15 / 23
ほんの少しのお節介が相手によっては身を滅ぼす 2
しおりを挟む
「おい。王子」
「王子はこの王宮には1人ではありません。名前で呼ばれないと、分かりません」
書類から顔を上げもせず、王子が答える。
思わずイラッとした。
イラッとしたが、今回は耐えよう。いちいち反応して怒っていては、話がちっとも進まない。これも昨日1日で私が学んだことだった。
「…っ、ジ、ジーク。こっちにきてちょっと休憩しないか?リラックス効果のある、お茶を入れてみたん…」
「アリアがボクのために?ありがとう!喜んでいただくよ」
食い気味の返事とともに、疾風のように王子がソファにやってきた。
その様子にこっそりため息をつきながら、私は王子のお茶を入れ、目の前にそっとおいてやる。
「1杯目はぬるめで飲むといい。香りは薄いが、身体にしみやすい」
薬効のあるお茶は、実は飲み方がとても大切だ。
茶葉の温度管理と飲むときの温度。これでかなり効果が変わってくる。茶葉により煮出す温度はさまざまで、飲むときの温度も体調などによって、また、のぞむ効果によって違うのだ。
「2杯目は香りを楽しむためにも、身体を温めるためにも熱いものがいい」
そう言って2杯目も王子の前においた。
「?…どうした。飲まないのか?」
王子はお茶に手をつけず、ぼんやりと見つめている。
そして私はふと気づいた。
「!…変なものは入れてないが、毒味が必要か?」
王子は何度も呪いをかけられている。毒だって盛られたことがあるかもしれない。魔女が入れたものなど、怪しくて飲みたくないのかもしれない。
「余計な世話をしてしまっ…」
「アリアが入れてくれたものに毒味なんて必要ないし、余計なお世話だなんて思ってないよ」
そう言うと王子は、1杯目のお茶を一気に飲みほした。
「不思議な味のお茶だけど、悪くないよ。なんだか身体に染みていくような感じだね」
「あ、あぁ。1杯目は水分と塩分の補給を目的としたものだ。だから、体温に近いくらいのぬるいものがいい」
「そう」
また王子はボンヤリしている。
「2杯目はリラックス効果のあるものだ。いくつかハーブが入っている。熱めに入れると香りも立って色も鮮やかになる。ゆっくり飲むためにも熱めに入れるのがいい」
2杯目のカップをそっと手で包み、王子が私を見ていった。
「どうしてアリアはこんなことしてくれるの?」
それははじめて見る王子の、年相応の少年らしい、純粋な疑問だった。だが、王子の表情はどこか不安げで迷子の子どものようだ。美しい青い瞳が揺れている。
「特に深い意味はない。ただ、私が君くらいの時は、野草を摘んだり育てたり、川で魚やかえるを採ったりしていたんだ」
だから、少し君が気の毒に見えたんだーー
そこまで言うのは、ちがう気がした。けれど、王子には伝わったのだと思う。
「そう」
そう言ってひと口お茶を口にした。
「これはさわやかな味だね」
「あ、あぁ…カモミールとレモンが入っているからな」
それから王子は静かにお茶を飲んだ。いつもペラペラよけいなことをしゃべっている王子がしゃべらないと、とても静かだ。ここには控える侍従も侍女もいない。
(なんだか調子が狂うな…)
そんなことを思っていると、
「アリアは子どもの頃、野草を摘んだり、魚を採ったりしていたんだね」
クスリと笑いながら王子が言った。
「ねぇ、アリア。アリアから見て、ボクはかわいそうな子どもなのかな?」
少し自嘲気味だ。
「不自由そうで気の毒だな、とは思うが、かわいそうなのかは分からない。だが、もう少し休憩を取った方がいいと思う。人間の基準が私には分からないが、どうも君はオーバーワークな気がする」
「そっか。アリアは優しいね」
王子はクスクス笑っている。
「私が優しいかどうか、私には分からない」
何がそんなに楽しいのか、それとも嬉しいのか分からないが、とにかく王子は笑っていた。
「ボクはオーバーワークなんだね」
クスクス笑いながら、王子は聞いてくる。
「私の感覚ではな。肉体というものは、実は案外もろい。日々の身体と心のメンテナンスは、君が思うより重要だ。自分の身体の声を無視し続けていると、重大な身体のSOSさえ分からなくなるぞ」
「休憩は大事だってことだね」
「私はそう思う」
それを聞いて王子がニヤリと笑った気がした。
「じゃあ、ボクも休憩する。午前午後で1回ずつ」
「それは、いいことだと思う」
口には出さないが、私は休憩が大好きだ。その時にお茶やお菓子をのんびり楽しむのもとても好きだ。
「その時に、アリアのお茶が飲みたいな」
天使のような笑顔で王子が言う。
「まぁ、ここですることもないし、材料さえ揃えてくれるなら、茶葉なら用意できるぞ」
私が王子の飲むお茶の茶葉を作成する。
そのことに、否やはなかった。しかし、王子の要求の意味を私は正しく理解していなかったのである。
「王子はこの王宮には1人ではありません。名前で呼ばれないと、分かりません」
書類から顔を上げもせず、王子が答える。
思わずイラッとした。
イラッとしたが、今回は耐えよう。いちいち反応して怒っていては、話がちっとも進まない。これも昨日1日で私が学んだことだった。
「…っ、ジ、ジーク。こっちにきてちょっと休憩しないか?リラックス効果のある、お茶を入れてみたん…」
「アリアがボクのために?ありがとう!喜んでいただくよ」
食い気味の返事とともに、疾風のように王子がソファにやってきた。
その様子にこっそりため息をつきながら、私は王子のお茶を入れ、目の前にそっとおいてやる。
「1杯目はぬるめで飲むといい。香りは薄いが、身体にしみやすい」
薬効のあるお茶は、実は飲み方がとても大切だ。
茶葉の温度管理と飲むときの温度。これでかなり効果が変わってくる。茶葉により煮出す温度はさまざまで、飲むときの温度も体調などによって、また、のぞむ効果によって違うのだ。
