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【4】名もなき朝の私《さよなら、先生》
23.NEVER GIVE UP!
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北海道 道南・函館地方 大沼国定公園。
駒ヶ岳の噴火により出来た、大沼・小沼・蓴菜沼からなる湖沼群。大沼にはたくさんの小島が浮かび、夏には睡蓮が咲き誇り、蓴菜も収穫される。
日暮山展望台からは、駒ヶ岳と大沼・小沼・蓴菜沼が一望できる。
今朝はここまで、蒼と一緒に動画配信のためにやってきた。
「よーし、ハコちゃん。準備はいいかな~」
「OKです。ダラシーノさん」
葉子はサングラスをかけて、大沼国定公園のパノラマ風景をバックにそこに立つ。
まだ少し肌寒いけれど、五月の爽やかな朝の風が気持ちいい。
今日は快晴、うしろの駒ヶ岳と新緑の森林、そして青い湖面が輝きずっとむこうまで広がっている大沼――。ラッキーなことに、素晴らしく見通しが良い天候で、大沼と駒ヶ岳の向こうには噴火湾の青い海も見えている。
ここが今日のハコの唄配信ロケ現場、最高の日和だった。
「いきますよ」
すっかりカメラマンが慣れてしまったダラシーノこと蒼くんが、テレビ局スタッフのように『3,2,1――キュー』という手合図をする。
葉子はいつもジョギングのついでに唄っていたので、だいたいはスポーツスタイルをしている。今日もその姿でギターを肩に掛け、カメラの前へ視線を向ける。
サングラスをしてから、姿をたまに出すようになった。
今日はその『たま』の日。
「ハコです。今朝は、大沼国定公園が一望できる『日暮山展望台』というところに来ています。今日は、天気がよく見晴らしも抜群、噴火湾まで見えています。なかなかないことなんですよ。北星さんが、お天気の神様を連れてきてくれたのかも」
蒼のカメラが、駒ヶ岳を左に、その山裾から雄大にひろがる新緑と青い湖沼群へとカメラを向け直す。
*すごい! これがいつもハコちゃんが唄っている大沼を上から見た景色!?
*北星さんが撮り続けた写真の全貌なんだね!
*活火山に、森林に湖、向こうには海まで見えるってすごい!!
*北星さんが、ハコちゃんの撮影を見守ってるってかんじがするね
コメントが入ってきている――という蒼からの伝達に、葉子も微笑む。
「いよいよ明日は北星さんの写真集発売日です。たくさんの予約もいただいておりまして、ご購入の皆様にお礼申し上げます。唄う前に、お知らせをいくつか――」
蒼のカメラワークがパノラマ景色から、告知をするハコへと戻ってくる。
「皆様、三年間、私の拙い唄を毎日視聴してくださって、ありがとうございました。北星の写真集発売をもって、毎日の配信はこれまでといたします」
*えーー! やめちゃうの、ハコちゃん!!
*いいよ。頑張ったよ! でもときどきでいいから声を聞かせて!!
*やっと声が元に戻ったもんね。最近まで唄っても前ほどの声量はもどってなくて、かすれ声だったし、ムリは禁物だから、いいよ。
「ときどき、また、唄もお届けしますし、リクエストもいままで通りに受け付けいたします。あとはダラシーノさん担当のレストランコーナーも続けていきます」
*ダラシーノ、ほんっとに北星さんの後輩だったんだね。この前のハコちゃん撮影のクレープフランベ、かっこよかった
*もうどこのレストランか公開して~。行きたい! ハコパパのお料理おいしそうだし、ダラシーノ、うるさいけど、なんとなく、かっこいい気がする~、デクパージュやってほしい!
*パティシエさんの賄いコーナー大好きです。続けてほしいです!!
*俺はダラシーノとハコちゃんの関係が気になる……
*気になる! でも触らないであげて!! このままでいいって
なんとなく皆さん察しているようだったが、葉子と蒼はまだ婚約中というだけなので、正式に言えるようになるまでは黙っていることにしていた。
そして最後に告げたいこと。
「そのダラシーノさんが、北星の後を引き継いだメートル・ドテルということは皆様に伝えたばかりなのですが。明日、発売の写真集には……、ダラシーノさんが神戸で北星さんから指導を受けていた時に、参考にと撮影していた姿も掲載されています」
*北星さんのお姿も拝見できるの!? 予約していて良かった!
*え、マジ――。迷っていたけどいまからぽちってくる!!
そこでダラシーノもカメラを構えたまま、声だけで割り込んできた。
「よろしくおねがいしまーす! めっちゃ怖い先輩だったんですよー。仕事では、ですよ。それ以外はすんごい優しい人でした。でも、怒るときの目が目が……、そういう、仕事の時のシビアな北星さんは僕の憧れだったんです!!! 見てください!!!!!」
*わ、ダラシーノ! また、うるさい!!
*なんでいっつもそんな声でかいのっ。音声ひび割れるときがあるんだけど!!
