悪の魔女は王子の溺愛から逃れられない

ナカナカ田

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ニコニコニコ。

目の前には、とても満足そうな王子がいる。

ここは、いつもの王子の部屋。といってもこんなに明るい時間に訪れるのははじめてだし、起きている王子に迎えられるのもはじめてだ。

(明るいところでみると、この部屋はこうなっているのか…)

さすが王子の部屋。豪華である。内装はもちろん、勉強用と思われる机も、来客用のソファもセットの机も、みごとな意匠のものだった。ソファの座り心地もとても良い。

とはいえ、今の私の機嫌はすこぶる悪い。

というのも、王子がありえないことをしたからである。



ガランガランガランガラン!!!

けたたましい音が、私の頭に鳴り響く。

「…っ、う、うるさいっ…」

たまらず私は自分の家のベッドから身をおこす。

時刻は早朝。ふだん朝はゆっくりめの私からすると、ありえない時間の起床である。

ガラーンガラガラガラーン!

「うるさいっ!うるさい、うるさーい!」

相変わらず頭の中でベルが鳴り響いている。それはもう、ものすごい音で。

頭が痛いどころではなく、吐き気すらしてくる。

怒りを抱えて私は転移した。

元凶である王子のもとへ。



「もうやめろっ!聞こえているし、ひとふりでいいと言っただろう!」

着くなり部屋の主に文句を言った。怒りをたぶんに含んだ声に、しかし相手はひるむことはない。

「わー、ホントに来てくれたんですねー。あ、顔色が悪いですね。とりあえずお座りください」

そう言ってスススと私の手をとり、フカフカのソファに案内する。そして、当然のように私の隣に座る。

「お茶は飲めますか?飲むと、気分がすっきりしますよ」

そう言って、手ずからお茶を入れ、目の前の机に置いてくれる。すっきりとしたハーブの匂いがした。

「一体誰のせいだと…」

げんなりしながらお茶を飲みつつ文句を言う。

「私のせいですね。すみません。であなたの調子が悪くなるなんて。大丈夫です。きちんと責任はとりますよ」

王子は、心配そうな表情をしつつ、そっと私の手を握り、最後にニッコリと笑った。

(これは、自分の魅力を十分理解しながらやってるな)

金髪碧眼。それだけでも目を引く色合いなのに、その造作ぞうさくは恐ろしく整っている。キリリとしながらも優雅な弧を描く眉。アーモンド型の二重の瞳。その瞳をふち取る長いまつ毛。スッとした鼻筋。薄い唇。唯一幼さを残したふっくらとしたバラ色のほお。それに、少しクセのある黄金色の髪が肩まで伸びている。まさに王子!これが天使!という見本のような子どもである。

中身はてんで子どもに思えないが。

「そんなことはどうでもいい。だが、昨日私は伝えたはずだ。ベルは1度鳴らせば十分だと。それに、呪いにかかった時に鳴らせと。そういう約束で渡したはずだ。約束が守れないのなら、返してもらう」

そう言ってギロリとにらみつける。

魔女のひと睨みだ。いくら王子といえど、態度を改めるだろう。

「すみません。魔女さま。本当に来てくれるか心配だったんです。なにしろ、私の命がかかってますし。一応、私、王族ですし。念のため、どうしても確認したかったんです。すみません。悪気はなかったんです。それに、そのせいで魔女さまの調子が悪くなるなんて思いもしなかったのです」

ペラペラペラペラよくもまぁ、こうも話せるものだ。その様子からは、反省も畏怖いふも後悔も全く感じられない。

(もうイヤだ。コイツ、もうイヤだ。早く帰りたい)

遠い目でそんなことを思っていると、

ガランガランガラーン!

「…っおい!」

「すみません。何度か呼んでいるのに、気づいておられないようなので」

コイツは私を犬か猫と間違えているのではないだろうか?

「…さま。魔女さま」

「魔女さま魔女さまうるさい!」

「では、なんと呼べばいいですか?」

そうではないだろう。なぜそうなる。

「お名前はなんと言いますか?」

もう黙ってほしい。お願いだから放っておいてほしい。

恨みがましい目で見つめれば、王子はとても困った顔をして、ハンドベルを私の眼前にかかげた。

「アリアだ!私の名は、アリア」

たまらず叫ぶように言った。

なんなんだ、コイツは。魔女を脅す人間なんて私は知らない。

「私はジークフリード。ジークフリード・ヴァンデミリオンです。ジークとお呼びください。アリアさま」

もはや夢に出てくるのでは?と思うほどデフォルトとしたニコニコ笑顔で、王子ことジークが言った。
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