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マルタン王国
拒絶
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エリスのステップは、それまでの慣れ親しんだものとは違っていた。
動作が大きく、スピードが速い。
ついていくのが、そして転ばないようにするのが精一杯だ。
「や、やめ……もう……」
ようやく曲が終わり、体が離れると、アレクシは息を切らし、その場に座り込みたくなるのを必死に堪えてエリスを見た。
「……アレクシ様、いつまで子供のような事を言っているのです」
「エ、エリス……」
周りには聞こえないよう気を遣いつつも、エリスはハッキリとした口調で言った。
「長年貴方と踊ってきましたし、長年ガルシア帝国の為になる事を考えてきましたが、今のわたくしはもう、その頃のエリスではありません。マルタン国王、フェリックス・マルタンの婚約者です。数日後には正式に結婚し、王妃となるのです。わたくしが今愛しているのはフェリックス陛下、ただお一人。そして、その愛するフェリックス陛下の為に、マルタン王国をどこにも負けない強く豊かな国にする事が、わたくしの望みです」
「そんな……じゃあ、僕はどうなってもいいって」
「構いません。もう、貴方は関係のない人です」
「そんな……」
アレクシは、酷く動揺した。
自分が謝りさえすれば、エリスは感激してこれまでの事を許してくれるだろうと思っていた。
少なくとも、ガルシア帝国の為と言えば、見捨てる事はないだろうと。
「やっぱり君は怒って……」
「シャルロットの事は本当に、仕方のない事と思っています」
「じゃあ、どうしてこんな事を言うんだ? どうして僕を見捨てるんだ?」
「わたくしは、人にはそれぞれ自分の役割があり、それを誠実にまっとうする事が大切だと考えていました。ですから、貴方の愛情を失っても、皇太子妃、そして皇后として帝国の為に尽くそうと思っていたのです。ですが、それすら叶わなくなり、マルタン王国へ送られました。わたくしはこの国で、処刑される運命だと思いました。しかしフェリックス様は、わたくしの事を愛していると仰って下さいました。そして本当に、愛情を注いでくださっています。何事も、わたくしを優先しようとするので、お諫めしなければならないほどに」
フェリックスの事をエリスは微笑を浮かべて話していたが、再び真顔でアレクシを見た。
「貴方に対して望んではいけない事と思い、しょうがない事とかたづけていましたが、いざ注がれてみると、愛情とはなんと素晴らしいものか。心が満たされ、心の底から本当に、この方の為になる事をしたいと思うのです。貴方がシャルロットを見て、心を奪われ、長年の婚約者で、帝国の未来を語り合ったわたくしをあっさりと捨てた気持ちが、今ならわかります。わたくしはフェリックス様だけを愛しております。わたくしの、全てをかけて」
「そんな……」
「他国からも沢山の貴賓を招待し、数日後に盛大に結婚式を執り行うというのに、なぜわたくし達の関係が戻る可能性があると思えるのですか?」
「エリスは僕を、ガルシア帝国を見捨てるというのか?」
「見捨てるも何も……わたしを必要ないと言ったのは貴方でしょう?」
これまでの他人行儀な話し方ではなく、子供の頃に語り合った口調で、エリスは言い聞かせるように話した。
「貴方が、わたしの手を離したのよ?」
「だからそれは間違いだったと反省して」
「でも、その事にわたしは感謝しているわ。そのおかげで、フェルと出会う事ができたんですもの」
次の曲は既に始まっていて、皆、止まっている二人を気にし、避けて踊っている。
「……貴方は貴方のやるべき事をして。貴方にも、ガルシア帝国にも、もう一切関わる気はないわ」
最後にそう告げると、エリスはダンスをする人々とぶつからないように気を付けながら進み、席に戻ろうとしたが……ふと振り返り、あたりを見まわした。
『……フェルがいないわ。シャルロットと踊っているのかと思ったけれど……シャルロットもいないわね』
「エリス様」
「ローラ」
少し不安な気持ちになったエリスに、最近男爵の爵位をもらったトマ・ユーゴーと結婚し、男爵夫人となったローラが囁いた。
「陛下はテラスに出でいらっしゃいます。シャルロット様も一緒です」
