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第三章
衣装を作る 1
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王太子の成年パーティーまであと2カ月弱。
「ルークの衣装を作らないといけないわね。もちろん、お揃いでわたくしのドレスも作るわ。いつもの仕立て屋を呼んでちょうだい」
そうアメリアに指示を出し『ルークにもわたしにも似合う色って何色かしら。わたしは濃い色の方が似合うけど、ルークは淡い色の方が似合うわよね……』などと悩んでいると、
「エリザベート様! 大変です!」
アメリアが血相を変えて部屋に飛び込んできた。
「仕立て屋が、今回は作れないと断ってきました!」
「なんですって? 一体どういう事?」
「そ、それが、理由を尋ねても、受けられないと繰り返すばかりで……」
「そんな……」
その仕立て屋はリュートゲールブティックという、王都で一、二を争う人気の店で、流行の最先端のドレスを作る店だ。人気店なので客を選び、お金を払えば誰でも作ってもらえるというわけではないのだが、
「わたくしのドレスは、もう何年もあそこでだけ作っているのに……」
「どうしましょう、お嬢様」
「……わたくしが直接話を聞きに行くわ。馬車の用意と、ルークも連れて行くから呼んで来てちょうだい」
「かしこまりました」
(……何か、あったのかしら。職人が辞めたとか、布やレースが手に入らないとか? とにかく行って話を聞いてみなければ)
そうして店に訪ねたエリザベートに、リュートゲールブティックの女店主は『申し訳ないのですが、新しいご注文を受ける余裕がございませんで』と、全く心がこもっていない様子で答えた。
「わたくしのドレスは、いつもここで作ってもらっているわ。急に受ける余裕が無いだなんてどういう事なの?」
「そう言われましても……専属契約をしていたわけではございませんし……」
店主の言う事は間違ってはいない。しかし、
(これまでの付き合いってものがあるでしょう? レオンハルトの衣装に合せたものを作ってもらうために、毎回特別高いお金を払っていて……ああ、そう言う事……)
この店の店主は、王室の衣装部責任者の娘だ。そこで、公式なパーティーに参加する際は、婚約者としてできるだけレオンハルトの衣装と揃いになるようなものを用意するために、情報料のようなものを渡してドレスを作ってもらっていた。しかも『今回は、何種類か候補があるらしくて』なとど言われ、言われるがままに何着も買ったりする事も多かった。
(……それが、突然こういう扱いをしてくるって事は、わたしには利用価値がないと思ったのでしょうね。それならもう……)
「……わかったわ。長年の付き合いから、依頼は受けてもらえるものだと勝手に思い込んでいたわたくしのミスね。忙しい中、お邪魔したわ」
ここで騒いでも評判が悪くなるだけなので、エリザベートはそう言って店を出ようとしたが、
「お待ちください、お嬢様」
店主が引き留めた。
「本当に難しいのですが、これまでのお付き合いもある事ですし、わざわざ店までお越しいただいたのですから、今回は、特別に!」
一度言葉を切り、店主はもったいぶったように言った。
「本当に特別に、ご依頼を受けたいと思います。そのかわり、いつもほどは手間をかけられないかもしれませんし、料金の方も若干特別料金を」
「ええ、それは勿論。無理をお願いするんですもの、割増料金は当然でしょう。いくらでも払うわ。今回は時間が無いようだから、わたくしのドレスではなく、彼の服だけでいいわ。これまでにわたくしが作ってもらったドレスとお揃いになるようにしたいから、同じ布があるもので」
「それは困ります、お嬢様」
「えっ?」
言葉を遮られ、エリザベートは聞き返した。
「困る、とは?」
「お嬢様のドレスならお受けできますが、そちらの獣人が着る物は作れません」
「……男性の物は、ドレスよりも手間がかかるのかしら」
「そういう事ではなく、うちで作った衣装を獣人に着られるなんて、そんなのは困るという事です」
店主は蔑むような表情で、ルークを見た。
「うちの商品は、高貴なお方に着ていただく為に作っているんです。それを、獣人なんかに着られてはイメージが悪くなります」
「なるほど……それなら仕方がないわね」
「ご理解いただきまして、ありがとうございます。では、お嬢様のドレスに使う生地ですが」
「いえ、わたくしのドレスを作る必要無いわ」
「「「えっ?」」」
店主だけではなく、アメリアとルークも驚きの声を上げる。
「ええと……ドレスは、いらないと?」
「ええ。忙しいのでしょう? 作っていただかなくて結構」
エリザベートはそうきっぱりと言ったが、
「お、お嬢様、待って下さい」
アメリアが小声で言う。
「せっかくですから、お嬢様のドレスだけでも作って頂いた方がいいのでは……」
「必要ないわ。こちらとの取引はおしまいよ」
そして、驚いた顔をしている店主に向かって微笑んだ。
「今後一切、リュートゲールブティックには依頼しないから、安心して頂戴。さあ、行きましょう。お邪魔したわね」
そう言って、エリザベートは店を後にした。
「ルークの衣装を作らないといけないわね。もちろん、お揃いでわたくしのドレスも作るわ。いつもの仕立て屋を呼んでちょうだい」
そうアメリアに指示を出し『ルークにもわたしにも似合う色って何色かしら。わたしは濃い色の方が似合うけど、ルークは淡い色の方が似合うわよね……』などと悩んでいると、
「エリザベート様! 大変です!」
アメリアが血相を変えて部屋に飛び込んできた。
「仕立て屋が、今回は作れないと断ってきました!」
「なんですって? 一体どういう事?」
「そ、それが、理由を尋ねても、受けられないと繰り返すばかりで……」
「そんな……」
その仕立て屋はリュートゲールブティックという、王都で一、二を争う人気の店で、流行の最先端のドレスを作る店だ。人気店なので客を選び、お金を払えば誰でも作ってもらえるというわけではないのだが、
「わたくしのドレスは、もう何年もあそこでだけ作っているのに……」
「どうしましょう、お嬢様」
「……わたくしが直接話を聞きに行くわ。馬車の用意と、ルークも連れて行くから呼んで来てちょうだい」
「かしこまりました」
(……何か、あったのかしら。職人が辞めたとか、布やレースが手に入らないとか? とにかく行って話を聞いてみなければ)
そうして店に訪ねたエリザベートに、リュートゲールブティックの女店主は『申し訳ないのですが、新しいご注文を受ける余裕がございませんで』と、全く心がこもっていない様子で答えた。
「わたくしのドレスは、いつもここで作ってもらっているわ。急に受ける余裕が無いだなんてどういう事なの?」
「そう言われましても……専属契約をしていたわけではございませんし……」
店主の言う事は間違ってはいない。しかし、
(これまでの付き合いってものがあるでしょう? レオンハルトの衣装に合せたものを作ってもらうために、毎回特別高いお金を払っていて……ああ、そう言う事……)
この店の店主は、王室の衣装部責任者の娘だ。そこで、公式なパーティーに参加する際は、婚約者としてできるだけレオンハルトの衣装と揃いになるようなものを用意するために、情報料のようなものを渡してドレスを作ってもらっていた。しかも『今回は、何種類か候補があるらしくて』なとど言われ、言われるがままに何着も買ったりする事も多かった。
(……それが、突然こういう扱いをしてくるって事は、わたしには利用価値がないと思ったのでしょうね。それならもう……)
「……わかったわ。長年の付き合いから、依頼は受けてもらえるものだと勝手に思い込んでいたわたくしのミスね。忙しい中、お邪魔したわ」
ここで騒いでも評判が悪くなるだけなので、エリザベートはそう言って店を出ようとしたが、
「お待ちください、お嬢様」
店主が引き留めた。
「本当に難しいのですが、これまでのお付き合いもある事ですし、わざわざ店までお越しいただいたのですから、今回は、特別に!」
一度言葉を切り、店主はもったいぶったように言った。
「本当に特別に、ご依頼を受けたいと思います。そのかわり、いつもほどは手間をかけられないかもしれませんし、料金の方も若干特別料金を」
「ええ、それは勿論。無理をお願いするんですもの、割増料金は当然でしょう。いくらでも払うわ。今回は時間が無いようだから、わたくしのドレスではなく、彼の服だけでいいわ。これまでにわたくしが作ってもらったドレスとお揃いになるようにしたいから、同じ布があるもので」
「それは困ります、お嬢様」
「えっ?」
言葉を遮られ、エリザベートは聞き返した。
「困る、とは?」
「お嬢様のドレスならお受けできますが、そちらの獣人が着る物は作れません」
「……男性の物は、ドレスよりも手間がかかるのかしら」
「そういう事ではなく、うちで作った衣装を獣人に着られるなんて、そんなのは困るという事です」
店主は蔑むような表情で、ルークを見た。
「うちの商品は、高貴なお方に着ていただく為に作っているんです。それを、獣人なんかに着られてはイメージが悪くなります」
「なるほど……それなら仕方がないわね」
「ご理解いただきまして、ありがとうございます。では、お嬢様のドレスに使う生地ですが」
「いえ、わたくしのドレスを作る必要無いわ」
「「「えっ?」」」
店主だけではなく、アメリアとルークも驚きの声を上げる。
「ええと……ドレスは、いらないと?」
「ええ。忙しいのでしょう? 作っていただかなくて結構」
エリザベートはそうきっぱりと言ったが、
「お、お嬢様、待って下さい」
アメリアが小声で言う。
「せっかくですから、お嬢様のドレスだけでも作って頂いた方がいいのでは……」
「必要ないわ。こちらとの取引はおしまいよ」
そして、驚いた顔をしている店主に向かって微笑んだ。
「今後一切、リュートゲールブティックには依頼しないから、安心して頂戴。さあ、行きましょう。お邪魔したわね」
そう言って、エリザベートは店を後にした。
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