は幼いながらもドラゴンスレイヤーとなったのだ! しかもちゃんと教えたことを実践できたな! お前は立派な冒険者になれるぞ!」
「わぁーい――じゃなかった、ルシアン様のおかげです!」
「(リエラに甘すぎない?)」

 俺は褒めて伸ばすタイプだからな。

「さて――ん?」
「…………」
「…………」

 俺とリエラ以外に誰も言葉を発しないことに気が付き、背後に目を向ける。
 国の軍人を始め、Sランク冒険者共もみんな何も言わずに、こちらを呆然と眺めている。

「お前ら、笑え。祝福しろ。未来の伝説の冒険者の誕生だぞ?」
「――ッ!?」
「ほら、どうした。この子が邪悪な古代竜エンシェントドラゴンを倒したんだぞ。祝え」

 俺が実に優しい笑顔で促すと、ようやくSランク冒険者たちはガチガチと歯の根を鳴らしながら、ひきつった笑みを浮かべた。

「――は、はいぃぃ! お、おめめ……おめめとうごじゃいまずぅぅぅ~~~!」
「お、お、おめでとうございますぅぅ! リエラ様万歳! ルシアン様、どうか……どうか我々をゴブリンにだけはしないでくださいぃぃ!」

 無事に古代竜エンシェントドラゴンを討伐したリエラと俺たちは、道中で何度も祝福を受けながら、街へと帰還した。
 泣いてまで祝福してくれるとは、いい奴らだな。



 ◇◇◇◇◇◇

 数日後、古代竜エンシェントドラゴン討伐の褒賞ほうしょうの準備ができたと言うことで、冒険者ギルドへ。

「禁術師、ルシアン様。この度のご活躍を祝しまして――あなたを『冒険者ランクエックス』とさせていただきます……」

 そこで俺を待ち受けていたのは、よくわからないほうびと、冒険者ギルドの最も偉いらしい人物、総ギルド長だった。

「『冒険者ランクエックス』?」
「はい……“S”をはるかに超え、我々では推し量れない実力であるあなたを称えるために、この度新設させていただいたランクです……」

 この様子を見ていた周囲の冒険者たちの呟きが聞こえてきた。
 『古代竜エンシェントドラゴンを実質1人で倒したらしいぞ!』『なんでも古代竜エンシェントドラゴンをゴブリンに変えたとか……』『戦いの中で、何度も冒険者たちを生き返らせて無理やり戦わせたらしい』『帰り道も、Sランクの冒険者を無理やり従わせて褒めさせたってさ』などと……半分以上が誤った情報だが。

「(おかしい、事実が1つしかない)」
「(全部事実ね)」

 正しいのは『古代竜エンシェントドラゴンをゴブリンに変えた』だけなのだが。

古代竜エンシェントドラゴンを倒したのは俺じゃない。この子――リエラだ」
「ぞ、存じております。あ、あくまでこの評価は古代竜エンシェントドラゴン討伐の件とは別でして……」
「……ならばいい。この子への褒美も期待している」
「も、もちろんですよ……!」

 総ギルド長の手には、『全冒険者ギルド共通無期限あめ玉食べ放題チケット』と書かれた紙が。
 嬉しそうな顔で受け取るリエラに免じて、それで許してやろう。

「ルシアン様! 見てください!」
「ああ。糖類は貴重品、それを無限に用意してくれるとはギルドも太っ腹だな」
「はい! さっそく貰ってきます!」

 あめ玉を転売するだけで一生暮らせるだろうし、薬品の実験や料理にも使える。
 訳の分からん『エックス』などという称号より、よっぽど有用だ。

「(絶対そんなつもりじゃなかったと思う……)」
「(定められたもの以外に価値を見出す、それもまた魔術師には必要な考え方だ)」
「(それもそうね!)」

 さて、リエラも戻ってきたことだし……。

「……ルシアン様? その『冒険者ランクエックス』って……すごいんですよね?」
「ん? まあ……そうらしいな」
「ですが、やっぱりルシアン様のこと……みんな認めてくれてません……」

 リエラの視線の先を見る。
 そこには冒険者たちがいたが、俺と目が合うと全員顔を逸らし始める。

「……ですが! 安心してください! 私はこのまま魔法のお勉強を頑張って、冒険者ギルドの偉い人になって……ルシアン様のすごさを認めさせます!」
「……ああ、期待している」
「はい!」

 きっと、数年したら別の道に進むことになるだろう。
 だが、それまではこのいじらしくてかわいい――あめ玉でほっぺを膨らませた女の子と一緒にいるのも悪くない。

「10年でも20年でも――100年だろうが待っててやろう。期待しているぞ」
「はい、ルシアン様!」



 そして、100年後。
 リエラが本当にギルドの長とになり、俺の帰りを待っててくれるようになるのは、まだ先の話。
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