「……そう……」
少し迷ったが、エリスはローラに付き添われ、テラスに向かった。
動作が大きく、スピードが速い。
ついていくのが、そして転ばないようにするのが精一杯だ。
「や、やめ……もう……」
ようやく曲が終わり、体が離れると、アレクシは息を切らし、その場に座り込みたくなるのを必死に堪えてエリスを見た。
「……アレクシ様、いつまで子供のような事を言っているのです」
「エ、エリス……」
周りには聞こえないよう気を遣いつつも、エリスはハッキリとした口調で言った。
「長年貴方と踊ってきましたし、長年ガルシア帝国の為になる事を考えてきましたが、今のわたくしはもう、その頃のエリスではありません。マルタン国王、フェリックス・マルタンの婚約者です。数日後には正式に結婚し、王妃となるのです。わたくしが今愛しているのはフェリックス陛下、ただお一人。そして、その愛するフェリックス陛下の為に、マルタン王国をどこにも負けない強く豊かな国にする事が、わたくしの望みです」
「そんな……じゃあ、僕はどうなってもいいって」
「構いません。もう、貴方は関係のない人です」
「そんな……」
アレクシは、酷く動揺した。
自分が謝りさえすれば、エリスは感激してこれまでの事を許してくれるだろうと思っていた。
少なくとも、ガルシア帝国の為と言えば、見捨てる事はないだろうと。
「やっぱり君は怒って……」
「シャルロットの事は本当に、仕方のない事と思っています」
「じゃあ、どうしてこんな事を言うんだ? どうして僕を見捨てるんだ?」
「わたくしは、人にはそれぞれ自分の役割があり、それを誠実にまっとうする事が大切だと考えていました。ですから、貴方の愛情を失っても、皇太子妃、そして皇后として帝国の為に尽くそうと思っていたのです。ですが、それすら叶わなくなり、マルタン王国へ送られました。わたくしはこの国で、処刑される運命だと思いました。しかしフェリックス様は、わたくしの事を愛していると仰って下さいました。そして本当に、愛情を注いでくださっています。何事も、わたくしを優先しようとするので、お諫めしなければならないほどに」
フェリックスの事をエリスは微笑を浮かべて話していたが、再び真顔でアレクシを見た。
「貴方に対して望んではいけない事と思い、しょうがない事とかたづけていましたが、いざ注がれてみると、愛情とはなんと素晴らしいものか。心が満たされ、心の底から本当に、この方の為になる事をしたいと思うのです。貴方がシャルロットを見て、心を奪われ、長年の婚約者で、帝国の未来を語り合ったわたくしをあっさりと捨てた気持ちが、今ならわかります。わたくしはフェリックス様だけを愛しております。わたくしの、全てをかけて」
「そんな……」
「他国からも沢山の貴賓を招待し、数日後に盛大に結婚式を執り行うというのに、なぜわたくし達の関係が戻る可能性があると思えるのですか?」
「エリスは僕を、ガルシア帝国を見捨てるというのか?」
「見捨てるも何も……わたしを必要ないと言ったのは貴方でしょう?」
これまでの他人行儀な話し方ではなく、子供の頃に語り合った口調で、エリスは言い聞かせるように話した。
「貴方が、わたしの手を離したのよ?」
「だからそれは間違いだったと反省して」
「でも、その事にわたしは感謝しているわ。そのおかげで、フェルと出会う事ができたんですもの」
次の曲は既に始まっていて、皆、止まっている二人を気にし、避けて踊っている。
「……貴方は貴方のやるべき事をして。貴方にも、ガルシア帝国にも、もう一切関わる気はないわ」
最後にそう告げると、エリスはダンスをする人々とぶつからないように気を付けながら進み、席に戻ろうとしたが……ふと振り返り、あたりを見まわした。
『……フェルがいないわ。シャルロットと踊っているのかと思ったけれど……シャルロットもいないわね』
「エリス様」
「ローラ」
少し不安な気持ちになったエリスに、最近男爵の爵位をもらったトマ・ユーゴーと結婚し、男爵夫人となったローラが囁いた。
「陛下はテラスに出でいらっしゃいます。シャルロット様も一緒です」
「……そう……」
少し迷ったが、エリスはローラに付き添われ、テラスに向かった。
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