花好きカムイがもたらす『しあわせ』~サフォークの丘 スミレ・ガーデンの片隅で~

市來茉莉(茉莉恵)

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【9】 三年目の花が咲く キラキラは罪を生む

③ 【盗作の疑いあり ステマ注意】提言

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 その後すぐに、オーナーである父親に報告した。まだお客様がいたので父もすぐには美羽のそばに来ることが出来なかったが、かなりの動揺を見せていた。

 午後はずっと舞が美羽のそばにと屋内のリビングで付き添っていた。
 十八時の閉店になって、やっと父が美羽の元へと駆けつけてくる。

「美羽。大丈夫だったか。怖かったね」
「パパ」

 父の顔を見たらまた安心したのか、美羽がぽろぽろと涙を落とし始める。
 父が美羽の頭を優しく撫でながらなだめているそこで、舞は起きたことを細かく説明し報告をする。優大もやってきて、黙って舞の説明に聞き入っている。

「あー、先生にライバル意識を持ってるヤツが来ちゃったわけか。どれどれ、」

 優大が自分のスマートフォンを手にして、三島先生のアカウントからいくつかのアカウントを辿り始めた。

「そのプロフィール画面、どんなヤツだったか覚えているか」

 舞も優大のそばに行き、彼の手元を眺める。

「そいつ、この前の、美羽のイラストや後ろ姿の写真を見ているはずだから、『いいね』をしているか、なにか反応はしているかもしれない」

 先日の美羽のイラストの呟き画面から『いいね』をつけているユーザーアイコンを優大が並べる。ひとつ、見覚えのあるものがあった。オシャレなコスメやとキラキラした香水瓶のアイコン。見覚えのあるプロフィール画面。

『綺麗な景色が好き。皆様に癒やしとなるものをお届けします。綺麗なもの、かわいいもの、優しいもの、素敵な気持ちになるものが好き。ココロ満たすものはシアワセを運んでくる。札幌市在住』とある。優しげなその紹介とは裏腹に、アカウント主であるご本人からは険しい人柄しか感じ取れなかったから、舞はプロフィール画面との落差に唖然とする。

「SNSでキラキラさせて頑張っちゃうほど、撮影に対する貪欲さは尋常ではなく気性が荒っぽくなるのか、ライバルに勝ちたくて必死になりやすい性格なのかってところだな」

 そして、そのアカウントのタイムラインで思わぬものを見つけてしまったのだ。

【盗作の疑いあり ステマ注意】
 あの女性が僅かな隙を突いて連写した、美羽のイラストが掲載されていたのだ。

「なんだ、これ!」

 優大も一目見て激怒した。


【盗作の疑いあり ステマ注意】
とあるアカウントの先生が、道内某カフェで撮影したというイラスト。ターシャ=テューダーや坂本直行に似ていると紹介していたけれど、まんまパクリじゃないかと思える幼稚な絵。カフェオーナーが、お店の素敵度アップを狙って、インフルエンサーである常連の先生にSNSアップをしてもらうよう頼んだ仕込みじゃないのかなと思ったりして……。植物画で有名な作家の絵を真似て素材を作成した疑い。いいねをしたけど、巻き込まれたくないから静観中。


 残念なことに、すでに『いいね』が三百、リツイートも七十ほどついている。ぶら下がりのコメントには賛否両論。『模写から練習することもありますよ』、『盗作なんて最低。しかも自分の店宣伝用のステマのために?』、『これだけの情報での断定は逆にあなたが加害者になりますよ。調べて判定すべき』、『インフルエンサーを利用したステマ。認められているカフェならインフルエンサー使わない』などなど。

「はあ? よく調べもしないで勝手になに騒いでんだよ。いい大人が」

 酷い――。舞もそう漏らしそうになったが、とてもじゃないが美羽には見せられない。そのまま優大の腕を掴んで、ぐいぐいとリビングから外の廊下へと一緒に出る。

「なんだよ、舞! これ、こんな勝手なこと拡散しているんだぞ。盗作なんかじゃねえだろ。リスペクトだろ!」
「美羽に見せないで。私たちは大人でそうして折り合いをつけられるけれど、まだ十四の子供だよ。人の言葉を真っ正面から受け止めて、深く傷ついてそのままになるんだから。現に東京の父親とそうなって、ここに来たのよ。敏感で繊細な子なんだから」

 優大も我に返ってくれる。

「俺……、つい、」
「まあ、優大君らしいよね。すぐに感情的になるの。でも、私もいま腸煮えくりかえっている。同じように怒ってくれて、心強い」
「おまえ、怒ってんの? ずいぶん冷静じゃね?」
「そんなわけないじゃない。怒ってるよ! まだ子供の美羽の腕を無理矢理掴んで、強引に連れて行こうとしたんだよ! どれだけ美羽が怖がったと思ってるのよ。もう未成年に対する強要罪だからね!」
「うわ。おまえ普段はクールだけど、スイッチが入ったら大爆発するもんな。おまえのスイッチを入れるだなんて、余程のことだけど。でも俺もそう思うぞ!」

 せっかく抑え込んでいたのに、少し触れられたら爆発してしまった。でも優大もそんな姉としての怒りを重々承知で受け流してくれる。舞も、うっかり荒げた胸の波をなんとか抑え込む。

「私たち大人が冷静にいかないと」
「わかった。まず先生に連絡する」
「そうだね。これだと、先生まで嘘をついていたような書き方だもの。でもあまり大事にしたくないよね」
「大丈夫だろ。三島先生なら、そこのところ先生なら大人の対応で冷静に対処できるだろ。ご主人の三島さんも、大手銀行の重役だったんだろ。こういうトラブル対処も経験豊富だろうから、奥様と一緒になんとかしてくれるだろ」

