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ほんの少しのお節介が相手によっては身を滅ぼす 2
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「おい。王子」
「王子はこの王宮には1人ではありません。名前で呼ばれないと、分かりません」
書類から顔を上げもせず、王子が答える。
思わずイラッとした。
イラッとしたが、今回は耐えよう。いちいち反応して怒っていては、話がちっとも進まない。これも昨日1日で私が学んだことだった。
「…っ、ジ、ジーク。こっちにきてちょっと休憩しないか?リラックス効果のある、お茶を入れてみたん…」
「アリアがボクのために?ありがとう!喜んでいただくよ」
食い気味の返事とともに、疾風のように王子がソファにやってきた。
その様子にこっそりため息をつきながら、私は王子のお茶を入れ、目の前にそっとおいてやる。
「1杯目はぬるめで飲むといい。香りは薄いが、身体にしみやすい」
薬効のあるお茶は、実は飲み方がとても大切だ。
茶葉の温度管理と飲むときの温度。これでかなり効果が変わってくる。茶葉により煮出す温度はさまざまで、飲むときの温度も体調などによって、また、のぞむ効果によって違うのだ。
「2杯目は香りを楽しむためにも、身体を温めるためにも熱いものがいい」
そう言って2杯目も王子の前においた。
「?…どうした。飲まないのか?」
王子はお茶に手をつけず、ぼんやりと見つめている。
そして私はふと気づいた。
「!…変なものは入れてないが、毒味が必要か?」
王子は何度も呪いをかけられている。毒だって盛られたことがあるかもしれない。魔女が入れたものなど、怪しくて飲みたくないのかもしれない。
「余計な世話をしてしまっ…」
「アリアが入れてくれたものに毒味なんて必要ないし、余計なお世話だなんて思ってないよ」
そう言うと王子は、1杯目のお茶を一気に飲みほした。
「不思議な味のお茶だけど、悪くないよ。なんだか身体に染みていくような感じだね」
「あ、あぁ。1杯目は水分と塩分の補給を目的としたものだ。だから、体温に近いくらいのぬるいものがいい」
「そう」
また王子はボンヤリしている。
「2杯目はリラックス効果のあるものだ。いくつかハーブが入っている。熱めに入れると香りも立って色も鮮やかになる。ゆっくり飲むためにも熱めに入れるのがいい」
2杯目のカップをそっと手で包み、王子が私を見ていった。
「どうしてアリアはこんなことしてくれるの?」
それははじめて見る王子の、年相応の少年らしい、純粋な疑問だった。だが、王子の表情はどこか不安げで迷子の子どものようだ。美しい青い瞳が揺れている。
「特に深い意味はない。ただ、私が君くらいの時は、野草を摘んだり育てたり、川で魚やかえるを採ったりしていたんだ」
だから、少し君が気の毒に見えたんだーー
そこまで言うのは、ちがう気がした。けれど、王子には伝わったのだと思う。
「そう」
そう言ってひと口お茶を口にした。
「これはさわやかな味だね」
「あ、あぁ…カモミールとレモンが入っているからな」
それから王子は静かにお茶を飲んだ。いつもペラペラよけいなことをしゃべっている王子がしゃべらないと、とても静かだ。ここには控える侍従も侍女もいない。
(なんだか調子が狂うな…)
そんなことを思っていると、
「アリアは子どもの頃、野草を摘んだり、魚を採ったりしていたんだね」
クスリと笑いながら王子が言った。
「ねぇ、アリア。アリアから見て、ボクはかわいそうな子どもなのかな?」
少し自嘲気味だ。
「不自由そうで気の毒だな、とは思うが、かわいそうなのかは分からない。だが、もう少し休憩を取った方がいいと思う。人間の基準が私には分からないが、どうも君はオーバーワークな気がする」
「そっか。アリアは優しいね」
王子はクスクス笑っている。
「私が優しいかどうか、私には分からない」
何がそんなに楽しいのか、それとも嬉しいのか分からないが、とにかく王子は笑っていた。
「ボクはオーバーワークなんだね」
クスクス笑いながら、王子は聞いてくる。
「私の感覚ではな。肉体というものは、実は案外もろい。日々の身体と心のメンテナンスは、君が思うより重要だ。自分の身体の声を無視し続けていると、重大な身体のSOSさえ分からなくなるぞ」
「休憩は大事だってことだね」
「私はそう思う」
それを聞いて王子がニヤリと笑った気がした。
「じゃあ、ボクも休憩する。午前午後で1回ずつ」
「それは、いいことだと思う」
口には出さないが、私は休憩が大好きだ。その時にお茶やお菓子をのんびり楽しむのもとても好きだ。
「その時に、アリアのお茶が飲みたいな」
天使のような笑顔で王子が言う。
「まぁ、ここですることもないし、材料さえ揃えてくれるなら、茶葉なら用意できるぞ」
私が王子の飲むお茶の茶葉を作成する。