「2杯目は香りを楽しむためにも、身体を温めるためにも熱いものがいい」
そう言って2杯目も王子の前においた。
「?…どうした。飲まないのか?」
王子はお茶に手をつけず、ぼんやりと見つめている。
そして私はふと気づいた。
「!…変なものは入れてないが、毒味が必要か?」
王子は何度も呪いをかけられている。毒だって盛られたことがあるかもしれない。魔女が入れたものなど、怪しくて飲みたくないのかもしれない。
「余計な世話をしてしまっ…」
「アリアが入れてくれたものに毒味なんて必要ないし、余計なお世話だなんて思ってないよ」
そう言うと王子は、1杯目のお茶を一気に飲みほした。
「不思議な味のお茶だけど、悪くないよ。なんだか身体に染みていくような感じだね」
「あ、あぁ。1杯目は水分と塩分の補給を目的としたものだ。だから、体温に近いくらいのぬるいものがいい」
「そう」
また王子はボンヤリしている。
「2杯目はリラックス効果のあるものだ。いくつかハーブが入っている。熱めに入れると香りも立って色も鮮やかになる。ゆっくり飲むためにも熱めに入れるのがいい」
2杯目のカップをそっと手で包み、王子が私を見ていった。
「どうしてアリアはこんなことしてくれるの?」
それははじめて見る王子の、年相応の少年らしい、純粋な疑問だった。だが、王子の表情はどこか不安げで迷子の子どものようだ。美しい青い瞳が揺れている。
「特に深い意味はない。ただ、私が君くらいの時は、野草を摘んだり育てたり、川で魚やかえるを採ったりしていたんだ」
だから、少し君が気の毒に見えたんだーー
そこまで言うのは、ちがう気がした。けれど、王子には伝わったのだと思う。
「そう」
そう言ってひと口お茶を口にした。
「これはさわやかな味だね」
「あ、あぁ…カモミールとレモンが入っているからな」
それから王子は静かにお茶を飲んだ。いつもペラペラよけいなことをしゃべっている王子がしゃべらないと、とても静かだ。ここには控える侍従も侍女もいない。
(なんだか調子が狂うな…)
そんなことを思っていると、
「アリアは子どもの頃、野草を摘んだり、魚を採ったりしていたんだね」
クスリと笑いながら王子が言った。
「ねぇ、アリア。アリアから見て、ボクはかわいそうな子どもなのかな?」
少し自嘲気味だ。
「不自由そうで気の毒だな、とは思うが、かわいそうなのかは分からない。だが、もう少し休憩を取った方がいいと思う。人間の基準が私には分からないが、どうも君はオーバーワークな気がする」
「そっか。アリアは優しいね」
王子はクスクス笑っている。
「私が優しいかどうか、私には分からない」
何がそんなに楽しいのか、それとも嬉しいのか分からないが、とにかく王子は笑っていた。
「ボクはオーバーワークなんだね」
クスクス笑いながら、王子は聞いてくる。
「私の感覚ではな。肉体というものは、実は案外もろい。日々の身体と心のメンテナンスは、君が思うより重要だ。自分の身体の声を無視し続けていると、重大な身体のSOSさえ分からなくなるぞ」
「休憩は大事だってことだね」
「私はそう思う」
それを聞いて王子がニヤリと笑った気がした。
「じゃあ、ボクも休憩する。午前午後で1回ずつ」
「それは、いいことだと思う」
口には出さないが、私は休憩が大好きだ。その時にお茶やお菓子をのんびり楽しむのもとても好きだ。
「その時に、アリアのお茶が飲みたいな」
天使のような笑顔で王子が言う。
「まぁ、ここですることもないし、材料さえ揃えてくれるなら、茶葉なら用意できるぞ」
私が王子の飲むお茶の茶葉を作成する。
そのことに、否やはなかった。しかし、王子の要求の意味を私は正しく理解していなかったのである。
0
あなたにおすすめの小説
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
番など、今さら不要である
池家乃あひる
恋愛
前作「番など、御免こうむる」の後日談です。
任務を終え、無事に国に戻ってきたセリカ。愛しいダーリンと再会し、屋敷でお茶をしている平和な一時。
その和やかな光景を壊したのは、他でもないセリカ自身であった。
「そういえば、私の番に会ったぞ」
※バカップルならぬバカ夫婦が、ただイチャイチャしているだけの話になります。
※前回は恋愛要素が低かったのでヒューマンドラマで設定いたしましたが、今回はイチャついているだけなので恋愛ジャンルで登録しております。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。
わんこ系婚約者の大誤算
甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。
そんなある日…
「婚約破棄して他の男と婚約!?」
そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。
その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。
小型犬から猛犬へ矯正完了!?
恋心を封印したら、なぜか幼馴染みがヤンデレになりました?
夕立悠理
恋愛
ずっと、幼馴染みのマカリのことが好きだったヴィオラ。
けれど、マカリはちっとも振り向いてくれない。
このまま勝手に好きで居続けるのも迷惑だろうと、ヴィオラは育った町をでる。
なんとか、王都での仕事も見つけ、新しい生活は順風満帆──かと思いきや。
なんと、王都だけは死んでもいかないといっていたマカリが、ヴィオラを追ってきて……。
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる