悪の魔女は王子の溺愛から逃れられない

ナカナカ田

文字の大きさ
16 / 23

居候は立場が弱い

しおりを挟む
その日の夕方。

王子が私の依頼した薬草や道具などを持ってやって来た。

「……これは、なんだ?」

その中に変なものが混じっている。

「何って、メイド服だよ。明日から必要でしょ?」

当然のように王子は言う。

「なぜこれが必要なんだ?」

「だって、アリアがボクにお茶を入れてくれるんでしょ。どこで誰が見ているか分からないし、メイド服なら安心でしょう?」

…安心ではない。安心ではないし、

「私は茶葉を作るだけだぞ!給仕は他に専門の者がいるだろう⁉︎」

ここは王宮で、コイツは仮にも王子だ。専属の使用人が何人かいるだろう。だったら茶葉を渡せば十分のはずだ。

「でも、ボクは休憩がしたいんだ」

「なに?」

時々王子は言葉が通じなくなる時がある。

今もそうだ。

「休憩ってボクが安らぐためにあるものでしょ?だったらお茶はアリアが入れてくれないと。それに、休憩中はアリアがボクと一緒にいてくれること。そうじゃないと、ボクの休憩にはならないよ」

「そんな休憩があるか!」

「ボクは王子だからね。特別仕様だよ」

「私は納得していない」

「そうなの?でも、アリア、ここですることないでしょ?昨日も今日も退屈そうに部屋でウロウロしてたじゃない。なにかやる事があった方が気が紛れない?」

「うっ、」

痛いところを突いてくる。私が言い返しにくい、とても痛いところを。

「それに、そろそろアリアの存在をごまかすのが難しくなってきたんだ。ボクの部屋で寝ていて、ボクと一緒に食事をとっているからね。ボクは全然かまわないんだけど、ちょっとボクの周りがうるさくてね。魔女だってバラすわけにもいかないでしょう?だったら、ボクの身の回りの世話をする者が増えたってことにしておいた方がいいかと思うんだよね」

王子の部屋で寝ているのは、アリアが魔女であることを知られないための防犯上、必要なことだと王子に言われて仕方なくそうしているだけだし(もちろん別々のベッドで寝ている)、食事だって王子が絶対一緒にとるんだと譲らないから一緒にとっているだけだ。

納得いかない主張も多いが、今の私は宿もしょくも王子の世話になっている。しぶしぶではあるが、居候いそうろうの身分である。

罪悪感はないが、肩身がせまいのは事実である。宿代飯代くらいは働けと言われれば、働かざるをえまい。

「つまり、これは王宮滞在費ということだな?」

腹立たしいことこの上ないが、そういうことなら…そういうことなら、なんとか耐えよう。


恩には誠意をーー


魔女の世界には意外と律儀なルールが残っている。

「うーん…まぁ、そういうことになるのかなぁ。本音を言うと、ボク的には滞在費なんていらないから、アリアがボクの恋人か奥さんになってくれると嬉しいんだけどね。そうすれば、アリアがこそこそする必要もないし、滞在費なんて気にしなくてすむよ」

どうかな?

なんて、まんざらでもなさそうに聞いてくる。

「やっぱり私が作った茶葉は、私みずから入れるべきだと思う!そして、まわりにまぎれるためには、用意された服を着ることにする!」

こうして私はまた、王子にまんまとしてやられたのである。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

番など、今さら不要である

池家乃あひる
恋愛
前作「番など、御免こうむる」の後日談です。 任務を終え、無事に国に戻ってきたセリカ。愛しいダーリンと再会し、屋敷でお茶をしている平和な一時。 その和やかな光景を壊したのは、他でもないセリカ自身であった。 「そういえば、私の番に会ったぞ」 ※バカップルならぬバカ夫婦が、ただイチャイチャしているだけの話になります。 ※前回は恋愛要素が低かったのでヒューマンドラマで設定いたしましたが、今回はイチャついているだけなので恋愛ジャンルで登録しております。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

わんこ系婚約者の大誤算

甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。 そんなある日… 「婚約破棄して他の男と婚約!?」 そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。 その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。 小型犬から猛犬へ矯正完了!?

恋心を封印したら、なぜか幼馴染みがヤンデレになりました?

夕立悠理
恋愛
 ずっと、幼馴染みのマカリのことが好きだったヴィオラ。  けれど、マカリはちっとも振り向いてくれない。  このまま勝手に好きで居続けるのも迷惑だろうと、ヴィオラは育った町をでる。  なんとか、王都での仕事も見つけ、新しい生活は順風満帆──かと思いきや。  なんと、王都だけは死んでもいかないといっていたマカリが、ヴィオラを追ってきて……。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

処理中です...