*北星さんに怒って欲しい
「メートル・ドテルは北星のもうひとつの『姿』でした。それも彼のもうひとつの生き様として、見届けていただけたらと思います。それでは――」
今日の唄は Kylee 『NEVER GIVE UP!』
情熱を握りしめていく生き方は、ひとつじゃない。
聴いて。秀星さん。
私はいまも、唄っている。
⇒本日は、楽曲リスト付き
⇒次回、24話 (最終回)《北星秀・写真集 エゴイスト》へ
※蒼、矢嶋社長、葉子、十和田シェフの秀星へのコメント付き
駒ヶ岳の噴火により出来た、大沼・小沼・蓴菜沼からなる湖沼群。大沼にはたくさんの小島が浮かび、夏には睡蓮が咲き誇り、蓴菜も収穫される。
日暮山展望台からは、駒ヶ岳と大沼・小沼・蓴菜沼が一望できる。
今朝はここまで、蒼と一緒に動画配信のためにやってきた。
「よーし、ハコちゃん。準備はいいかな~」
「OKです。ダラシーノさん」
葉子はサングラスをかけて、大沼国定公園のパノラマ風景をバックにそこに立つ。
まだ少し肌寒いけれど、五月の爽やかな朝の風が気持ちいい。
今日は快晴、うしろの駒ヶ岳と新緑の森林、そして青い湖面が輝きずっとむこうまで広がっている大沼――。ラッキーなことに、素晴らしく見通しが良い天候で、大沼と駒ヶ岳の向こうには噴火湾の青い海も見えている。
ここが今日のハコの唄配信ロケ現場、最高の日和だった。
「いきますよ」
すっかりカメラマンが慣れてしまったダラシーノこと蒼くんが、テレビ局スタッフのように『3,2,1――キュー』という手合図をする。
葉子はいつもジョギングのついでに唄っていたので、だいたいはスポーツスタイルをしている。今日もその姿でギターを肩に掛け、カメラの前へ視線を向ける。
サングラスをしてから、姿をたまに出すようになった。
今日はその『たま』の日。
「ハコです。今朝は、大沼国定公園が一望できる『日暮山展望台』というところに来ています。今日は、天気がよく見晴らしも抜群、噴火湾まで見えています。なかなかないことなんですよ。北星さんが、お天気の神様を連れてきてくれたのかも」
蒼のカメラが、駒ヶ岳を左に、その山裾から雄大にひろがる新緑と青い湖沼群へとカメラを向け直す。
*すごい! これがいつもハコちゃんが唄っている大沼を上から見た景色!?
*北星さんが撮り続けた写真の全貌なんだね!
*活火山に、森林に湖、向こうには海まで見えるってすごい!!
*北星さんが、ハコちゃんの撮影を見守ってるってかんじがするね
コメントが入ってきている――という蒼からの伝達に、葉子も微笑む。
「いよいよ明日は北星さんの写真集発売日です。たくさんの予約もいただいておりまして、ご購入の皆様にお礼申し上げます。唄う前に、お知らせをいくつか――」
蒼のカメラワークがパノラマ景色から、告知をするハコへと戻ってくる。
「皆様、三年間、私の拙い唄を毎日視聴してくださって、ありがとうございました。北星の写真集発売をもって、毎日の配信はこれまでといたします」
*えーー! やめちゃうの、ハコちゃん!!
*いいよ。頑張ったよ! でもときどきでいいから声を聞かせて!!
*やっと声が元に戻ったもんね。最近まで唄っても前ほどの声量はもどってなくて、かすれ声だったし、ムリは禁物だから、いいよ。
「ときどき、また、唄もお届けしますし、リクエストもいままで通りに受け付けいたします。あとはダラシーノさん担当のレストランコーナーも続けていきます」
*ダラシーノ、ほんっとに北星さんの後輩だったんだね。この前のハコちゃん撮影のクレープフランベ、かっこよかった
*もうどこのレストランか公開して~。行きたい! ハコパパのお料理おいしそうだし、ダラシーノ、うるさいけど、なんとなく、かっこいい気がする~、デクパージュやってほしい!
*パティシエさんの賄いコーナー大好きです。続けてほしいです!!
*俺はダラシーノとハコちゃんの関係が気になる……
*気になる! でも触らないであげて!! このままでいいって
なんとなく皆さん察しているようだったが、葉子と蒼はまだ婚約中というだけなので、正式に言えるようになるまでは黙っていることにしていた。
そして最後に告げたいこと。
「そのダラシーノさんが、北星の後を引き継いだメートル・ドテルということは皆様に伝えたばかりなのですが。明日、発売の写真集には……、ダラシーノさんが神戸で北星さんから指導を受けていた時に、参考にと撮影していた姿も掲載されています」
*北星さんのお姿も拝見できるの!? 予約していて良かった!
*え、マジ――。迷っていたけどいまからぽちってくる!!
そこでダラシーノもカメラを構えたまま、声だけで割り込んできた。
「よろしくおねがいしまーす! めっちゃ怖い先輩だったんですよー。仕事では、ですよ。それ以外はすんごい優しい人でした。でも、怒るときの目が目が……、そういう、仕事の時のシビアな北星さんは僕の憧れだったんです!!! 見てください!!!!!」
*わ、ダラシーノ! また、うるさい!!
*なんでいっつもそんな声でかいのっ。音声ひび割れるときがあるんだけど!!
*北星さんに怒って欲しい
「メートル・ドテルは北星のもうひとつの『姿』でした。それも彼のもうひとつの生き様として、見届けていただけたらと思います。それでは――」
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