11 / 23
魔女の誤算2
しおりを挟む
身体が痛い。あつくて痛い。そして、身体が重い。自分の身体なのに、自由に動かすことができないのがもどかしい。
けれど。
(起きなければ)
そう思い、渾身の力をこめて身をおこす。そうして重いまぶたをゆっくりあけて回りを見わたす。その動作は、ひどく緩慢なものだった。
「アリア!気がついた?」
私は王子のベッドの上にいた。ベッドの近くに机を置いて書き物をしていた王子が私に気づき、ベッドの脇にやってくる。そして、私の額に王子の手のひらを当てる。
「まだ熱があるね。何か欲しいものはある?」
「私は…倒れたのか?」
「そうだよ。ボクの呪いをアリアに移したとたん、バッタリ倒れちゃったんだ。ビックリしたよ」
「そうか。迷惑をかけたな」
おおむね状況は理解した。その事実は、私にとって受け入れがたいものではあるが。
ーー呪いの力に負けたのだーー
私の身体は呪いの大きさに勝てず、オーバーヒートし、機能不全になった。そして、倒れたのだ。
「私はどれくらい寝ていただろうか?」
なんとも情けないことだが、倒れてからどれだけ時間が経ったのか分からない。数分か、数時間か。今は昼間のようだから、あまり長くはないだろう。
「3日だよ」
「!…まさか⁉︎そんな、冗談だろう?」
「冗談じゃないよ。アリアがボクの呪いを引き受けて倒れてから、今日で3日目だ」
「私はここで3日も阿呆のように寝ていたのか⁉︎」
信じられない事実に、他人に動揺を悟られるわけにはいかないのに、知らず声が震える。
他人のーーしかも、人間の前で無防備に3日も寝ていたことは、魔女としての私の矜恃をひどく傷つけた。軽くパニックになる。
とにかくここを離れたいと、私は王子に礼も言わず逃げるようにこの場を去ろうとした。
去ろうとして転移の魔法を発動しようとしたのに。
「どういうことだ⁉︎」
転移ができない。
「アリア。大丈夫?」
心配そうに王子が声をかけてくる。
「ーなわけないだろうっ!転移がっ…転移ができないんだぞっ…!」
なぜ。どうして。
相手が子どもだということも忘れて王子に当たってしまう。
「アリア。とりあえず落ちつこう?」
呆然とする私を王子はソファに案内する。
「なぜだ…どうして…どうなってる…?」
ブツブツと、なぜどうしてをくり返す。
「アリア。落ちついて。お茶を入れたから、飲んで?」
「これが、落ちついていられるか⁉︎魔法が使えないんだぞ!魔法…魔法が!…」
どうして落ちついていることができよう?
魔女にとって魔法は自分の一部である。
生まれたときから共にあるもの。自分に根づく魔法は意識することなく、自然に使うことができた。魔法によっては、訓練しないと使えないものや、訓練しても使えないものも多々あるが、魔法は魔女の一部なのだ。それが、急に使えなくなる不安。自分自身が根こそぎ揺らぐような恐ろしさ。
「大丈夫だよ。アリア。アリアの魔法は失われたわけじゃない」
「何を…お前に魔法の何がわかるんだっ!」
思わず口調が悪くなる。落ちついた様子の王子に腹が立つ。何も分かってないくせに。私の10分の1どころが、100分の1をちょっと越えただけの、ヒヨッコのくせに。
「わかるよ。アリアのために死ぬほど勉強したから」
震える私の両手をしっかり握り、真剣な目で私を見つめて王子は言った。
「大丈夫。アリアの力は無くなってなんかないよ。落ちついて、身体の中の力の流れを感じるんだ。お茶を飲みながら、その流れを追うといいよ」
やってごらん。
そう言ってティーカップを私に手渡す。
信じられない思いだったが、私はお茶をひと口飲んだ。温かいものが、私の口に喉に食道に胃にじんわりと伝わっていく。その温かな感覚をゆっくりとなぞっていく。じきに、ひたひたと身体の中を巡る自分の力を感じた。
「…あ…」
「ほら。ね?大丈夫」
フフフと笑って王子が優しく私の頭をなでた。不覚にも私はその仕草にひどく安心してしまった。
けれど。
(起きなければ)
そう思い、渾身の力をこめて身をおこす。そうして重いまぶたをゆっくりあけて回りを見わたす。その動作は、ひどく緩慢なものだった。
「アリア!気がついた?」
私は王子のベッドの上にいた。ベッドの近くに机を置いて書き物をしていた王子が私に気づき、ベッドの脇にやってくる。そして、私の額に王子の手のひらを当てる。
「まだ熱があるね。何か欲しいものはある?」
「私は…倒れたのか?」
「そうだよ。ボクの呪いをアリアに移したとたん、バッタリ倒れちゃったんだ。ビックリしたよ」
「そうか。迷惑をかけたな」
おおむね状況は理解した。その事実は、私にとって受け入れがたいものではあるが。
ーー呪いの力に負けたのだーー
私の身体は呪いの大きさに勝てず、オーバーヒートし、機能不全になった。そして、倒れたのだ。
「私はどれくらい寝ていただろうか?」
