悪の魔女は王子の溺愛から逃れられない

ナカナカ田

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魔女のメイド奮闘記 3

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結局、白いヒラヒラは私の頭にのったまま、私の業務は開始となった。

「君はお茶の好みはあるか?」

王子の執務室の休憩スペースーーといっても2人掛けのソファーと机があるだけだがーーでそう王子に問いかける。

「ジーク」

「?」

そんなお茶は知らない。

「君じゃなくて、名前で呼んでよ。ジークって」

「魔女の中には名を呼ぶことで、相手を縛る者もいる。私にはできないが、君は王族だろう?気をつけた方が…」

「ジークと呼んで。アリア」

間髪入れずに王子が言う。いつもニコニコエセスマイルを振りまく王子には珍しい、断固とした声だった。

「まぁいい。じゃあ、ジーク。"様"はつけないぞ。私の主は私だけだからな。呼び方にこだわりがあるのか?」

「"王子"は記号でしょ。それは、ボクであってボクじゃない。ジークはボクを指すものでしょ?ボクは、アリアに呼ばれるときは、ボクだけを指す名前で呼んで欲しいと思ってる。あと、当然"様"なんていらないよ。アリアに、そんな他人行儀に呼んで欲しくないからね」

そんなものかと思った。

こだわりは人それぞれだ。私にもある。そういうものは尊重しようと思っている。私が嫌だと思わない限りではあるが。

「私たちは、他人でしかないと思うが……それで、お茶の好みはあるのか?スッキリとか、さっぱりとか、フワッとした好みでもいいぞ」

ワクワクしながら、私は聞いた。私は休憩が大好きだ。だから、お茶にはこだわりがある。

「それなら、スッキリしたやつで、アリアのおすすめがあるならそれで」

「わかった、準備する」

準備していた茶葉の中から条件に合いそうなものを選び、ブレンドする。ポットに茶葉を入れ、お湯を入れる。ゆっくり蒸らし、ポットからカップに注ぐとふわりといい香りがした。

そのお茶をそっと王子の前に置く。

「こういうお茶もあるんだね。強く香るのに、スッキリしてる。美味しいね」

ひと口飲んで王子が言った。

王子の感想は、実はお茶マニアの私の心に火をつけた。
"強く香るのに、スッキリしてる"

(まだまだヒヨッコのわりに、よく分かってるじゃないか)

気分を良くした私は、いそいそと茶菓子も差し出す。

「一緒に食べるなら、これがおすすめだ」

「そうなんだ?じゃあ、それはアリアが食べさせて」

「なに?」

王子に会ってから、私は「なになに」製造機になりつつある。自覚はある。だが、ツっこまずにはいられない。

「だって、ボク、今、手、ふさがってるし」

たしかに王子の手にはカップと、なぜかソーサーがある。なぜ?なぜソーサー?

「一旦、ソーサーとカップを置けば…」

「アリアが食べさせてくれたら、きっと、もっと、ずっと、美味しくなると思う」

キラキラした青い瞳で見つめてくる。そして、ソファーの王子の隣の席をバシバシ叩いている。

王族としての気品はどうした…

「ボクの休憩に付き合ってくれるって約束だよね?」

極めつけにスマイルが飛んできた。

私はだんだんと理解してきた。王子には、抵抗するだけムダなんだと。戦うほうが、疲れるのだと。

私は諦めて王子の隣に座った。

そして、茶菓子を1つつまむ。レモンがふんだんに使われているひと口大のクッキーは、サクサクとしてとても美味しい。

「ほら」

そう言って王子の口元まで持っていく。

「ん」

パクりと王子がそれを食べた。その時に唇と舌が指に当たった。

ジッと王子が青い瞳で見つめてくる。やけに色気のある視線である。

「ほ、ほら。お茶を飲むとさらに旨みが深まるぞ」

そう言って、私は視線をそらした。なんだかどうもソワソワする。

「ん」

そこは素直に従う王子。お上品にお茶を飲んでいる。

そんなことを2、3度繰り返すうちに、なんだか生意気な、けれど可愛らしい猫を餌づけしているような気持ちになってきた。王子のフワフワとした金髪は猫の毛のようだ。

王子が頭を私の肩にのせてきても気にならなかった。

「アリア。もう1つちょうだい」

耳元で王子の声がする。私は自分のお茶を飲みながら、空いた方の手で王子の口元に茶菓子を運んでやる。

そんな時、コンコンとノックがして、見知らぬ男が入ってきた。


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