Ancient Artifact(エンシェント アーティファクト)

黒之輪

文字の大きさ
108 / 154
第五章 勇敢なる者

107.力を継ぐ者

しおりを挟む
 ライン、アルカ、ディクストス夫妻はオアーゼへ転移してやって来た。固定転移紋から出てきて、向かうはオアーゼ国王の待つ宮殿。

「国王に謁見しよう。久しぶりの訪問だしな」
「待たされることなければいいけどよ」
「過去に、一週間待たされたことがあったな」
「はは、そんな話してたな。クヴェル王はお茶目な人だって聞いてるぜ。旅人に化けて国の内外を視察してるとか、占い師になって人々の悩みを解決してるとか。そんな話はよく聞く」

 話しながら宮殿へと辿り着く。外にいる兵士二人に国王謁見の旨を伝える。すると、ラインに武器を向けてきた。

「貴様、なんの真似だ!」
「大災厄の日、貴様と同じ顔をしたダーカーを襲撃させたな!」

 兵士が言う大災厄。それは、リリスとの戦いに起きた、闇に閉ざされた地上界の戦いをいう。ラインと同じ顔をした量産型・ラインが街を襲い、恐怖に陥れたことが深く記憶に刻まれているのだろう。
 ラインは両手を上げて武器を持っていないことを示す。それでも兵士は鎮まらない。むしろ一人、また一人と増援が来てしまった。

「おとなしく縄につけ!」

 緊張の糸が張りつめたそのとき。

「お前達、そこまでだ」

 陽気で明るいながら、低く真剣な声が渡る。兵士が声の主へまさかと振り返ると、クヴェル王が宮殿の入り口に立っていた。

「王、しかしこの者は!」
「俺も大災厄のことを忘れた訳じゃない。それでも戦っていたのは彼らさ。見ていなくても分かる。ラインが戦っていたんだ」

 王の真剣な表情と声に、兵士は静まり返る。階段を下りてラインの前にやって来ると、青い眼差しで睨み付けた。

「大災厄、分かるよな。ダーカーと呼ばれる魔物が世界中を脅かした、災害のことだ」
「分かっています」
「お前と同じ顔をしたダーカーが何体もこの国を襲撃した。民はお前の姿を恐れている。でも俺はお前がアレと同じだとは思っていない。お前は正しい道を歩んで、大災厄に立ち向かっていった。そうだな?」
「……はい」

 クヴェルはラインの揺るがない深海色の瞳を見た。強い意思を湛えた眼差しは鋭く真実をうつしている。ふっ、とクヴェルが笑って、次第に大笑いしてライン達と兵を驚かせた。

「いやいや、こういう真剣なのは苦手でな。疑ってすまない。手を下ろしてくれ。お前は正真正銘、本物のラインだ。初めて出会った頃よりだいぶ成長して再来したようだな」
「どうも。国王もあの頃よりだいぶ成長しましたよ」

 すると、ラインの背後に隠れていたアルカが顔を覗かせた。

「……こわくない?」
「お、その子は新入りか? 初めまして、俺はオアーゼ国王のクヴェルだ。よろしく」

 にかっと笑うと、アルカは恥ずかしくてすぐ隠れてしまった。

「はは、恥ずかしがりやか。 国王は怖くないぞ! ……さて、この国に、俺になんの用事があってきた。できることなら手伝わせてくれ」

 ラインは再び地下の蔵書を拝見したいと伝える。クヴェルは快く承諾してくれた。兵士に戻るよう指示を出し、国王自らライン達を案内する。

「ふぃー、とりあえず、ラインの牢屋行きは免れたようだな。クヴェル王、寛大な措置痛み入ります」
「大災厄のことは国の皆が覚えている。ラインの顔をした金色の災厄が降り注いだのだ。俺の指示と作戦が悪くて、何人もの兵と人民の命を失った。この国が、一番被害が酷かったのだ」

 歩きながら話す。通りすぎる神官や兵がラインを見てざわざわしている。アルカは、寄せられる猜疑心こもった視線が怖くて、ラインと手を繋いで歩く。フェイラストとケティスも嫌な雰囲気に眉をひそめた。

「防護障壁を張るのが遅くて、不浄の黒い雨をしばらく受け続け、人民や獣はダーカーとなった。浄化を司る術式を使用しない限り倒せないと知った頃には、既に煙が上がっていた」
「国王様は、それをどうやって鎮めたのですか?」
「分からない。気がついたらダーカーも雨も消えていた。その間に防護障壁が完成して、これでひと安心と思った矢先、金色の災厄が転移して侵入してきたんだ。そのとき、全身黒い服の女性が戦っていた目撃情報を多数聞いている。いったい彼女は何者だったのか」

 全身黒い服の女性は恐らく黒いののことだろう。ここに来て戦っていたのか。ラインは裏で動いていた彼女に感謝した。

 地下の蔵書へ入り、火の術式込められたランプをつける。地下が一気に明るくなった。

「大災厄のあと、俺もここを確認に来たんだ。何事もなくて本当によかった」
「大災厄の中でもここは無事で助かったぜ。でも、本が弱ってるかもしれねぇから、扱いは慎重にやらねぇと」
「そうね。手分けして探しましょう」
「何を調べるんだ。俺も手伝おう」
「国王自ら!? いやいやオレ達でやりますって!」
「ラインを疑ってしまったのを悪いと思ってるんだ。フェイラスト、いいだろう?」
「いや、まぁ、人数は多い方がいいってのは事実ですけどぉ」
「素直に折れろ。教えてくれ」
魔劫界ディスアペイアにあるアポリオンという家を調べに来ました」
「ラインお前はためらいねぇなぁ……」
「ふふ、変に頑固なあなたよりはいいわよ」
「ケティまでそんなこと言うのかよ」

 ラインの背後から、アルカが顔を出す。クヴェルを見上げて恥ずかしそうに、

「あの、あの……、アポリオンは、ボクのおうちのことです」

 自分の家ということを告げた。

「なるほど。自分の家のことを調べに来たのか。なら、見つけてやらないとな」

 クヴェルに気合いが入る。頭文字順に並んでいる本棚は、ある程度頭には入れてある。アポリオンの記事があったかまでは覚えていないので、そこに辿り着くにはしらみ潰しに探さなければ。


 アポリオンに関する本を探して一時間が過ぎた。
 フェイラストが魔眼を使用して怪しいオーラが見えた本を中心に読み漁った。天使言語で書かれているものは、ラインとケティスが翻訳する。アルカは難しい本の内容にくらくらした。クヴェルは奥の蔵書を見回っていて姿が見えない。

「アポリオン、ないのかな」

 諦め気味にアルカが呟く。本を片付けて、新しく隣の本を手に取る。表紙には「悪魔の名家」と記されていた。

「あくまの、めいか……」

 とてとてと歩いて、積まれた本に隠れたラインのところへ。テーブルに座って資料を読んでいた。アルカは両手で差し出す。

「これ、読んで」
「……悪魔の名家?」
「うん。あるかかな、ないかかな」

 手渡された「悪魔の名家」を読む。目次には創星歴から存在する古い家名がずらりと並んでいた。その中にアポリオンの文字を見つける。

「アルカ、やったな。アポリオンの記述があるぞ」
「あるか!?」
「そう、あるかだな」

 目次に記されたページをめくる。するとそこには、写実的な絵と共に書かれたアポリオンの記述が残されていた。

「……アンディブ戦争で造られた、魔王ダインスレイブに次ぐ悪魔の名。アポリオンは自分の血を絶やさず、永遠に続くことを望んだ。しかし、世界三つ分かれで魔劫界ディスアペイアに落とされた」

 ラインは読み進めていく。写実的な絵は、アポリオンを中心に新たな子が生まれていくことを示している。

「アポリオンの血を残すためならば、近しき者の交配も是とする。血の濃さが強きアポリオンの後継を生み出す。アポリオンの後継者は軍団となり、再び地上に舞い戻るだろう」

 神のように光を放つアポリオンと、地上を支配するアポリオンの子らの絵で締められていた。

「ライン、物騒な内容を読んでるじゃねぇか」
「確かに物騒だな。アポリオンは、現代まで続く反逆の悪魔の家系ということか」

 フェイラストが隣に座る。彼が読んだ本は目的の内容ではなかった。ケティスもフェイラストの隣に座った。疲れたようで、ようやく一息吐いた。

「ケティもだめだったとよ」
「ごめんなさいね。力になれなかったわ」

 アルカがケティスに近づく。彼女は慈しみを以てアルカを撫でた。嬉しくてアルカが笑う。少年の笑顔で疲れが吹き飛んだ。

「おーい、これはどうだい?」

 奥からクヴェルが戻ってきた。一冊の本を持って。黒い本には「アポリオン」と大々的に書いてある。

「これは「魔王ダインスレイブ」って名前の厚い本から出てきたんだ。もしかしたら、当たりかもしれない」

 席についてページを開こうとすると、がっちりと固く閉ざされて開かない。クヴェルが力を入れてもびくともしない。

「なんたこの本、開かないぞ!」
「王、もしかしたら、アルカなら開くかもしれない」
「アルカくん、……そうか、少年の家はアポリオン。悪魔の生まれ。それなら、合点がいく」

 クヴェルがアルカを呼ぶ。アルカを着席させて、本を開くように言った。

「あ!」

 アポリオンの血族を認識して本が解錠する。強い術式で閉じられていたようだ。アルカの固有魔力、桃色の魔力の色を放ち、ゆっくりと光が静まった。

「……王さま、あける?」
「君が開けるといい。アポリオンの名前が綴られた本なんだ。君に開く権利がある」

 アルカの隣に着席して覗きこむ。ライン、フェイラスト、ケティスが見守った。

「ひらくよ」

 アルカが表紙をめくる。何もない。次のページ。まだ何もない。三ページ目をめくる。生きているかのように蠢く文字達がページを埋め尽くしていた。

「なんだこの本。生きてるぞ」
「ボクのおうちに、こういう本あった。だから、わかる」

 アルカは文字を指先で叩く。とんとん、と軽く叩くと、ばらばらの文字が元の場所に整列した。

「文字さん、ちょっとだけ、うごかないでね」

 本を読む。アルカは指でなぞりながら文章を解読する。

「……アポリオン。悪魔の祖リリスから、ダインスレイブと共に造られた悪魔。滅ぼす力を以て、世界を滅亡に導くもの」

 いつもたどたどしいアルカの言葉ではない。本がアルカに読ませているのだ。難しい表現や言葉もするすると出てきた。

「悪魔が敗れ、世界三つ分かれにより落陽した我は、この本に託す。次代のアポリオン、血の濃き者が方舟となりて悪魔を救う」
「方舟……」

 ラインはアルカを見つめる。少年の名前の意味は、確か。

方舟アルカ
「そして、これを発見したアポリオンの者に託そう。我が力を封してある。最後のページから、反対に六枚めくれ」

 アルカの読み上げが終わると、再び文字がばらばらになって動き始めた。言われた通り、最後のページから反対に六枚めくる。ばらばらの文字が動き出した。アルカに指先でとんとん、と叩かれると、文字が整列して文章を作り出す。

「在るべき者へ、力を」

 瞬間、ページがパラパラと勝手にめくれていく。全ての文字が空中に浮かび、初代アポリオンの残した力に変化して、黒い球体となった。
 皆に緊張が走る。アルカは球体を食い入るように見ていた。

「アルカくん、それは危険な気がする。触らない方がいい」

 クヴェルがアルカの手を掴む。球体に触れないように押さえた。

「初代アポリオンの力ってことだろ。現世によみがえったら、とんでもねぇことになるんじゃねぇか?」
「わたしも不安だわ。強い闇の力を感じるもの。アルカくんがアルカくんでいられなくなってしまいそうで、怖いわ」

 フェイラストとケティスも、恐ろしいものを見ているように怪訝な表情だ。ラインが席を立つ。アルカのそばに寄り添った。

「……決めるのはアルカだ。選択を与えられているのは、アルカだけだ」
「ボクが、受けとるの?」
「初代アポリオンの後継者は、アポリオンの血を引いたお前しかいない。だから、お前が決めろ。アルカ、お前がどうなろうと俺はお前を受け止めるつもりだ」

 ラインの覚悟の決まった眼差しを受けて、アルカもこくりとうなずく。

「いいのか、ライン。もしこの子が暴走して、地上に反旗を翻すような真似をしてみろ。魔劫界ディスアペイアから悪魔が溢れて、地上界のみならず天上界ファンテイジアまでこの子を敵とみなすぞ」
「クヴェル王、それでも俺はアルカの味方でいたい。アルカを一人にはさせない」
「世界を敵に回しても、か。その瞳を見ると、お前の覚悟は変わりそうにないな」

