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衝撃の「フィアと呼べ」発言から5年。
ボクたちは相変わらず4人で暮らしていた。
フィアはずいぶん大きくなった。
プクプクとしていた手足はスラリと伸び、髪も長くなった。ボンヤリとしていた瞳は、しっかりとした意志を映すようになり、紺碧に輝いている。赤子の頃はパッと見ただけでは、男か女か分からなかったが、今ではひと目見ただけで女の子だと分かる。
それも、とてつもなく可愛い女の子である。
竜である自分にも、美醜の感覚は備わっていて、だから、フィアがものすごい美貌の持ち主なのは分かっていた。
竜族も人型になることができる。あまり上手くはないが、リザも人型をとることができた。
竜族が人型をとる場合、強さが美しさに比例する事が多い。ときおり、美しさよりたくましさを優先したり、可愛らしさを優先したりする者もいるが、それはあくまで少数派で、基本的に竜の人型は、強い者ほど美しい姿をしている。
人族にはそのようなルールがないことを知っていたが、あまりに美しいフィアを見ると、リザは時々、ほろ苦く少し懐かしい気持ちが胸の内から湧いてくるような気がするのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その日はよく晴れて、気持ちの良い日だった。
あまりにもいい天気だったので、湖のそばで日光浴と水遊びを4人でしていた。
平和な4人の日常は、突如響き渡った轟音にかき消された。
「ーーっーーザーーー!!!」
叫び声とともに、
ズドーーーン!!!
という爆音と爆風、そしてものすごい水柱が湖に立ち昇った。
かと思うと、水柱はあっという間に大きな津波となり、リザたちに襲いかかってきた。
ッザーー!
という音とともに、水の塊が降ってくる。
リザたち4人は見事にずぶ濡れになった。
あまりのことに、訳がわからず困惑していると、諸悪の根源が湖の中心に浮かんで叫んでいた。
「おぉい!リザルドラ!出迎えろよー!」
パラパラと降り続く、水滴越しにも鮮やかな赤い髪をした男がこちらを見て叫んでいる。
ルビーのような男だった。
腰までとどく燃えるような紅の髪に、少しつり気味の深い森の翠の瞳。鼻は高く唇はスッキリとしている。体は細身だが、筋肉がしっかりついていることがわかる。全身から闘気と覇気があふれ出している迫力の美男子だ。
「おい!グズ!聞こえてるんだろ!さっさとこっちに…っ…うおっ!」
男は最後まで言い切ることができなかった。
フィアが男に襲いかかったからだ。
どこから持ってきたのか両手に彼女の腕ほどの長さのある棒を1本ずつ握っており、その棒で紅い男に殴りかかっている。
「…っおっ、…っぶねぇっ…なんだオマエっ!」
といいながらも、男はフィアの襲撃を躱したりいなしたりしている。最初の数撃を除いて、フィアの攻撃はほとんど当たらなかった。
「リザを馬鹿にするな」
低いドスの効いた声で、フィアは男にいどみ続ける。
「なんだ、オマエ、あのグズのことで怒ってんのか?」
フィアの猛攻をヒラヒラと躱しながら、驚いたように男が問う。
「リザを、馬鹿に、するな!」
接近戦をしていたフィアはそう言うと、ザッと後ろに跳び、男と距離をとった。かと思うと、ガッと高く跳び上がり、勢いをつけて男に跳びかかる。
男はこれも軽く受け流す。ここで、これまで防戦一方だった男はフィアを捕まえ、攻撃を加えようとする。
「兄さん!やめて!フィアは女の子じゃないか!」
リザが叫んだ。
男の蹴りをなんとか腕で受け止め、吹っ飛ばされながらもかろうじて立ち上がったフィアの方へリザは駆けよる。
「フィア、大丈夫?」
その言葉を無視して、フィアが呟く。
「兄さん?」
フィアを背に庇い、男と対峙したため、フィアの表情は分からなかったが、どこか困惑しているようだった。
「お前のような出来損ないに、兄と呼ばれるのも腹立たしいが、事実ではあるな」
フィアの呟きを聞きとった男がそう言えば、
「フィア、待って!今の君では兄さんには敵わないよ!ボクのことなら気にしなくていいから、抑えて!」
リザは、またも男に襲いかかろうとしたフィアを捕まえ、必死に止める。
「止めるな、リザ、兄ならなおさらアイツは許さん」
リザに止められながらも、フィアは諦めない。
「いいんだ。フィア、ボクが出来損ないなのは事実だし、ボクは気にしてないから」
体格的にはどう考えてもリザの方が有利なのに、フィアのあまりの勢いに、リザは必死でフィアを抱えこみ、止める。
「リザがつけたリザの評価はそれで構わない。だが、私のリザへの気持ちは違う。そこは譲らない」
普段はあまり感情を映すことのない紺碧の瞳が、怒りで輝いていた。こんなときなのにリザは、
(綺麗な目だなぁ…)
なんてのんきなことを思った。
「…怒っていても、フィアは綺麗なんだね」
今にも飛び出していきそうなフィアの目を見つめ、つい呟いてしまった。
「…っ、なにを!」
あまりに場違いなセリフだったが、褒められたフィアは虚をつかれ、怒りが和らいだ。
「リザに褒められるのは、嫌いじゃない」
フィアの勢いがおさまったのを見て、リザはフィアを放した。
その一連の出来事を見ていた男が、
「おっ。なんだ、チビ。もう終わりか?やっぱり出来損ないの周りには、出来損ないしかいないんだな~」
なんて言い出すものだから、両者の間でまたひと暴れふた暴れあったのは、言うまでもない。
ボクたちは相変わらず4人で暮らしていた。
フィアはずいぶん大きくなった。
プクプクとしていた手足はスラリと伸び、髪も長くなった。ボンヤリとしていた瞳は、しっかりとした意志を映すようになり、紺碧に輝いている。赤子の頃はパッと見ただけでは、男か女か分からなかったが、今ではひと目見ただけで女の子だと分かる。
それも、とてつもなく可愛い女の子である。
竜である自分にも、美醜の感覚は備わっていて、だから、フィアがものすごい美貌の持ち主なのは分かっていた。
竜族も人型になることができる。あまり上手くはないが、リザも人型をとることができた。
竜族が人型をとる場合、強さが美しさに比例する事が多い。ときおり、美しさよりたくましさを優先したり、可愛らしさを優先したりする者もいるが、それはあくまで少数派で、基本的に竜の人型は、強い者ほど美しい姿をしている。
人族にはそのようなルールがないことを知っていたが、あまりに美しいフィアを見ると、リザは時々、ほろ苦く少し懐かしい気持ちが胸の内から湧いてくるような気がするのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その日はよく晴れて、気持ちの良い日だった。
あまりにもいい天気だったので、湖のそばで日光浴と水遊びを4人でしていた。
平和な4人の日常は、突如響き渡った轟音にかき消された。
「ーーっーーザーーー!!!」
叫び声とともに、
ズドーーーン!!!