なんとも情けないことだが、倒れてからどれだけ時間が経ったのか分からない。数分か、数時間か。今は昼間のようだから、あまり長くはないだろう。
「3日だよ」
「!…まさか⁉︎そんな、冗談だろう?」
「冗談じゃないよ。アリアがボクの呪いを引き受けて倒れてから、今日で3日目だ」
「私はここで3日も阿呆のように寝ていたのか⁉︎」
信じられない事実に、他人に動揺を悟られるわけにはいかないのに、知らず声が震える。
他人のーーしかも、人間の前で無防備に3日も寝ていたことは、魔女としての私の矜恃をひどく傷つけた。軽くパニックになる。
とにかくここを離れたいと、私は王子に礼も言わず逃げるようにこの場を去ろうとした。
去ろうとして転移の魔法を発動しようとしたのに。
「どういうことだ⁉︎」
転移ができない。
「アリア。大丈夫?」
心配そうに王子が声をかけてくる。
「ーなわけないだろうっ!転移がっ…転移ができないんだぞっ…!」
なぜ。どうして。
相手が子どもだということも忘れて王子に当たってしまう。
「アリア。とりあえず落ちつこう?」
呆然とする私を王子はソファに案内する。
「なぜだ…どうして…どうなってる…?」
ブツブツと、なぜどうしてをくり返す。
「アリア。落ちついて。お茶を入れたから、飲んで?」
「これが、落ちついていられるか⁉︎魔法が使えないんだぞ!魔法…魔法が!…」
どうして落ちついていることができよう?
魔女にとって魔法は自分の一部である。
生まれたときから共にあるもの。自分に根づく魔法は意識することなく、自然に使うことができた。魔法によっては、訓練しないと使えないものや、訓練しても使えないものも多々あるが、魔法は魔女の一部なのだ。それが、急に使えなくなる不安。自分自身が根こそぎ揺らぐような恐ろしさ。
「大丈夫だよ。アリア。アリアの魔法は失われたわけじゃない」
「何を…お前に魔法の何がわかるんだっ!」
思わず口調が悪くなる。落ちついた様子の王子に腹が立つ。何も分かってないくせに。私の10分の1どころが、100分の1をちょっと越えただけの、ヒヨッコのくせに。
「わかるよ。アリアのために死ぬほど勉強したから」
震える私の両手をしっかり握り、真剣な目で私を見つめて王子は言った。
「大丈夫。アリアの力は無くなってなんかないよ。落ちついて、身体の中の力の流れを感じるんだ。お茶を飲みながら、その流れを追うといいよ」
やってごらん。
そう言ってティーカップを私に手渡す。
信じられない思いだったが、私はお茶をひと口飲んだ。温かいものが、私の口に喉に食道に胃にじんわりと伝わっていく。その温かな感覚をゆっくりとなぞっていく。じきに、ひたひたと身体の中を巡る自分の力を感じた。
「…あ…」
「ほら。ね?大丈夫」
フフフと笑って王子が優しく私の頭をなでた。不覚にも私はその仕草にひどく安心してしまった。
0
あなたにおすすめの小説
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
番など、今さら不要である
池家乃あひる
恋愛
前作「番など、御免こうむる」の後日談です。
任務を終え、無事に国に戻ってきたセリカ。愛しいダーリンと再会し、屋敷でお茶をしている平和な一時。
その和やかな光景を壊したのは、他でもないセリカ自身であった。
「そういえば、私の番に会ったぞ」
※バカップルならぬバカ夫婦が、ただイチャイチャしているだけの話になります。
※前回は恋愛要素が低かったのでヒューマンドラマで設定いたしましたが、今回はイチャついているだけなので恋愛ジャンルで登録しております。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。
わんこ系婚約者の大誤算
甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。
そんなある日…
「婚約破棄して他の男と婚約!?」
そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。
その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。
小型犬から猛犬へ矯正完了!?
恋心を封印したら、なぜか幼馴染みがヤンデレになりました?
夕立悠理
恋愛
ずっと、幼馴染みのマカリのことが好きだったヴィオラ。
けれど、マカリはちっとも振り向いてくれない。
このまま勝手に好きで居続けるのも迷惑だろうと、ヴィオラは育った町をでる。
なんとか、王都での仕事も見つけ、新しい生活は順風満帆──かと思いきや。
なんと、王都だけは死んでもいかないといっていたマカリが、ヴィオラを追ってきて……。
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる