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第三章

良かったか悪かったかで言うと

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 王族の集いから解放され、再びエスコートするというエドワードの申し出を丁重に断り、エリザベートはようやく仲間の元に戻った。

「ずいぶん長く話していたけれど、大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。ルークの事、ありがとう」
「別に構わなくってよ。ダンスもなかなか上手だったし。まあ、リアムには及ばないけれどもね」

 ヴィクトリアの言葉に、得意そうに胸を張るリアム。

「わたしは、お兄様よりもルークさんの方が踊りやすかったです」

 クリスティーナの無邪気な言葉に、ザカリーが呪いでもかけているような目でルークを見ているのが恐い。

「お兄様は背が高いですし、とても上手だから遅れないようについて行くのが精いっぱいで……わたし、もっと成長して上手に踊れるように頑張ります!」

 両手を握り締め、意気込むクリスティーナ。

(あらまあ! ルチアよりもクリスの方がずーっとヒロインぽいわ。こういう事を計算無しで言っちゃうところが可愛くて堪らないよ。オニキス先生の反応は……)

「……別に、スティーナの背がどうであっても構わない。それに私は、あまりダンスは好まない」

 気のない返事をするザカリーだが顔が少し赤くなっていて、ヴィクトリアとエリザベートが視線を合わせてこっそりと笑っていると、

「あの……エリザベート様、お疲れではありませんか?」
 
 心配そうに尋ねるルーク。

「そうね、精神的にクタクタだわ。今日はもう帰ろうかしら」
「では、すぐに馬車の手配を致します」
「ええ、お願い……あ、いえ、ちょっと待って」

 ルークを引き止め、エリザベートは微笑みかけた。

「あんなに練習したのに、ルークと一曲しか踊っていないじゃない。もう一曲踊ってからにしましょう。ルークが疲れていなければ、だけれど」
「大丈夫です! 全然疲れていません!」

 嬉しそうに顔を綻ばせて差し出したルークの手のひらにそっと手を乗せると、エリザベートは心が軽くなるのを感じた。
 




 パーティーをそこそこ楽しみ、馬車に乗り込むと、エリザベートは『家まで眠るわ』と早々に目を閉じた。

(疲れたんだな……でも僕と、2回踊ってくれた……眠ってるから、見てていいよね)

 嬉しく思いながら、ルークはじっとエリザベートを見つめた。

(本当に、綺麗だ……。綺麗で優しくて頭が良くて凜としている……どうして王太子様は、エリザベート様に夢中にならなかったんだろう。まあ、僕にとってはその方が良かったんだけど……)

 エリザベートに出会った時の事を思い出す。
 あまりにも綺麗で、女神のようだと思った。買ってもらえなくてもいいから近くで姿を見たい、と思ったほどだった。

(今こうしてお仕えできて、近くにいられて、すごく幸せだけど……)

 わかっている事ではあったが、自分は何も出来ない、とつくづく感じる夜だった。
 
(エリザベート様が王太子様に侮辱されて手首を掴まれたのに、助ける事ができなかった。ディラン様にエリザベート様を奪われてしまった。エリザベート様は僕を一人にする事をすごく心配してくれて、リアム様やヴィクトリア様、クリスティーナ様、オニキス先生がフォローしてくれた。僕は、エリザベート様を守るどころか、みんなに守ってもらってばかりだった)

 一時期、物凄い勢いで伸びた身長は、最近は少しずつしか伸びなくなってしまい、まだまだ小さい。
 本当はエリザベートの髪と瞳の色に合わせた赤い衣装が良かったのに、ルークに合わせて青になってしまった。
 そして、護衛には勿体なすぎる最高級の衣裳と、大きなスピネルのブローチを作ってもらった。

(これで、愛人とかだったらまだわかるけど、そうじゃない)

 ガタン、と馬車が揺れ、その反動でエリザベートが頭をぶつけた。

「う~ん……」

 ルークは小さく呻いたエリザベートの横に移動して、そっと寄り添った。

「エリザベート様、よかったら私の肩に……」
「ん? ん~、ありがとう」

 身体を少し傾け、ルークに寄り掛かったエリザベートは、半分夢の中の状態で、囁くように言った。

「……今日は、楽しかったわね……」
「え、でも、王太子様が色々言ってきたりして……」
「ああ……あれはねぇ、気にせずに聞き流しておけばいいのよ。それよりも、ルークとお揃いの衣裳を着て、ダンスをして……ヴィヴィやクリスと一緒で……楽しかったわ。今までのパーティーは、全然、楽しくなかったから……こんなパーティーなら、また参加したいわ」
「……私も、楽しかったです。すごく緊張したけど、エリザベート様と踊る事ができて」
「そう……良かった……また、一緒に行きましょうね……今度は、赤いドレス、作って、もらって……」
「はい。……エリザベート様」
「ん? なぁに?」
「…………」

 大好きです、お慕いしています、愛しています……そんな言葉が浮かんだが、どれも、自分が言ってはいけない言葉だった。だから、

「……一生、お仕え致します」
「……ふふ……いい子ね……」

 頬をそっと撫でられ、嬉しいのに泣きたくなりながら、ルークはエリザベートの隣で俯いた。


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