 優大はもうスマートフォンの画面をフリックして、三島先生にダイレクトメッセージを打ち込んでいた。

 リビングを覗くと、父はとにかく美羽を慰めて、傷ついた心を優しく包み込むように語りかけている。

「人はね、思い通りにならない時に、その人がいちばん傷つくことを言って自分を正当化して安心しようとするんだ。美羽の絵が下手だと思うなら、載せたいとか、許可していないのに無理矢理に撮影したりなんかしない。興味があって価値があるからムキになって無理強いをしてきたんだ」

 父の言うとおりだった。興味がなければ価値がなければ、人はなんとも思わずに素通りしていくはずなのだ。

 その夜も美羽は、舞の部屋で一緒に眠った。
 それから美羽は暫く、庭に出なくなってしまった。当然のことだと、舞も心が痛い。
 


 翌日すぐに、三島先生がタイムラインにて、きちんと説明を掲載してくれた。


『こちらで投稿した植物画のイラストについてです。盗作と疑われているとフォロワー様からお知らせいただきましたので、ご説明いたします。お店の迷惑になると思い、詳細を省いてただ素敵だと思った画像をアップいたしました。スケッチは当カフェオーナーのお嬢様が描いたものです。誰が描いたと特定されないように致しました。未成年なので、彼女のイラストを掲載することも、お父様から許可をいただいております。未成年ですから、特定されないように詳細は伏せました。皆様が素敵と言ってくださったそのままの、絵が大好きな女の子が素直に描いたものです。盗作ではありません。彼女が赴くままに庭の花を見て自然に描いているものです。それだけは理解していただきたく、お願い申し上げます』


『お店の宣伝で商業的な目的で投稿したのではというお問い合わせについてもお答えいたします。私はこちらのカフェに通い始めて二年です。たくさんの方が来られる前から、親戚の家を訪ねた帰りに必ず寄っていました。嬉しいことにオーナーを始めスタッフの皆様にお顔を覚えてもらい、親しくさせていただいているのも本当のことです。ですが根底にあるのは、この出来たばかりの素敵なカフェを皆様にももっと知っていただきたいと応援する気持ちで投稿を繰り返してきました。長年のフォロワー様はよくご存じかと思います。この投稿についてのお店へのお問い合わせはご遠慮願います。わたくし自身へのお問い合わせにしてくださいませ』


『さらに同日に掲載しました羊の丘を眺めている女の子の画像も、今回は削除させていただきました。こちらのお子様がどちらのお子様であるかは明かすことはできかねますが、親御様から掲載許可をいただいたものでした。ですが許可をいただいたからとて、お子様を撮影したものは安易に掲載してはならないと改めて思わされました。わたくしの不行き届きです。反省を致しまして、今回こちらは下げさせていただきます。素敵だと思ってくださった皆様のお心の中に、丘が見えるガーデンの素晴らしい風情を残していただければ幸いです』


 香水瓶アイコンの彼女がなにをしたかなどは聞かされても一切触れず、美羽のイラストが盗作ではないことだけはっきり告げて、香水瓶の彼女を刺激したものは全てタイムラインから取り下げたのだ。だがタイムラインは三島先生のほうへと味方となる。

『どこの誰が描いたなんてわざわざ考えませんでした。とにかく素敵でしたし、お子様が好きで描いていたのなら、そのまま続けてほしいです。何故、そっと見守れなかったのでしょうか。たとえ大人が描いていたものだったとしても、疑いがあるなら、タイムラインではなくて、先生にDMでなりそっと問い合わればいいのに、わざわざ自分のところで盗作とか言い騒ぎにするのは卑怯だと思います』

『素敵なイラストだったから、自分もあの素敵なカフェでなにかを見つけて、先生みたいにいいねがいっぱい欲しかったんじゃないの。羨ましいから、あのイラストのことを余計に気にして、盗作とか言い出したんでしょ。まだ未成年の女の子が様々な先人のイラストに憧れて参考にすることなんてよくあることで、美術を勉強する過程でも模写という課題はある。わざわざあげつらったところに、あの人のコンプレックス丸わかり』


 多くの共感の声が書き込まれていた。それにも先生は一切反応することはなく、投稿されるままにしていた。


 さらに、香水瓶アイコンの彼女のところでは、逆に叩くコメントが相次いでいく。

『未成年が描いた絵に対して、安易に盗作と決めつけた。謝れ』、『盗作と思ったのなら、タイムラインで晒す前に、そっと問い合わせてみるなどの対処が出来なかったのでしょうか。なんでもかんでも決めつけるのはよくないと思います』など、当初に盗作の提言の波に同調したコメントも次々と削除されていったようだった。

 やがて。香水瓶アイコンの彼女が盗作提言のツイートを削除したことで、様々な声が収まっていった。

 三島先生から美羽へ直接の電話連絡があった。『美羽ちゃん、こんなことになって、ごめんなさい。先生、とっても軽率だった。でもね、美羽ちゃんのイラストを素敵と心から認めてくれた人々の気持ちを無にしないでほしいの。大好きだったら続けて欲しいの。先生はまた美羽ちゃんの絵が見たい。いつか一緒にお仕事したいわね』――。それだけで、美羽もなんとか笑顔を見せてくれるようになった。

 様々な人々が訪れる土曜や日曜日以外、人目を気にしなくても良い平日に、美羽はやっと庭に出るようになった。

 香水瓶の彼女も何事もなかったように、気に入った写真をアップして、素敵女子の生活に戻ったようだった。
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