 クヴェルは深くため息を吐いた。掴んでいたアルカの手を離す。

「いいの?」
「君の保護者がそう言うんだ。アルカくん、君の好きにしなさい」
「うん」

 立ち上がって黒い球体に手を伸ばす。初代アポリオンの力を、アルカが袖から手を出して両手で包み込む。触れた瞬間、ゴムボールのようにぐにゃりと歪む。

 与えるは我が滅ぼす力。
 眠りし力を呼び覚まし。
 この世を楽園に変えるのだ。

 アルカの固有魔力に接続した球体は、徐々に形を崩していき、黒い光の粒子となってアルカに集束していく。アルカは体の奥からわき上がる力を感じていた。人に化ける術式が力によって剥がれる。尻尾とツノが現れ、耳が尖った。

「ほわわ……」

 強力な魔力が全身を駆け巡る。細々としていた頭の双葉は大きく成長して見事な双葉となる。尻尾の先の方と、左腕に赤いリングが浮遊するようになった。両耳には赤いピアスが装着する。尻尾の先端、矢印型の中に埋め込まれた宝石が美しく光る。魔力純度が増幅した。

「ほわぁ。なんだか、あったかくて、ぽかぽかする」

 意外な反応に、アルカ以外の者が驚く。アルカが受け止めきれずに、力が暴走するのを覚悟していたラインも目を見開いていた。

「アルカ、なんともないか?」
「ないかさんだよ」

 血色も良くなって、目のクマも取れている。強力な魔力を吸収したことによって、身体的な変化が訪れたようだ。

「なんだかね、元気になった気がするの。おめめもはっきり見えるようになったし、みんなの声もきちんと聞きとれるよ。おてても震えないの」

 アルカが袖から手を出してみんなに見せる。確かに震えていない。臆病な少年はいつも震えていた。だが、今のアルカは生まれ変わったように元気に満ちている。

「まさか、虐待や暴力のせいで衰えていた機能が復活したのか?」
「たくさん攻撃されて、おめめは悪くなっちゃったの。おみみも聞こえにくくなったの。それがね、なくなったの。あと、とっても強くなった気がする」

 そう言うと、アルカは袖で隠れた両手を頭上に伸ばす。

「出てきて!」

 亜空間が口を開けると、そこから謎のパネルが現れた。四角パネルは、ふちを緑、面を桃色に彩られている。片面には牙が生え揃う三日月の口がついていた。ふわふわと浮遊して待機している。

「これは、なんだ?」

 未知なる存在にクヴェルが身構える。パネルは主のアルカの目の前に下りてきた。ラインが手を伸ばそうとすると、三日月の口が開いて噛みつこうとしてきた。

「だめ!」

 アルカが叱ると、パネルは身を引いた。主の言うことは聞くようだ。

「パネルさん!」

 アルカの声に四角パネルはくるくる回って、ケタケタと笑い声を上げた。アルカもつられて笑う。

「むふふ、パネルさん、よろしくね!」
「ケタケタケタ!」

 三日月の口が桃色の面に沈んで消える。ただの桃色のパネルに変わった。アルカが袖で隠れた手でパネルの緑のふちを掴む。手元に引き寄せた。優しく抱き締める。

「今のは、初代アポリオンの力か?」

 ラインが再びパネルに触れる。今度は噛みつかれることはないようだ。

「にしては奇怪なパネルが生まれたみてぇだけど、なんのために使うんだ?」
「口がついていたから、何かを食べるのかしら」

 フェイラスト、ケティスもアルカに近寄ってパネルを観察する。緑のふちに桃色の面。四つの頂点に赤い球体がついている。

「とりあえず、これでアポリオンの本は全てアルカの力に変わった。本の方は白紙になったわけだな」

 ラインが「アポリオン」を開く。魔力感知しても何も感じられない。ただの紙切れをまとめた本に変わっていた。

「アルカ、それを片付けることはできるか?」
「うん、できるよ」

 アルカがパネルを放すと、亜空間に消えていった。収納されたようだ。

「アルカくんは、反逆の悪魔の末裔か。王として、このまま見過ごすわけにはいかないなぁ」

 クヴェルの目つきが変わる。良き隣人から一国の王として、アルカを睨む。雰囲気が変わったことに気づいたアルカがラインの背後に隠れた。

「ライン、この子をオアーゼで保護させてくれ。砂漠の国は、かつての戦争で悪魔の棲みついた土地。少年にもゆかりのある場所だ。初代アポリオンの血を引く悪魔の末裔が、初代の力を取り戻したとなれば、国は黙って帰すわけにはいかない」