そのことに、否やはなかった。しかし、王子の要求の意味を私は正しく理解していなかったのである。
「王子はこの王宮には1人ではありません。名前で呼ばれないと、分かりません」
書類から顔を上げもせず、王子が答える。
思わずイラッとした。
イラッとしたが、今回は耐えよう。いちいち反応して怒っていては、話がちっとも進まない。これも昨日1日で私が学んだことだった。
「…っ、ジ、ジーク。こっちにきてちょっと休憩しないか?リラックス効果のある、お茶を入れてみたん…」
「アリアがボクのために?ありがとう!喜んでいただくよ」
食い気味の返事とともに、疾風のように王子がソファにやってきた。
その様子にこっそりため息をつきながら、私は王子のお茶を入れ、目の前にそっとおいてやる。
「1杯目はぬるめで飲むといい。香りは薄いが、身体にしみやすい」
薬効のあるお茶は、実は飲み方がとても大切だ。
茶葉の温度管理と飲むときの温度。これでかなり効果が変わってくる。茶葉により煮出す温度はさまざまで、飲むときの温度も体調などによって、また、のぞむ効果によって違うのだ。
「2杯目は香りを楽しむためにも、身体を温めるためにも熱いものがいい」
そう言って2杯目も王子の前においた。
「?…どうした。飲まないのか?」
王子はお茶に手をつけず、ぼんやりと見つめている。
そして私はふと気づいた。
「!…変なものは入れてないが、毒味が必要か?」
王子は何度も呪いをかけられている。毒だって盛られたことがあるかもしれない。魔女が入れたものなど、怪しくて飲みたくないのかもしれない。
「余計な世話をしてしまっ…」
「アリアが入れてくれたものに毒味なんて必要ないし、余計なお世話だなんて思ってないよ」
そう言うと王子は、1杯目のお茶を一気に飲みほした。
「不思議な味のお茶だけど、悪くないよ。なんだか身体に染みていくような感じだね」
「あ、あぁ。1杯目は水分と塩分の補給を目的としたものだ。だから、体温に近いくらいのぬるいものがいい」
「そう」
また王子はボンヤリしている。
「2杯目はリラックス効果のあるものだ。いくつかハーブが入っている。熱めに入れると香りも立って色も鮮やかになる。ゆっくり飲むためにも熱めに入れるのがいい」
2杯目のカップをそっと手で包み、王子が私を見ていった。
「どうしてアリアはこんなことしてくれるの?」
それははじめて見る王子の、年相応の少年らしい、純粋な疑問だった。だが、王子の表情はどこか不安げで迷子の子どものようだ。美しい青い瞳が揺れている。
「特に深い意味はない。ただ、私が君くらいの時は、野草を摘んだり育てたり、川で魚やかえるを採ったりしていたんだ」
だから、少し君が気の毒に見えたんだーー
そこまで言うのは、ちがう気がした。けれど、王子には伝わったのだと思う。
「そう」
そう言ってひと口お茶を口にした。
「これはさわやかな味だね」
「あ、あぁ…カモミールとレモンが入っているからな」
それから王子は静かにお茶を飲んだ。いつもペラペラよけいなことをしゃべっている王子がしゃべらないと、とても静かだ。ここには控える侍従も侍女もいない。
(なんだか調子が狂うな…)
そんなことを思っていると、
「アリアは子どもの頃、野草を摘んだり、魚を採ったりしていたんだね」
クスリと笑いながら王子が言った。
「ねぇ、アリア。アリアから見て、ボクはかわいそうな子どもなのかな?」
少し自嘲気味だ。
「不自由そうで気の毒だな、とは思うが、かわいそうなのかは分からない。だが、もう少し休憩を取った方がいいと思う。人間の基準が私には分からないが、どうも君はオーバーワークな気がする」
「そっか。アリアは優しいね」
王子はクスクス笑っている。
「私が優しいかどうか、私には分からない」
何がそんなに楽しいのか、それとも嬉しいのか分からないが、とにかく王子は笑っていた。
「ボクはオーバーワークなんだね」
クスクス笑いながら、王子は聞いてくる。
「私の感覚ではな。肉体というものは、実は案外もろい。日々の身体と心のメンテナンスは、君が思うより重要だ。自分の身体の声を無視し続けていると、重大な身体のSOSさえ分からなくなるぞ」
「休憩は大事だってことだね」
「私はそう思う」
それを聞いて王子がニヤリと笑った気がした。
「じゃあ、ボクも休憩する。午前午後で1回ずつ」
「それは、いいことだと思う」
口には出さないが、私は休憩が大好きだ。その時にお茶やお菓子をのんびり楽しむのもとても好きだ。
「その時に、アリアのお茶が飲みたいな」
天使のような笑顔で王子が言う。
「まぁ、ここですることもないし、材料さえ揃えてくれるなら、茶葉なら用意できるぞ」
私が王子の飲むお茶の茶葉を作成する。
そのことに、否やはなかった。しかし、王子の要求の意味を私は正しく理解していなかったのである。
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