悪の魔女は王子の溺愛から逃れられない

ナカナカ田

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つかの間の平穏

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あれからなんとかハンドベルに仕掛けをし、呪い以外で呼んでも来ないと再三念を押した後、私はやっと王宮から帰ることができた。

ハンドベルには私の手元に戻るまで、1度だけしか鳴らないよう魔法をかけておいた。

これでひと安心だ。

私は静かに暮らしたい。王子の呪いは魅力的だが、王子自体には興味はない。交流などもってのほかだ。

「アリア。またね」

と。別れぎわに王子は言った。

名を呼び捨てにされるようになったことより、"またね"というのが、耳についた。

それはまるで予言のようで、魔女であるはずの私が思わずヒヤリとしてしまった。







去りぎわのヒヤリが杞憂きゆうであったかのように、その後、数年は静かで穏やかな日々を送ることができた。

なんなら、王子とのやりとりも忘れるほど平和だった。

20-30年寿命を延ばすことができたのはとても幸運だった。いくら強力なものでも、1度で10年以上をかせぐかてに出会えることなど、そうそうない。1年延びるだけでもなかなか良質な糧なのだ。これはと思い、期待して行っても数ヶ月ならまだいい方で、中には数週間、酷いものだと数時間しか延びないものもある。数時間では、出かける時間とあわせるとプラマイゼロどころかマイナスである。

効率よくやろうと思えば、戦場や病院など、狭いエリアで一気に稼ぐこともできるが、私はそれらの凄惨せいさんな様子や陰鬱いんうつな雰囲気が好きではなかった。それに、魔女がそういう場所をウロウロしていると、捕まえようと攻撃してくるやからがいる。私は魔女だが、物理的に強いわけでも攻撃魔法が得意なわけでもない。魔女が人間に捕まっていいことなど何もないので、捕まるようなリスクは犯さない。

ひと握りの人間に、本人にも気づかれないくらいコッソリと近づき、ひっそりと事を成すことで、私は自分の寿命を延ばしてきた。

その事を思えば、王子は非常に効率的で、忍びこみやすいところに住んでいる、そして捕まる可能性の低い、いうなればいいカモだった。

(…だったはずなんだがなぁ…)

そんなことを思いつつ、私はつかの間の平穏を満喫した。

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