 剣を抜いてもおかしくないほどの緊張が走る。フェイラスト、ケティスはアルカを守るようにラインの隣に並んだ。背後のアルカが心配そうに見つめている。

「それはできない相談だ」
「ライン!」
「あんたの言い分も理解している。だが、アルカは俺のところに来たんだ。傷ついた状態で。それに、そばに天使がいた方が都合がいいだろう?」
「それは、そうだが」
「国として、国王御自ら手の内に収めておきたいのは分かっている。しかし、だめだ。アルカはそれを望まない」

 クヴェルは見た。ラインの並々ならぬ覚悟の眼差しを。彼のコートを掴んで怯えているアルカを。

「クヴェル王、その辺にしてやってくれ。こうなっちまったら、テコでも折れねぇぞ」
「そうね。わたしも彼に賛成よ。アルカくんは、見知らぬ土地に投げ出されて怖かったはずだわ。怖がりのこの子を、外に出られるように、人間の姿になれる術式を創ったのよ。ラインさんの気持ち、少しでも汲み取ってほしいわ」
「ディクストス夫妻も、ラインとアルカくんを離すことに反対と」

 夫妻はうなずく。ラインは背後のアルカを見る。怯えた眼差しでクヴェルを見ていた。

「……アルカくん、君は、世界に反逆するなんて考えはないかい?」

 びくっ、とアルカは肩を跳ねさせて隠れる。少しだけ顔を覗かせて、

「し、しません! ボク、そんなことしないもん!」
 不安げな表情で強く訴えた。

 クヴェルはひとつ息を吐く。すると、かははと笑いだした。

「ははは、分かったよ。君のその様子じゃあ、反逆なんて考えなさそうだ」

 クヴェルが膝をついてアルカと目線を合わせる。アルカはもぞもぞ動いてラインの前に出た。

「でも、これだけは覚えておくんだ。君は悪魔だ。世間一般では、悪魔は地上にいないことになっている。魔劫界ディスアペイアという世界に皆が移住したからだ」
「うん、知ってる」
「君がもし、ここで手に入れた力を使って、世界を滅亡に導く存在になったら。ラインの手に負えない存在になったら。君は確実に浄化される。最悪の場合、君は殺される。それを肝に命じておくんだよ」
「……うん」

 クヴェルが立ち上がって、ラインを見据えた。

「小さな悪魔の子を頼む。お前のそばにいるなら、きっと大丈夫だ」
「あぁ。アルカを殺させやしない。反逆の悪魔にさせない」
「頼む」

 クヴェルが深く一礼した。国王が頭を下げるなんて、とフェイラストが動揺したが、クヴェルは深々と頭を下げた。

「……さぁ、戻ろう。あぁ、アルカくん、君の家のことが書かれた本は、君が持っていたほうがいい。またラインに読んでもらいな」
「はい!」

 本を元の場所に片付けて。手元に残すのは「アポリオン」と「悪魔の名家」だけにした。


 宮殿に戻ってきたライン達は、国王と別れて固定転移紋に向けて歩き出す。

「アルカ、今度時間ができたら力の制御の仕方を教えてやる」
「ちからのせーぎょ?」
「今日もらった力、ある程度慣れておいた方がいい。もしものときに使えるようにな」
「はーい!」
「オレ達は一度ルレインシティに戻るぜ。先天性失翼症について、調べてみたいからよ」
「もし治せる症例なら、アルカくんの治療を考えるわ。長いこと先の話かもしれないけれど、研究しがいがあるわよ」

 ケティスが微笑む。アルカもつられて微笑んだ。
 固定転移紋に到着して、ディクストス夫妻は先に転移をして消えた。

「帰ったら手を洗って、軽くおやつにしよう」
「おやつ! やったー!」
 固定転移紋からフォートレスシティへ飛んだ。

「初代アポリオンの力、愚息が手に入れるとは……」

 路地の裏から眺めるものがいた。
 仮面の男は、闇に紛れて姿を消した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...