という爆音と爆風、そしてものすごい水柱が湖に立ち昇った。
かと思うと、水柱はあっという間に大きな津波となり、リザたちに襲いかかってきた。
ッザーー!
という音とともに、水の塊が降ってくる。
リザたち4人は見事にずぶ濡れになった。
あまりのことに、訳がわからず困惑していると、諸悪の根源が湖の中心に浮かんで叫んでいた。
「おぉい!リザルドラ!出迎えろよー!」
パラパラと降り続く、水滴越しにも鮮やかな赤い髪をした男がこちらを見て叫んでいる。
ルビーのような男だった。
腰までとどく燃えるような紅の髪に、少しつり気味の深い森の翠の瞳。鼻は高く唇はスッキリとしている。体は細身だが、筋肉がしっかりついていることがわかる。全身から闘気と覇気があふれ出している迫力の美男子だ。
「おい!グズ!聞こえてるんだろ!さっさとこっちに…っ…うおっ!」
男は最後まで言い切ることができなかった。
フィアが男に襲いかかったからだ。
どこから持ってきたのか両手に彼女の腕ほどの長さのある棒を1本ずつ握っており、その棒で紅い男に殴りかかっている。
「…っおっ、…っぶねぇっ…なんだオマエっ!」
といいながらも、男はフィアの襲撃を躱したりいなしたりしている。最初の数撃を除いて、フィアの攻撃はほとんど当たらなかった。
「リザを馬鹿にするな」
低いドスの効いた声で、フィアは男にいどみ続ける。
「なんだ、オマエ、あのグズのことで怒ってんのか?」
フィアの猛攻をヒラヒラと躱しながら、驚いたように男が問う。
「リザを、馬鹿に、するな!」
接近戦をしていたフィアはそう言うと、ザッと後ろに跳び、男と距離をとった。かと思うと、ガッと高く跳び上がり、勢いをつけて男に跳びかかる。
男はこれも軽く受け流す。ここで、これまで防戦一方だった男はフィアを捕まえ、攻撃を加えようとする。
「兄さん!やめて!フィアは女の子じゃないか!」
リザが叫んだ。
男の蹴りをなんとか腕で受け止め、吹っ飛ばされながらもかろうじて立ち上がったフィアの方へリザは駆けよる。
「フィア、大丈夫?」
その言葉を無視して、フィアが呟く。
「兄さん?」
フィアを背に庇い、男と対峙したため、フィアの表情は分からなかったが、どこか困惑しているようだった。
「お前のような出来損ないに、兄と呼ばれるのも腹立たしいが、事実ではあるな」
フィアの呟きを聞きとった男がそう言えば、
「フィア、待って!今の君では兄さんには敵わないよ!ボクのことなら気にしなくていいから、抑えて!」
リザは、またも男に襲いかかろうとしたフィアを捕まえ、必死に止める。
「止めるな、リザ、兄ならなおさらアイツは許さん」
リザに止められながらも、フィアは諦めない。
「いいんだ。フィア、ボクが出来損ないなのは事実だし、ボクは気にしてないから」
体格的にはどう考えてもリザの方が有利なのに、フィアのあまりの勢いに、リザは必死でフィアを抱えこみ、止める。
「リザがつけたリザの評価はそれで構わない。だが、私のリザへの気持ちは違う。そこは譲らない」
普段はあまり感情を映すことのない紺碧の瞳が、怒りで輝いていた。こんなときなのにリザは、
(綺麗な目だなぁ…)
なんてのんきなことを思った。
「…怒っていても、フィアは綺麗なんだね」
今にも飛び出していきそうなフィアの目を見つめ、つい呟いてしまった。
「…っ、なにを!」
あまりに場違いなセリフだったが、褒められたフィアは虚をつかれ、怒りが和らいだ。
「リザに褒められるのは、嫌いじゃない」
フィアの勢いがおさまったのを見て、リザはフィアを放した。
その一連の出来事を見ていた男が、
「おっ。なんだ、チビ。もう終わりか?やっぱり出来損ないの周りには、出来損ないしかいないんだな~」
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